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話が一段落すると、私は晩食時間までカロンを弾くと決めて練習部屋を目指した。

静かな廊下の窓からは輝き始めた月が綺麗に見える。


「この世界の月も前世に見ていたのとあまり変わらないな」


何だか急に懐かしさを覚えて、同時に前世よく聴いていた曲を思い出した。


「今ならアシュレイもいないし、久しぶりに少し歌ってみようかしら」


部屋に到着すると、鍵盤蓋を開けて椅子に座る。


前世の私は残念ながら事故で若くして亡くなってしまったが、それまでは至って普通の人生を送っていた。

結婚に憧れはあったが、恋愛にはなかなか踏み込めなくて結局叶わなかった。


過去の自分に思いを馳せながら、静かに息を吸って歌い出した。

カロンの伴奏に合わせて歌うバラードは、一段と私をしんみりした気持ちにさせる。

サビを歌い終わると前世で最後に見た家族の姿が蘇ってきて、ふと涙がこぼれた。


1曲歌い終えた頃、扉の前に気配を感じてハッとそちらを見る。

少し間を置いて中に入ってきたのは、何とも言えない表情を浮かべたアシュレイだった。


「もしかして聴いてた?」

「...さぁ」

「わかりやすい…」

「もしかして泣いてた?」

「...さぁ」

「ふっ、わかりやすい」


アシュレイは私の真似をしながらおどけて返してみせる。

間違いなく聴かれていたのだろう。


こちらの世界にはポップミュージックなんてものは無いから変な音楽だと思われたかもしれない。

説明するのも面倒だし、突っ込んで聞かれないといいなと思って私は話を逸らす事にした。


「手合わせはどうだった?魔武器が使えるとわかったのでしょう?」

「...確かに手応えはあったけど、なんか釈然としないんだよな」

「何が?」

「自分だけ武器を使って戦う事が。兄上は武器無しであの火力、なのに俺は武器がないとそこに追いつけない。逆に、もし勝てたとしてもそれは武器のお陰だ。それってなんか...カッコ悪くないか?」


思わぬ回答にふっと息が漏れた。


「...あんた今鼻で笑ったな?」

「なんでそんな事が気になるかなぁ」

「無視かよ」


私はアシュレイの方に体を向けて座り直した。


「貴方、この国のトップで活躍してるような魔武器使い達の事をカッコ悪いと思うの?」

「...いや」

「あの天才と言われるハロルド兄様でさえ使いたくても使いこなせなかったのよ?その稀に見る才能を、一体誰がカッコ悪いと言うの」


黙ってしまったアシュレイに私は続ける。


「誰が何と言おうと、貴方の持つ才能は素晴らしいものだわ。自信がないなら誰にも文句を言わせないくらい極めてみせなさい。それでもカッコ悪いと言う奴は、ぶっ飛ばしてわからせてやればいいのよ」

「...あんた、たまに貴族とは思えないほど口が悪いよな」

「貴方がくだらない事を言うから喝を入れてあげてるの」

「ははっ...さっきまで泣いてたくせに」


アシュレイはそう言って近付いてくると、私の鼻を軽く摘んだ。


「...なにするのよ」

「俺を鼻で笑った罰だ」

「っ、姉に向かって失礼な奴ねぇ」


私は鼻を摘んでいた手を払うと、そっぽを向いて方頬をふくらませた。

そんな私を見て、アシュレイは珍しく機嫌が良さそうにクスクスと笑う。

無視しようと決めて再び鍵盤に向き直った時、頭上から小さく声が降ってきた。


「ありがとうな」

「…え?」


反射的に顔を上げると、彼は少し目を細めて話を続けた。


「あんたが剣の事、父上に頼んでくれたんだろう?」

「...たまたま、思いついただけよ」

「なんだそれ」


小さく笑いながら初めて見るような優しい眼差しを向けるアシュレイになんだかドギマギしてしまって、私はサッと視線を落とした。


「俺、頑張ってみるよ」

「そう...応援してるわ、陰ながらね」

「普通に応援しろよ」

「どうやって?」

「歌って。さっきみたいなやつ」

「へ...?」


やっぱり聴かれていた。

いや、それより歌で応援とはどういう事だろうか。


「応援歌でも作れって?」

「それもいいけど、俺のために歌う歌が聴きたい」

「なにそれ...」


冗談かと思ったが、な?と言って念押ししてくるアシュレイを見て本気なんだと思い直した。


今日のアシュレイはちょっと変だ。


私は戸惑いを誤魔化すように気が向いたらねと返して、再びカロンを奏で始める。


アシュレイは晩食時間になるまで隣で静かにその様子を見守っていた。

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