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書斎にいた父にアシュレイに武器を試させてほしいと頼むと、彼は少し考える仕草をした後に面白いかもなと言って笑った。
「アシュレイにはまだ試した事がなかったか」
「ええ、私とハロルド兄様は使えなかったですからね」
「家では先代当主以来あれを使いこなせる奴は見つかっていないから、そろそろあれも使われたがっているかもしれんな」
父が執事に目配せして保管庫から持ってこさせたのは、立派な1本の剣だった。
それを受け取った父は慎重に剣を鞘から抜くと、刃の状態を入念にチェックしてから頷く。
「問題なく使えそうだ。少し説明が必要だろうから私が行こう」
「あら、お父様が自ら行かれるのでしたら私の出番はなさそうですね」
「なんだ、私が指導しているところを見るのは退屈か?」
「いいえ。けれどアシュレイはせっかく指導してもらっているのに私が居ては気が散ると言うでしょうから、きっと」
「お前たち、もう少し仲良くできないものか?」
「私は普通ですよ、アシュレイが反抗期なだけです」
父は仕方なさそうに溜息を吐くと、では行ってくると言って部屋を出た。
この世界では武器に魔法を纏わせて戦う、所謂魔武器使いと呼ばれる魔導師は極めて少ない。
魔法で何らかの形を作る事はそんなに難しくないが、物に魔法を纏わせる事自体が物凄く難しいのだ。
上手く纏わせる事ができたとしても、それを維持したまま戦うのは更に難易度が上がる。
私とハロルドも幼い頃にあの剣を持たせてもらった事があるが、私は疎かあのハロルドでさえ剣を魔武器として使いこなす事ができなかった。
魔武器を使う事ができれば、通常の魔法より速さ・威力が格段に上がる。
王族が傍に置きたがる程魔武器使いはかなり重宝されると聞くから、今の時点で優秀とされているアシュレイがもし魔武器を使えるようになったなら、相当な実力を発揮するに違いない。
姉にだけ反抗的ないつも憎たらしい義弟だが、日々努力しているのを知っている分報われてほしいと願ってしまうのだ。
「まぁ思いつきだったし、使えないとなんの意味もないけれどね」
けれど何故だか上手くいくのではないかという予感があった。
結果を聞くのが楽しみで、私は鼻歌を歌いながら自室を目指して歩き出した。
夕方間近になると、ようやくアシュレイ達が裏庭から引き上げてきた。
私と2人でお茶を楽しんでいた母が、戻ってきた父の満足げな顔を見て不思議そうに首を傾げる。
「随分熱心に取り組んでいましたね。何か良い事でもありましたか?」
「ああ、アシュレイが魔武器を使える事がわかったよ。我が家の未来は明るいぞ」
「まぁ、本当に!?凄いじゃない!」
報告を聞いて母も嬉しそうに声を上げる。
アシュレイは照れたようにはにかみながら、ありがとうございますと返した。
その手にはあの剣がしっかりと握られている。
私はただの予感が本当に当たってしまった事に、表面上は平静を装いながらも心の中では盛大にガッツポーズを決めていた。
やっぱりね!アシュレイには魔武器使いの才能があったんだわ。
気分は完全に賭けに勝った時のそれだった。
この才能を磨けば、彼はハロルドにも負けないくらいの魔導師になれるかもしれない。
全く、凄い兄弟に囲まれたものだ。
口元を緩ませちらりとアシュレイを見ると、タイミング良くバチリと目が合った。
…いや、なんで私には真顔?
もっと嬉しそうな顔しなさいよ。
思わず自分もつられて真顔になる。
そんな私たちには気付いてないハロルドが、アシュレイの肩に手をかけながら口を開いた。
「俺も頑張らないと、いつ負かされるかわからないな」
「まだ全然上手くコントロールできていなかったでしょう?兄上にはとても追いつけませんよ」
「お前には俺にない才能がある。これからだよ」
そう言って励ますようにポンポンと肩を叩かれたアシュレイは、頑張りますと返しながら困ったように笑った。