13
あれから2年。
吹く風は随分暖かくなり、アシュレイも無事に学園を卒業した。
程なくして式を挙げた私たちは、本日晴れて夫婦となった。
帰宅後穏やかに談笑を楽しむ中で、私は唐突にずっと聞きたかった事を彼に尋ねた。
「そういえば、どうして私の事を女神だと言うようになったの?」
「…気になる?」
「ええ、だって少なくとも以前は私の事を鬱陶しがっていたでしょう?」
向かいの席に座るアシュレイはそうだなぁと言って持っていたカップを置くと、ゆっくり視線をこちらに向けた。
「進むべき道を示して、誰よりも勝利を祈り鼓舞してくれた。愛し愛される幸福を教えて、狭くて小さかった俺の価値観を変えてくれた。セレスは間違いなく、最強で最高な俺の女神だよ」
そんな風に思ってもらえているとは想像しておらず目を見開く。
同時にじんわりと胸が温かくなるのを感じた。
反抗的だったあのアシュレイが、今では素直で柔軟に言葉を返すようになった。
婚約してからは特に、なるべく私を不安にさせないようにと真っ直ぐ欲しい言葉を伝える努力をしてくれている。
本当に、いい男に成長したなぁとしみじみ思った。
「けど、一番最初に女神だと思った瞬間は歌声を聴いた時だったな」
「歌声?」
「そう。声も歌い方も透明感があって、まさに女神のようだった。歌ってる姿もどこか神秘的で、それを俺が独り占めできてると思うと堪らなくなる」
「…初めて聞いたわ」
「でも薄々気付いてただろ?何度も歌ってほしいって強請ってたもんな」
言われてみれば、彼の態度が変化したのは歌を強請られるようになってからかもしれない。
「これからも俺だけのために歌ってほしい」
「それはいいけど…。もし、将来子供ができたら…その時は子供と一緒に歌ってみたりしたいわ」
その言葉にアシュレイはハッとしたような顔をした。
「そっか、子供か…」
考えるように小さく呟いた彼に、ピクリと手が反応する。
…もしかして、アシュレイは子供を望んでいなかっただろうか?
私の独りよがりだったとしたら…。
胸の中に微かに影が差し、カップを掴もうと伸ばしていた手を諦めたように下ろす。
しかしアシュレイは引っ込めようとしていた私の手をそっと掴むと、花が綻ぶように笑った。
「独り占めしてたい気持ちはあるけど、俺とセレスの子供なら天使みたいに可愛いに決まってる。子供と一緒に歌ってくれる日を楽しみにしてるよ」
「っ!」
その笑顔と言葉に心を奪われ、胸がきゅんと音をたてた。
ほら、こういう所なのだ。
たった一瞬で不安を吹き飛ばし、彼の事が好きだと再認識させられる。
私は湧き上がる愛しさを伝えるように、重ねられた手に自らの指を絡めた。
「っ、どうした?」
「…繋ぎたくなったから」
「なんだよ、そんな可愛い事言って…」
「駄目だった?」
「まさか、セレスから触れてもらえたってだけで嬉しい」
少し照れたように笑うアシュレイを見て、可愛いのはそっちの方だと思う。
こんな顔が見れるならたまには積極的であるのも悪くないと、私は珍しく自分から素直に想いを口にした。
「アーシュ」
「ん?」
「好きよ」
「っ!」
私の言葉にアシュレイが息を呑んだのがわかり、その様子にクスリと笑う。
すると彼は、はぁーっと長い溜め息を吐きながら繋いでいるのとは反対の手で顔を覆った。
「セレス…可愛すぎて無理」
「えぇ?」
「俺も好き。てか、俺の方がもっと好き」
言い切った彼に、私だって負けてないのになぁと少しむくれて見せる。
彼はそんな私の心情をすぐに察したようで、小さく吹き出すように笑った。
「わかりやすく負けず嫌いだなぁ」
「ふふ、そうね」
釣られるように笑うとアシュレイはそんな所も可愛いと言いながら微笑んで、繋いでいた手を軽く引いた。
誘導されるように立ち上がって彼の前まで来ると、ゆっくり立ち上がった彼に腰を抱かれる。
「これからは最愛のパートナーとしてよろしくな、俺の奥さん」
「っ!こちらこそ、末永くよろしくお願いします。私の旦那様」
見つめ合った後吸い寄せられるように唇が重なり、与えられる甘さに浸っていく。
幸せも不安も、共に分かち合いながら生きていこうと改めて誓う。
未来の幸福な家庭を思い描きながら、目の前の愛おしい存在をぎゅっと抱きしめた。
最後までお読みいただきありがとうございました!




