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「あいつ、ここの鍵持ってたんだな」


ようやく落ち着いた私を離すと、アシュレイの視線が下に移動する。

視線の先を辿ると、足元には大振りのキーホルダーが付いた見慣れた鍵が転がっていた。

そこには音楽室という文字が刻まれている。

恐らく先程の男子が倒れた時に落としたのだろう。

アシュレイは鍵を拾うと、それを私に見せながら言う。


「ここで話すのも何だから、とりあえず中に入ろうぜ」


その言葉に同意すると、彼は鍵を開けて先に教室内に入った。

続いて中に入ると夕日で照らされる彼の背中が見えて、眩しさに一瞬目を細める。

鍵をカロンの上に置いてこちらに振り返った彼に、私は思い出したように尋ねた。


「そういえば、怪我は?」

「すぐに回復魔法をかけてもらったから、もうなんともないよ」

「そう…良かった」


安心させるように笑ってみせたアシュレイにホッと息を吐くと、私は改めて彼の正面に立つ。


「さっきは助けてくれてありがとう。それと、優勝おめでとう。ハロルド兄様にまで勝ってしまうだなんて…本当に、よく頑張ったわ」

「正直めちゃくちゃ必死だったからな。この機会を逃したら一生後悔するところだったから…。学園に戻ってきてからあんたを探してたんだ、無事に助けられて良かった」

「え?」

「聞いてほしい事があるって言ったろ?」


アシュレイは一度目を伏せて一呼吸置いてから、真っ直ぐに私を見つめた。


「好きだ」


そのたった一言に息を呑む。


「父上と母上には何度も何度も頼み込んで、あんたの婚約者の件は待ってもらってたんだ。それでも兄上だけはどうしても説得できなかった」

「どうしてそんな…」

「俺が、どうしてもあんたの一番になりたかったから。だけど兄上は、守る力もない弱い奴には俺の大事な妹を任せられないって。唯一納得させる条件が、あんたが学園を卒業するまでに俺が兄上を倒す事だった」


初めて聞かされる真実に目を見開く。

私の知らない所でそんな約束が交わされていたとは想像だにしなかった。


「今日、ようやくスタートラインに立てた。自分の気持ちを口にする事を家族に許してもらえた」


真剣な瞳から目が離せなくなる。


「セレス、俺の最愛の女神」

「っ、」

「どうかこの手を取って、俺と結婚してくれないか?」


これは現実なのかと疑ってしまいそうだ。

まさか本当にアシュレイが私との結婚を考えてくれていただなんて思わなかった。


嬉しさがじわじわと胸に滲んでくる。

それでも私は、一番気がかりな事を切り出した。


「貴方、他に親しい方がいるんじゃないの…?」


私の言葉にアシュレイは一瞬ポカンとした後、思いきり顔を顰めた。


「馬鹿言え、俺があんたを手に入れるためにどれだけ動き回ってきたと思ってるんだ。他の奴に構ってる暇があると思うか?」

「けど…仲が良さそうに女の子の髪を触ってたわ」

「は…?」


彼は記憶を辿るように少し考えた後、あぁと言って再び口を開く。


「確かに、頭についた塵を取ってやった事はあったと思うけど…もしかして、それを見てた?」

「…うん」

「もしかして、妬いてくれた…?」

「っ、…うん」


今度はアシュレイが息を呑んだのがわかった。

恥ずかしさで俯く私の顔を覗き込み、焦がれたように言う。


「あんなの、髪を触ったうちにも入らない。俺が好きなのはセレスだけだ」

「…うん」

「素直に聞かせて、セレス。俺の事どう思ってるのか」


ドキドキしすぎて心臓が痛い。

なかなか勇気が出なくて瞳が潤み始める。

だけど、ここまでされて逃げられるはずもない。


「…アーシュ」

「!…うん」

「私も、貴方が好き…」


ようやく出た声は掠れるような小さなものだったが、アシュレイにはちゃんと届いていた。

彼は顔をくしゃっと歪めると、掻き抱くように私を引き寄せる。


「やっっと、俺の所に落ちてきてくれた…」

「っ、」

「やっと、想いが通じた…っ」


震えるアシュレイの声に、我慢できず涙がこぼれ落ちる。

義弟を好きになるのは間違いだと、ずっと自分の気持ちに蓋をしてきた。

しかし今初めて、自分がどれだけアシュレイの事が好きだったかを自覚した。

彼の背中に手を回し、ぎゅっと力を込める。


「っ、やばい…想像以上に嬉しい」

「っ…」

「大切にするって約束するから、ずっと俺の傍にいて…?」

「…うんっ」


私の返事を聞いたアシュレイは、一度腕の力を緩めると熱を帯びた瞳でこちらを見つめる。

涙で濡れた私の頬を優しく指の腹で拭い、その手がそっと頬に添えられた。

そのまま吸い込まれるように顔が近付き、柔らかく唇が重なる。


息って、どうやってするんだっけ…?

きゅんきゅんが止まらなくて溺れてしまいそう…。


必死に彼に縋りついていると、最後に音を立てて唇を離したアシュレイがふわりと笑った。


「…顔真っ赤、可愛い」

「っ、」

「はぁ…癖になりそうなくらい幸せ。帰ったらまたしてもいい?」

「…ばか」

「嫌…?」

「…嫌じゃ、ない」


小さな声でなんとかそう返した私に、アシュレイはやっぱり可愛いと言って愛おしそうに笑った。

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