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迫る手

作者: 雉白書屋

 ある夜、女は自室のベッドの上で目を覚ました。

暗い。まだ夜中だ。でもなんだか目が冴えている。何か飲み物でも飲もうか。

そう思った時だった。

 

 体が動かない。


 ……金縛り。そう理解すると途端に恐怖が込み上げてきた。

天井を見つめながら動け、動けと念じる。


 ……動いた。

……・のは自分の体ではない。

天井。そこからゆっくりとまるで早送りで芽の成長の映像を見ているかのように

腕が生えてきたのだ。


 幽霊。しかし恐ろしいのはそれだけではない。

その手が握っているのは包丁。それがゆっくりと降りてくる。


 いや、やめて……。


 女はそう口にしようとしたが未だ金縛りは解けない。

それでも必死に抗おうと体を動かす。

包丁はゆっくりと、しかし確実に降りてきている。

まるで蜘蛛の下降。

下へ下へと、そして包丁は仰向けのまま動けない女の視界の下

体の上、パジャマの中に沈もうとしていた。


 いや、いや、いや、いや! いやあああああ!


 女の慟哭は体の中に留まったまま出て行こうとはしない。

 だが、わずかに体が動いた。

それを糸口に女は体を動かそうと強く念じた。


 早く、早く早く早く早く! ああ! 早く! 殺されてしまう! 早く早く……


 体を縛る幾重もの細い糸を一本一本、体のみで引き千切る感覚。

ぷつん、ぷつんと。

それは頭の中のイメージか。それとも包丁が体を、血管を切ったものなのか。

確かめようにも顔は動かせない。そしてその勇気もない。

女は目を閉じ体が動くように、ただただ強く念じ続けた。

 

 そして、ついに女の体が動いた。

女はベッドからぐるんと転げ落ち、床で頭を打った。


 ……やった。あの手から逃れた。

ぼんやりした意識の中、女はそう安堵した。

腹部に抱いている違和感に意識を向けないようにして

しかし、そう不安に思うことはなかった。

 光。朝が来たのだろうか、眩い光とそれに声。

それはどこか遠くの方から、意識の覚醒と共に近づくように聞こえた。




「な、どうしてだ! 麻酔の量は!?」

「い、言われたとおりにちゃんと」

「不味い、出血が! 早く台の上に戻すんだ! ああ、早く!」

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