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第88話 その一・圧迫筆記試験

タイトルからも分かる通り(?)、今回はギャグに振り切ってます。

試験編とか、真面目にやってたらリアルすぎてつまんないので。

「ご迷惑おかけして、本当にすみませんでした!」


 僕は、頭を下げて本気で謝った。

 最近謝ってばかりな気がするけど、気の所為ということにしよう。


「いや……別にいいんだよ、これくらい」


 僕が謝った相手は、ライトグリーンの珍しい髪色をした少年。僕と同じ受験生らしいから同い年なんだろうけど、僕の数倍は垢抜けていて大人っぽいイケメンだ。不思議なゴーグルを付けた姿も割とサマになっている。


 彼は後頭部を掻きながら、さらっと僕の謝罪を受け流した。

 

 だが、誰がなんと言おうとも、彼には借りがある。

 “迷子”になった僕を見つけてくれたという、借りが。


「それより、なんかごめんな。名前大声で叫んじゃってさ」

「ああ、そのことなら、全然……」


 僕はさっきまで、彼らに迷子として捜索されていた。

 迷子センターのアナウンス風に名前を呼ばれながら。


 この年になって、どうしようもなくみっともないとは思う。

 正直、恥ずかしかった。


 入学試験開始早々、こんな……


(……ていうか、迷子は僕じゃないんだけど!?)


 その点だけは、僕は異議を申し立てたい。

 僕を立派な迷子に仕立て上げた、犯人(ナーシャ)に。


「まあ、見つかったんだし……よかったでしょ」


 ちゃっかり場を収めようとしているナーシャ。

 可愛いから許すけど。


「でも、これなら……わたしのナビもいらなそうだね」

「え?」

「おお、なるほど。よかった、オレも丁度知り合いがいなくて困ってたんだ」

 

 救世主の彼は、ぽんと手のひらを叩いた。

 そして自然な動作で、僕にその手を差し伸べてくる。


「自己紹介がまだだったな。オレはノイシュ――ノイシュ・ヴァインベルグ」

「えっと……ヒズミ・ユイト、です。よろしく」

「おう、知ってるぜ。これでお前とも、縁ができた!」


 がっちりと、僕たちは固い握手をかわした。

 まあ、知り合いができたという点では結果オーライなのか。


「それじゃ、わたし帰って寝るね」

「うん、気をつけてね」

「……ノイシュお兄ちゃんも、ありがとう」

「お、おう! またな!」


 

 

   ***


 

 

 ややあって、僕とノイシュは会場へと向かうことにした。


 本日一つ目の試験は、『筆記試験』。

 僕は予定通りなら、数学・魔法基礎・探索者理論基礎の三科目を受験する。


 中でも、唯一の苦手科目であった魔法基礎。

 この二週間、古代ゲヘナ語の読みはリーファとの特訓でなんとか克服できたし、各属性の基礎魔法の詠唱文は筋トレを交えながらでそれなりに暗記できた。不安要素はほとんどないと言ってもいいくらいに。


 試験対策に関しては、なんら心配はない。


 ――ただ、たった今、一つ不安が生じた。

 


 

「待って……『薬剤準備室』ってどこ?」

「んー……中棟一階の一番端だな」


 僕とノイシュは、校内に貼ってあった校内案内図を眺めていた。

 そこにはご丁寧に、各階の教室の場所が示されている。僕の試験会場である『薬剤準備室』は、たしかに中棟一階の左端に位置していた。


 けど、何かがおかしい。

 

「ごめん……もう一回聞くけど、()()()()()『大講義室』なんだよね?」

「おう、そうだな」


 問題発生。


 

 

 ――僕だけなぜか、試験会場が違う!!



 

 ノイシュたち普通の受験生なら、試験会場は校内で一番広い教室の『大講義室』。第一と第二に分かれており、二つもあれば、この数の受験生も全員一斉に試験を受けることができそうだ。


 ……僕以外の受験生は。


「なぁ、ほんとにその教室なのか?」

「うん……受験票にはそう書いてあるから、間違いはないはず」 

「そうか……まあ、おつかれ。お前のことは忘れないよ」

「……猛烈に嫌な予感がする」


 薬剤というワードが入っている時点で、怪しさ満点だ。

 誰の計らいか知らないけど、不安しかない。


 どうか、この嫌な予感が当たりませんように。

 そう願いながら、僕はひとまずその教室へ向かうことにした。



  

    ・・・




 一人心細い気持ちで、僕は『薬剤準備室』についた。

 予想通り、僕以外に受験生は見当たらない。


 ピンチだ。


「とりあえず、入ってみるか……」

 

 緊張しまくりながら、引き戸に手をかける。

 変な動悸が収まらない。

 

 意を決して、僕はドアを開き切った。


 果たして、そこに居たのは。



 

『ようやく来たナ、ヒズミ・ユイト。準備は万端カ?』




 リンドウさんばりにガチムチな、黒服の男だった。

 それも、五人。


 ――なぜ、五人も?

 

「へ……?」


 思わず、変な声が漏れた。

 腕組みをして佇む五人のうちの一人が、沈黙を破るように口を開く。

 

「我々ハ、非常勤講師の〈バイオレンスブラザーズ〉ダ」

「は……?」

「いつもは五人で戦術面での授業を受け持っているガ、学長の命を受けてキサマの試験監督をすることになっタ。よろしく頼ム」

「試験、監督……? あの、これ、筆記試験ですよね……?」

「そうダ。ひとまず、その席に座レ」

 

 彼らの言っていることは何一つ理解できなかったけど、僕は指定されたその席に大人しく座った。狭い教室の中には、『薬剤準備室』と言っておきながら机と椅子の他には何もない。おそらく、使用されていない空き教室だったのだろう。


 五人の試験官で、圧迫感だけは満載だけど。

 というか、彼らに逆らったら最悪殺されそうな気がする。

 

 あとバイオレンスブラザーズってなんだ。ネーミングが物騒すぎる。


「まずは数学ダ。この砂時計一回分を試験時間とすル」

「あ、はい……」


 バカでかい砂時計が目の前に現れる。

 確か、本番の試験時間は50分だ。


 なにはともあれ、やるしかな――


「……あの、待ってください」

「何ダ」

「近くないですか?」


 僕の周りを、いつの間にか五人は取り囲んでいる。

 不正は許さんとばかりに、至近距離で手元を覗き込んで。

 

「問題はなイ。これで行ウ」

「まじですか……?」

「でハ、行くゾ――」




「「「「「――――試験開始ィィィィィィィィィィィィ!!!!!」」」」」




 悪夢が、始まってしまった。

 五人の黒服の男たちに囲まれて、僕はペンを走らせる。


 常に彼らに、圧をかけられながら。

 多大な重圧ありの筆記試験が、幕を開けた。


(いやこれ、どういう試験……!?)


 


   ***




 ユイトが過酷な試験に挑んでいる、その同時刻。

 一方の、“仕掛け人”サイドは。


「フフフ……()()()試練、君は突破できるかな?」


 学長室でひとり、黒い笑いを浮かべていた。

 アランは窓外の景色に目をやり、独り言を連発する。


「第一の試練、“圧迫筆記試験”! インパクトの強すぎるあの五人衆に囲まれるという“極限状態”での集中力が試される! あの五人のかける重圧(プレッシャー)にどれだけ集中を保てるか……これは見物だっ!! ハハハ!!」


 大人気なく、高らかに笑うアラン。

 その盛大な独り言も、やはり聞いている者がいた。


「……莫迦(ばか)なのか、君は」


 心底呆れた目で、銀髪の麗しきエルフ――リヴェルナは彼を見遣る。

 アランの独り言にツッコミを入れるのは、最早彼女の役目だった。


「筆記試験ならば、通常通り実力を測るだけで良いだろう。余計な邪魔をする必要もない。なのになぜあの五人衆を投入した? 甚だ疑問なのだが……」

「ええ……ですから、集中力を測るための軽いテストですよ」

「一応聞くが、君は一度でも、あの絵面を想像したのか?」


 リヴェルナは疲労感から、深い溜め息をつく。

 そして自身の想像する絵面を、そのまま言葉にした。


「尋問みたくなっているぞ、おそらく」


 ユイトの置かれた状況は、大方彼女の想像通りとなった。

 

「ははは! そうですね、そうなるでしょう!」

「笑い事ではない……。はぁ……ひたすら彼が不憫でならないな」

「ええ。ですが、これも彼を試すためのテストですから」

 

 後ろで手を組み、アランは大窓に近づいた。

 あれだけいた受験生たちの集団は、もう見当たらない。

 

 それもそのはず、他の受験生たちも筆記試験に励んでいる頃だ。

 

「ああ、それとリヴェルナ先生」

「……何だ?」


 アランは背後を振り返り、リヴェルナに向かって微笑む。

 その表情はやはり、何かを企んでいるようだった。


 

 

「――()の試験でのご協力、お願いしますよ」

 


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