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第5話 天使様は案内人

 もう、正直に言う。


 僕は帰りたい。天国に。死んだままでいい。

 それなのに僕は、何で意味も分からないまま異世界に飛ばされてしまったのだろう? 


 行きたいなんて一言も……

 まあ、今更感はあるけど。


「え、冒険嫌なんですか……?」


 そして天使を名乗る少女――ラファエラは今戸惑いに戸惑っている。

 年相応(?)に動揺を見せてハテナマークを浮かべる姿も、それはそれで可愛い。あと、ここまで天真爛漫に疑問を持たれてしまうと断れない……。


「嫌だよ。僕だって望んで来たわけじゃないし……」

「あれ? 確かに神様は唯都さん自身がノリノリで異世界転移をお望みだと仰っていたんですが……」


(あのクソ神……)


 話が違うじゃないか!

 ノリノリだったのは『だが断る』のくだりだけだ。


「そんなわけないでしょ。もうすぐにでも天国に戻りたいくらい」

「えぇええええ!? そ、そんなこと言われても困りますよ!」

「誰が?」

「わたしが!」

「何で?」

「物語が進まないからです!」

「それ作者の都合だよ!」


 天使なのにメタ発言しないでほしい。

 ここまで自殺を阻止されるなら、かくなる上は――


「わかったよ……ちゃんと遺書()けばいいんでしょ?」

「そういう問題じゃないです! お願いですから死のうとしないでください!」

「ダメなの……?」

「ダメです」

「ダメか…………くっ、もう殺せ……」

「女騎士風にせがんでもダメなものはダメです」


 くっころが異世界で通用しないのは本当らしい。

 ということは、僕には拒否権も死ぬ権利もないってこと? それこそ異世界ハラスメントじゃないか? 


「そんなこそより、一緒に異世界冒険しましょうよ! ね、唯都さん!」

「うぅ……僕の拒否権はどこへ……」

「とりあえずスキルで無双しとけば楽しいもんですよ! ほら、行きましょう!」


 座り込む僕の手を掴んだ彼女は、ずるずるとどこかへ僕を引きづっていく。意外と力が強い。色んな意味でやばいぞこの子。


「嫌だ……頭痛めまい吐き気下痢腹痛その他もろもろを今の一瞬で発症した……」

「そんなものは知りません!」

「鬼か」

「ほら、あれがわたしたちの目指す最初の街です!」


 意気揚々とした表情で彼女が指さす先。

 そこにはたしかに、周りを城壁のような壁で囲まれた大きな街があった。


 ……けど。




「――いや、遠い!! スタート地点が不親切!!」




 軽くここから3kmくらいありそうなんだけど?


「歩けば1時間はかかりません! さぁ行きますよ!」

「初っ端から重労働すぎる……!」

「行・き・ま・す・よ?」

「わかった! わかったからロープで連れてこうとするのやめて!? 初期のピカチュウじゃないんだから!」

 



   ・・・




 高くそびえる市壁の前で、僕たちは立ち止まっていた。

 円形に街を囲っているらしいその壁の入口、鉄で補強された木製の分厚い扉が開け放たれた門の目の前だった。


「ここがいわゆる、唯都さんにとっての『はじまりの街』テンペスタです」


 隣で地に足をつけず浮遊する天使、ラファエラは僕と同じく市壁を見上げていた。


 あれから結構歩いて、僕らは何もなかった草原地帯からこの街まで辿りついたのだった。道中、荷台にたくさんの積荷を積んだ馬車と何度かすれ違った。それから鑑みるに、この世界の文明レベルは予想とはあまりかけ離れてはいないみたいだ。


「さあ唯都さん、準備はいいですか?」


 そう言いつつ自身もワクワクしている様子のラファエラに、息切れしまくりの僕は物申す。


「すっっっっっっっっごい疲れた」


 結構、というかめちゃめちゃ歩いた。なのにラファエラは天使だからなのか、ふわふわ浮いたままここまで来たのだ。たぶん1ミリも労力消費してない。


「よく頑張りました! 唯都さんえらいです!」

「一歩も歩いてない人に言われたくない……」


 クソが。

 それでも、ここまで歩いてきたからには街に入ってみることにする。


 門から市壁をくぐり抜けると、その先で待ち構えていたのは見慣れない類の建物とその間を行き交う様々な種族の人々。その光景に慣れるまで、少し時間がかかったほどだ。


 まず、建物。

 石造りの地面の上に建つ店や住居は造りが古くて、歴史の教科書で見たような中世ヨーロッパ風。現代みたくコンクリートの壁面なんてものは当然なくて、どれも均一に同系統の木材や石材でまとめられている。


 日本の住宅街とはまた違ったよさがあって、遠目で眺めていてもその連続性の美しさに見ていて飽きなそうだ。


 そして人々の種族――


「へぇ、すごい……」


 語彙力が削り取られる。小並感しか出てこなかったけど、やっぱりすごい。

 街ゆく人々の半分ほどは、僕と同じ人間だ。でももう半分は亜人、ゲームでしか見ないような風貌をしている。


 背は低いものの重そうな丸太を運んでいる屈強なドワーフ、犬耳や猫耳とフサフサのしっぽを生やした半獣人、細長く尖った耳を持つ美形のエルフ……などなど。


 見ているだけで、その多岐にわたる人々の容姿に驚かされる。


「……唯都さん?」


 数秒経ったくらいで、ラファエラが僕を呼んだ。

 目にした光景に固まる僕を、不思議そうに見つめながら。


「なんか……すごい」

「おや? クレーマーな唯都さんが異世界に感銘を受けておられる?」

「美少女がいっぱいいる……」

「ちがった!! 美少女に釣られただけだった!!」


 まあもちろん冗談だけど。

 そんな僕の冗談に、ラファエラはどういうわけか拗ねたように突っかかってくる。


「もー、美少女だったらここにいるじゃないですか!」

「え、どこ?」

「ここです!」


 やたら可愛げのあるポーズをとるラファエラは、やっぱり自己主張強めなのかもしれない。でもなんかそれはそれでかわいいから、僕は無視してみる。


「…………」

「…………」

「ラファエラ、」


「む、無言で見つめないでください! 恥ずかしいです!」


「お金を稼ぐにはどうしたらいい?」

「お、お金ですか?」


 勝手に根負けして赤面するラファエラはさておき、僕は脈絡なく真面目な質問を投げかける。


「そう。ここで暮らしていくなら、働き口が必要かと思って」


 もちろん、気が進む訳じゃない。

 今はひとまず、こっちのお金は一銭も持ってないから稼ぐ手段が最優先だと思った。仕事をしないで物々交換の旅に出るのも、それはそれでアリかもしれないけど。


 気が動転していた様子のラファエラは、一呼吸置いてコホンと咳払いする。


「お仕事でしたら、やっぱり冒険者ギルドに行ってみるのが一番じゃないですか? まあ、ダンジョンがあるこの世界では『探索者』と呼ばれているらしいですが」


「え、その探索者ってやつで固定なの?」

「? 男の子だったらそうだと思ってたんですが……」

「君は男の子を何だと思ってるの」


 彼女の思い浮かべる典型的な男の子のイメージに、僕は疑念を抱く。確かに合ってはいるんだけど……典型的すぎるというか。


「最近はもっと、いろいろあるでしょ。鍛冶師になったりとか、辺境でスローライフを送ったりとか……」

「ほえぇぇ……?」

「何、ほえぇぇって……」


 やっぱり天然だこの子。

 思わず熱く語ろうとしてしまったけど、気を取り直して。


「でもっ、なんたって唯都さんにはSSランクの初期スキルがありますから! 探索者になれば活躍間違いなしですよ!」


「そ、そうだね……」


 やたら探索者を勧めるラファエラのゴリ押しに、呆気なく敗北。

 そんなこんなで探索者を目指すことになった僕の次の行先は、探索者ギルドだ。

 




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