表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/115

第56話 マ?

 眩しいくらいの日差しが、アーディアの街並みに照りつける。

 

 日光をふんだんに浴びながら、僕は行く宛もなく歩いていた。

 学生寮を出てから早一時間、どこに寄ることもなくただひたすらに南のメインストリート付近を練り歩く。

 

(街まで来たはいいけど……)

 

 すれ違う人々の顔を、つい見つめてしまう。

 ひょっとしたら自分の知っている人なんじゃないか、と淡い期待を抱きながら。

 

 けれどその見当違いな期待は、返って僕を虚しくさせるものでもあった。

 

(どこに向かって歩いてんだ、僕は……)

 

 目的地も決めず、なんとなく気になった場所を巡る、気まぐれな旅。


 ……のはずだったけど、生憎未だに僕の記憶に引っかかる場所は見当たらない。

 

 リーファからはさっき、「病み上がりなんですから無理は厳禁ですよ」と遠回しに心配された。

 そこまで体力の衰えは感じていないけど、もし街中で倒れたりしたらたしかに大変だ。

 

 だから僕は、いきなり最終手段を取ることにした。


 


「とりあえず、手がかりならなにかしらここにあるはず……」

 

 僕がたどり着いたのは、探索者ギルド南支部だった。

 僕は記憶を失う前、探索者として戦っていた。現状、自分についてわかっているのはそれくらいだ。

 

 でも逆に言えばそれは、ここに来れば何らかの情報が得られるということでもある。

 

 以前の僕の戦いぶりだとか、仲間のことだとか、なんだっていい。

 連鎖的に記憶を引き出す引き金になるような情報があれば、一番いいんだけど。



 

「はーい、受付はこちらでーす。なんの御用でしょーか」

 

 とりあえず受付に向かうと、茶髪の男の人が応対してくれた。

 けどなんというか、気だるげでやる気がなさそうだった。

 

 こういうのって普通、美人の受付嬢の人が接客するものなのでは。

 

「えっと、ステータスの記録の更新? をしたいんですけど……」

「ステの更新っすね、わかりやしたー。探索者様のお名前は?」

「ヒズミ・ユイトです」

「へー、なんか珍しい名前すね……って、お前、あのヒズミ・ユイトかよ!?」

 

 突然、茶髪のお兄さんが目の色を変えて僕の顔を覗きこんできた。

 面識があるわけでもなさそうだから、ちょっと驚く。

 

「な、なんですか……?」

「あ、いや悪い……なんか、聞いてたのと違うなって」

 

 意味深な誤魔化し方をしながら、彼は近くにあった書類の山を漁り始める。

 急に砕けた感じの喋り方になったけど、こっちの方がこの人は自然な口調な気がした。

 

「ヒズミ・ユイト、か……そういやお前、ここ最近一週間ぐらい行方不明だったらしいな」

「えっ? ああ、そういえばそうですね」

「フーカ……お前の担当が心配してたぜ。もう戻ってこないんじゃないかってさ」

 

 やけに他人事っぽく、お兄さんは言った。

 手持ち無沙汰でカウンターの前で待たされながら、僕はお兄さんに話を合わせていた。

 

「何があったかは知らねぇけどさ、お前のこと心配してくれてる人もいるってこと、忘れないほうがいいんじゃねーの? 他人に迷惑かけないためにもさ」

 

 説得力があるかと言えばそうでもなさそうだけど、正論なのは間違いなかった。

 

 考えてみればおおよそ一週間、探索者としての僕はここに姿を見せなかったわけだ。死んだと断定するには微妙な期間であっても、僕と関わってくれていた人にはきっと、少なからず心配をかけている。

 

「そう、ですよね……。あの、その人と今、話せたりしますか?」

「うんにゃ、今はちょっといねぇな。ああそれと、その関係で今はステ更新もできないっぽいわ、悪い」

 

 ……それを先に言ってほしかった。

 

 でも少しだけど、手がかりは掴めそうだ。

 その僕の担当の人とやらと、ひとまずは会ってみることにしよう。


 今いないとなると、出直すことになりそうだけど。

 

「ていうかお前、パーティメンバーはどうしたんだよ?」

 

 改めてお兄さんに訊ねられ、僕ははっとした。

 

「――パーティって、僕、パーティ組んでたんですか!?」

「は? そりゃまあ、そうだろ」

「そのメンバーって、誰ですか? どんな人ですか?」

「はぁ? いや知るかよそんなこと!」

 

 面倒くさそうにキレられた。たしかに、聞く相手を間違えたかもしれない。

 

 いくら自分の記憶に関わることだからといって、勢いのまま他人を困らせるようなことを言うべきじゃなかった。

 

「お前、マジで大丈夫かよ? ヤバいもんでも食ったのか?」

「い、いえ、大丈夫です……その、ダンジョンから帰ってからなんか記憶が曖昧になってるみたいで」

「全然大丈夫じゃねぇじゃねーか! そもそもお前、それで今までどうやって生活してたんだよ!」

 

 よくわからないうちに、会話が漫才みたいになってきた。

 そしてお兄さんのツッコミが意外と適確だ。

 

「今までは……猫人族(キャッタリア)の女の子に拾われて看病してもらってたみたいで」

「なんだそれ羨ま…………って待て、一応聞くけどそいつの名前、なんだ?」

「たしか、リーファ・クインクレインって子ですけど……」

 

 そこで、会話が一旦途切れた。

 お兄さんは一瞬無言になり、それからしばらくして間の抜けた一言を発した。


 

「……マ?」




 

 

 

マ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れさまです。 これは、アレですよね。 ラックの「マ?」と後書きの「マ?」を繋げて 「ママ」 これは、ラックの母親がリーファである伏線なんですよね。わかります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ