第52話 第三学園
〈反省文〉
色々あって投稿時間遅くなりました。
以後気をつけます。
「お、なかなかいいんじゃない?」
鏡に映るレイチェルさんの嬉しそうな表情。
その隣に映る、椅子に座った僕の姿。
「そう、ですね……思ったより、いい感じです」
鏡の中の僕の白黒の髪は、少し短くなっていた。
思いっきり目にかかっていた前髪は程よい長さで整えられ、結べるほどあった後ろ髪も、クセの出ない程度に切りそろえられている。違和感なく仕上がった自分の髪型に、僕は感動さえ覚えた。
「そう? よかった~。ボク、男の子の髪切るのって初めてだったからさ……」
「そうだったんですか? それにしてはすごく上手な気が……」
正直、僕は彼女の腕を疑っていた。レイチェルさんも冗談半分だろう、とさえ最初は思った。
けど、世の中には不思議なこともあるもので。
レイチェルさんの腕は、現実世界の都会のカリスマ美容師に匹敵するくらい、すごかった。まったく迷うことなく、ときには雑談すらしながらハサミを入れていたのに、僕の曖昧な要求通りに仕上がっていたのだから。
本人は職業は引きこもりだと言っていたけど、一体何を食べたら引きこもりでここまでの技術が身につくのか。やっぱり世の中は謎で満ちている。
「まあ、キミの場合は髪質も悪くないし、なにより素材が良いから、多少ミスっても大丈夫だと思ってたんだけどね」
切り落とした髪くずを手で払いながら、レイチェルさんはそんなことを言ってのける。
もとが良いってことは一応、僕は褒められてはいるんだろうけど……
「……それって、『失敗してもまあいっか』ってことですか?」
「そ、そんなわけないでしょ。どんな髪型でも似合うよってこと!」
「は、はあ……」
「はい、それじゃこれでお疲れさま!」
僕に巻いたタオルをとって、レイチェルさんは僕の肩を両手で叩いた。
僕は椅子から立ち上がり、大きく背伸びをする。
足下には、大量の本がカーペットのように散りばめれらていた。
ここは一応、レイチェルさんの部屋らしい。
床一面に本が散乱し、カーテンで日差しを閉め切ったその様はなんというか、引きこもりのレイチェルさんらしさがある。失礼だからベッドの方はあんまりよく見てないけど……うん、多分散らかってる。
不意に、部屋には人間性が出る、って話を思い出すほどだった。
「なんか、汚い部屋でごめんね」
「い、いえっ! 僕は、全然……」
笑いながら謝ってくるレイチェルさんに、僕は手を振って否定する。
物が散らかっているのは事実だけど、生活感の出るもの――例えば、食べかけとかゴミとか……脱ぎっぱなしの服とか――はまったく見当たらない。僕が入るから片付けただけかもしれないけど、とにかく見た感じは『汚部屋』とまでは呼べない感じだった。
レイチェルさんはきっと、節度はあるけど片付けのできない人だ。
というか、本だったら片付ければ済む話なんじゃ……
「本棚もあるんだけどさ、気づいたら入らなくなるくらい増えてたんだよね」
びっくりした、思考を先読みされたかと思った。
たしかに、壁際に連なる大きな本棚には隙間なく本が敷き詰められている。
「入んなくなった本はこうやって、床に積み上げてタワーにするんだよ。でもね――」
「……蹴り飛ばして倒すんですね」
「そ! この部屋狭いし、しょうがないとは思うけどね〜」
散らばった本を拾い集めながら、レイチェルさんはさり気なく部屋を愚痴る。
いたたまれなくなった僕もそれを手伝いつつ、手にした本の表紙をこっそり確認してみた。
『チンピラたちの英雄譚2』、『暴虐の黒王』、『赤髪の王子と蜃気楼』、『月の綺麗な夜に』……
(小説、かな……)
中身の想像もつかないタイトルばかりで、僕も内容が気になって仕方なかった。
この世界の本はまだ読んだことないし、今度どこかで借りて読んでみるのもいいかもしれない。
「……」
レイチェルさんの指示通りに本を積み上げていた僕は、ふと窓の外の景色に目を向けた。
清々しい青空の下、広い中庭のようなスペースに噴水が陣取っている。
窓枠に切り取られた景色の隅には、三階建ての建物が見える。
高さからして、この部屋は二階だろう。
そういえば、ここがどこなのか、この建物はどこに位置するのか、まだリーファに聞いてなかった。
「レイチェルさん、」
「んー?」
「この建物って……いや、ここってどこなんですか?」
「学生寮だよ。ここは」
「ああ、学生…………え?」
思わず部屋の方へ振り向く。
学生寮って……学生の寮? てことは――
「ここ、学校なんですか……!?」
「うん、そうだよ。ここは王立アーディア第三学園の学生寮。……って、なんで急にそんなこと訊くの?」
だ、だいさんがくえん……?
「――ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」




