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第2話 神様の提案

注意:前回と同じくネットミーム等が含ま(ry

 眼差しに突き刺された。


 神様を名乗る謎のおじさんは、不意に(ふすま)の外の真実を知ってしまった僕を諭す。さっきとは打って変わって、迷い込んだ僕をあたかも神として導くように。


 僕を射抜く金色の双眸に、妙な威圧感を感じる。

 彼の言葉を信じてみようという気になった僕は、襖をそっと閉めて神様に向き直った。


「なーに、そんなに構えることはなかろう」


 白髭が動いた。

 金色の瞳を細め、温和な雰囲気を漂わせたその姿は今度はまるで仏のようだ。


「お主もまだ色々受け入れがたいじゃろうが……とりあえず、そこに座ってこのジジイと一つお喋りでもどうじゃ?」


 気を遣わせてるんだな、って思う。

 現世でこの歳で死んでしかも死因が飛び降り自殺なんて、確かによく考えたら天国での罰は避けられない案件だ。そこまで頭が回らないくらい、僕は追い詰められていたんだと実感する。


「やっぱり、すいません。僕……」

「良い良い。今はそんなことより、お主に伝えねばならんことがあるのでな」

「はい……」


 視線で促され、ちゃぶ台の前の座布団に正座。


 やたら柔らかい座布団に足を埋めながら、楕円形のちゃぶ台を挟んで神様と向かい合う。ちゃぶ台の上にはカゴに収められたせんべいが何枚かと、淹れたてのお茶二つが陣取っていた。

 ……用意周到なことで。


 神様は僕が座るのを待ってから、ちゃぶ台に置かれた湯呑みを片方自分の方へ近寄せる。

 それからゆっくりと床に散らばった紙束から一枚、A4サイズの紙を取り出す。

 なんの紙だろう、と僕が思っていた矢先、神様が開口一番に告げる。


「日隅唯都、15歳。死因はビルの屋上からの転落死……か」

「転落死?」


 思わず聞き返した。転落死って、それは……

 まるで、事故だったみたいじゃないか。


「僕は確かに、ビルから落ちましたけど……」

「便宜上、じゃよ。死人を迎える天国(ここ)で『自殺者』なんてレッテルを貼られたら、それこそ地獄行きじゃからなぁ。……お主が自ら死を選んだことも、(ワシ)は理解しておるつもりじゃ」


 片手で浮かべた用紙を眺めながら、神様は淡々と話を進める。

 あの紙っぺらには、()()()僕の情報が載っているみたいだ。

 神様の言い分も、僕は理解したつもりだ。


『自殺者』という肩書きがここでどんな意味を持つのか、考えなくてもわかる。


「それにしてもお主、自殺なんて勿体ないことをしたもんじゃな。限りある己の命を軽く見すぎじゃ」

「それは、そうですけど……」

「どこぞの黒ひげオーバーオールみたく残機があるわけではないのだぞ?」

「はい……? くろひげ?」

「細かいことはええのじゃ。……あ、茶柱(ちゃばしら)見っけ」


 やっぱり、僕この人苦手かも……


 湯呑みの底をじっと見つめる神様は、しばらくして肩を落として大きな溜め息をついた。痩せ細った肩がさらに小さくなる。


「人間が死にたくなる理由なんぞ、そんなの(ワシ)のガチャ運の無さに比べたらちっぽけなもん……と、言いたいところじゃが」


 そこで一旦言葉を区切って、神様は付け足す。


「……人間の耐えられるストレスには、それぞれ限界があるからのう」

「……」

「お主がこれまで苦しんできた不幸や絶望も、儂は知らないわけではない。悪いことをしたと思うておる」

「神様……」


 貴方が謝る必要はない、なんて言うだけ野暮だ。


 神様がどんな形で僕に関わっていたとしても、結果として死を選んだのは僕だから。

 これまで降り掛かってきた不幸に、僕が耐えられなかった。それだけの話だ。


 ただ、それだけ。


「……神様、僕は地獄行きですよね、」


 だから、覚悟はできていた。

 こうなった以上、僕はもう幸せを掴んでいい人間じゃない。


何故(なにゆえ)そう思う?」


「僕は死んだら、天国で両親や親友と会いたいって思ってました。けど、それって甘えですよね。皆必死に生きた結果死んでいったのに、僕は……。僕は、酷い人間です。自分勝手で、傲慢だ」


 それは、僕の抱えていたある種の自己嫌悪で。

 こうして死んでも尚、僕の中で生き続けていた自責の念だったりするんだと思う。

 ずっと僕は、僕が嫌いだった。

 何よりも誰よりも憐れな自分が、嫌いなだけだ。


「……肝の据わった少年じゃのう、お主は」

「?」


 間を開けて聞こえてきたその言葉に、考えあぐねる。


「その歳でもう、地獄を望むとは」

「自殺するだけの勇気はあったってことですよ」


 乾いた笑みがこぼれ落ちる。

 死ぬのだって地獄へ堕ちるのだって、同じだ。

 ただ、向かう先が違うだけで。


 暫しの沈黙が流れ、僕はちゃぶ台の上の湯呑みを両手で抱えていた。口をつける気にはなれなくて、温もりを感じてからそっとちゃぶ台に戻した。


 僕の方にはどうやら、茶柱は立っていないみたいだ。

 どこまでも僕はついてない。

 神様の決断を、僕は待っていた。


「お主、運がいいぞい」


 ……は?

 神様の白髭から飛び出した思わぬ一言に、僕は言葉を詰まらせた。

 運が、いい? 僕が?


 虚を突かれて動揺する僕をそっちのけで、神様はちゃぶ台の上の二つの湯呑みの位置をそっと入れ替えたのだった。


 突如目の前に現れた茶柱に、戸惑いの目を向けながら。

 僕はもう一度、神様を見やった。


「運がいいって……何がですか?」


「儂はのぅ、しょーじきお主の心意気に感動した。若くしてそこまで思い悩んでいたお主に、儂は神様として何かしてやりたくなった。それだけの話じゃよ」


「何か、ですか……?」


 声色を途端に明るくした神様に、僕はある予感を察知する。

 とてつもなく、嫌な予感だ。




「――異世界に、行ってみんか?」

 



 僕の予感が的中。

 というか、ほとんど予想外。


 いせ、かい……?

 つまるところ、違う世界線、平行世界(パラレルワールド)への転移?


「え、普通に嫌です」


 反射的にそう答えていた。

 だってそれは、ラノベとか漫画とか創作の世界限定の話で……


「嫌、じゃと……? 馬鹿な、今どき異世界転移を拒む中高生がおるというのか!?」

「中高生のことなんだと思ってんだあんたは」



「だって、異世界転移じゃぞ!? (おとこ)なら一度は夢見るじゃろ!?

 儂だって……ほんとはうらやましいんじゃ!! 絶対できないけど!!」



「ちょっと、落ち着いてくださいよ……」


 ダンッ、と神様がちゃぶ台を強めに叩く。なんでこんな熱量で話すんだこの人は。


「今、儂の気が変わらないうちに言ってくれれば、お主はいつでもやり直せる。

 ラノベみたいな生活が送れるんじゃぞ。悪い話ではなかろう?」


「……本当に異世界に行くだけで、ラノベみたいな生活を保証してくれるんですね?」

「ああ、約束する。お主の運次第ではチートスキルも付ける。さあ言え、異世界に行きたいと言え!」

「だが断る」

「ナニッ!?」


 よし、うまくノッてくれた。

 というか、ここまで異世界を勧めてきたらもうハラスメント行為だ。

 異世界ハラスメント……略してイセハラ。決して伊勢原市のことではない。


「はぁ……神様っていつもそうですよね。男子中高生(ぼくたち)のことなんだと思ってるんですか?」


「お主、もう一度考え直してみぃ。男なら誰でも憧れるじゃろ? 異世界での剣と魔法の冒険、可愛い女の子との出会い……そしてハーレム。お主のその顔ならハーレムなんて余裕のよっちゃんじゃ!」


(こいつ……)


 神様の言うことにも一理ある、のか?

 異世界冒険とか美少女とのハーレムとか、あまりにも非現実的すぎる。


(うーん……)


 試しに妄想してみる。

 チート能力とやらを手に入れて、モンスターに襲われている女の子のもとに颯爽と現れる自分の姿を。そしてモンスターからその子を助けたあとで、こんな決めゼリフを言い放つのだ。


『やぁ、大丈夫だったかい? お嬢さん』


 それでキュン、と僕に一目惚れする女の子。


 内心飽き飽きしたように「やれやれ、また惚れさせちゃったか?」と苦笑を浮かべるやれやれ無自覚無双系主人公の僕。そうして増えていくハーレム人員。続いていくウハウハ生活。ちゃんちゃん。


「……いやです」


 何が嫌と言うより、全てが嫌だ。体育の持久走くらい嫌だ。

 というかここまで妄想できてしまう自分が嫌だ。しにたい。


 別に特段そういうストーリーが嫌いなわけじゃないけど(むしろちょっと憧れるけど!)、そんなThe主人公な生活を送る自分を想像したら吐き気がする。そんなキラキラした自分、今とは対極すぎて……


 妄想しすぎか?


「まあ、つべこべ言うな。お主はお主の好きなようにやったらいいのじゃ」


 そう言って神様はすっと立ち上がり、おもむろに右手を高く掲げた。

 するとその合言葉が、指パッチンとともに詠唱される。



『何人にも平等の救いあれ! 汝に新たな世界と出逢いをもたらせ!

 ——異世界転移の儀、開始じゃあっ!!』



(……声でか)


半分ネタ回でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大事な会話の中にも、ちょくちょくネタが入っているのが面白いです。 マ○オだったり、少し前に流行ったネットミームだったり。 読んでいて楽しいので、好きです。
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