#1 one dream
予告通りの番外編。
一話目は、英雄を志していたあの人…?
英雄になりたい。
それがオレの、たった一つの夢だ。
いつか世界を救うくらいのことを成し遂げて、たくさんの人から感謝されて。
たくさんの女の子から言い寄られて、一生遊んで暮らせるくらいお金を稼いで。
オレの伝説を知った誰かが、オレと同じようにオレに憧れて英雄になる。
そんな、バカみたいな夢の話だ。
「ルーク、英雄というのはな、なりたくてなれるもんじゃないのじゃ」
じいちゃんの口癖だ。
じいちゃんはいつも修行で行き詰まるオレに、そんな話を聞かせてくれた。
長い髭を撫でながら、じいちゃんは優しい笑みを浮かべる。
「何か守りたいもんがあって、そのために必死で頑張っておったら、いつの間にか誰かに『英雄』と呼ばれるようになる。ワシはそう思っとる」
オレの生まれるよりもずっと前、じいちゃんは一国を救った英雄と呼ばれていた。
当時の話はあんまり聞かせてくれなかったけれど、じいちゃんはオレの自慢だった。
いつかじいちゃんみたいな英雄になること、それがオレの夢であり、目標だったんだ。
でも……
「お前みたいにバカで弱っちいやつが、英雄になんかなれるわけねーだろ!」
村の仲間は誰一人として、オレの夢を褒めようとはしなかった。
むしろけなしたり、バカにしたりで、ひどい言われようだった。
それもそうだ。
オレは村の子供の中で一番背が低くて、ケンカでは負けっぱなしだったからだ。
「いくらじいちゃんがスゲーからって、お前まで強くなれるわけじゃないんだよ! 現実見ろよ!」
わかってるよ、そんなの。オレだって、このままでいたくない。
負けっぱなしの弱虫でいたくない。
だからオレは……
「お前らがどんだけ殴ってもバカにしても、オレは諦めない! いつか強くなって、お前らを見返してやる!」
諦めない心。
それがオレの最大の武器だった。
バカにしてみろ。殴ってみろ。
いつか英雄になったオレが、お前らを見返してやるんだ。
「うむ、それでいい。それでこそワシの孫じゃ」
諦めなかったオレを、じいちゃんは褒めてくれた。
へこたれなければ、諦めなければ、オレの夢だってきっと叶う。
「物語の主人公は、いつでも笑われる側じゃ。決して人を笑う側になってはいかんぞ。ホッホッホッ」
じいちゃんの言ってたことが、今ならわかる気がする。
人の夢を笑うようなやつは、決して誰かに称賛されるようなヒーローにはなれないんだ。
だからオレは、ずっとひたむきに走り続ける。
目指した夢のために、輝かしい未来のために。
***
「僕は、ルークの夢を応援するよ」
初めて、じいちゃん以外でオレの夢を肯定してくれたやつがいた。
ダンジョンで出会った、オレと同じかけだしの探索者。
ユイトっていう、この辺じゃ珍しい名前だ。
こいつはいつか、オレよりもスゲーやつになるんじゃないかと思って、思い切ってパーティを組まないかと誘ってみた。オレと同じで金には困ってたけど、ユイトには何かしら、オレにないものをもってる気がする。
そんなユイトに夢を認められて、オレは嬉しかった。
こいつとなら、うまくやっていける。
オレの夢も、こいつとなら叶えられる。
ぼんやりしていた夢が、段々と現実味を帯びてきたような気がした。
――それなのに。
「死んで、たまるかよ……死にたく、ねえよ……」
なんで。
何でこうなるんだよ。
オレは、オレ達の戦いは、まだこれからじゃねぇか。
「オレは……英雄になって、じいちゃんみたいにたくさん、人をっ、助けて……」
そうだ、オレの夢はまだ叶ってない。
じいちゃんみたいな英雄に近づくために、オレはもっと生きるんだ。
もっと戦って、強くなるんだろ……
「なのにオレはっ、こんなところで……っ!」
やっぱり、死にたくない。生きたい。
もっと生きて、英雄になりたかった。
じいちゃんに恩返しがしたかった。
なのに、じいちゃん、オレ……
「ちくしょぉおおおおおおおおおおおおああああっ!!」
じいちゃん、ごめん。
オレ、ここまでみたいだ。
オレは、じいちゃんみたいな英雄にはなれなかった。
かっこいい最期だったわけでもないし、これでユイトを救えたわけでもない。
英雄になるって、案外難しいもんなんだな。
なあ、じいちゃん、教えてくれよ。
英雄って、どうやったらなれたんだ?
誰をどんな風に助けて、何を救ったら、オレは英雄って呼ばれるようになったんだ?
答えてくれよ、じいちゃん……
↻
「あれ……?」
どれくらい時間が経ったのだろう。オレは、知らない場所で目を覚ました。
確かにオレは死んだはずだ。
12階層でユイトを庇って、モンスターたちに喰われて死んだ。
なのに、どうしてオレはまだ生きてるんだ?
もしかして、ここが俗に言う天国だったりするのか?
オレは死んで、生まれ変わるのか?
「でもここ、ダンジョン、だよな……」
その景色に見覚えはないけど、雰囲気的にわかる。
ここはまだ、ダンジョンのどこかなんだ。
だとしたらオレは、まだ戦えるってことなのか?
これは神様がオレにくれた、チャンスだったりするんじゃないのか?
「あはは……なんかわかんねーけど、やったぜ!」
そうぬか喜びするのも束の間。
持っていたはずの剣がない。
「……って、なんだよ、素手で戦えってのかよっ!」
まあ、贅沢は言ってられないよな。
オレはなんたって、神様の気まぐれで生かされてるだけだし。
仕方ない、一旦ダンジョンを出て装備を揃えに行くか……
「――え?」
歩き出したオレは、目を疑った。
目の前に、とてつもなくでかい『何か』がいた。
オレの行く先を阻むように佇むそれは、荒く呼吸しながら赤い目でオレをじっと見つめている。
こいつは、新種のモンスターだったりするのか?
いやそもそも、ここは何階層なんだ?
なんのためにオレは生き返ったんだ?
オレはまた、死ぬのか?
答えて――いや、助けてくれ、じいちゃん――
次の瞬間、オレはまた死んだ。




