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第12話 資金問題

唯都のステータス表示後から地の文は三人称視点(神視点?)で書いてます。

 明くる日の朝。

 窓から差し込む朝日に照らされ、その眩しさで目を覚ました。朧気な意識のまま上体を起こす。


「もう、朝か……」


 大きく背伸びをすると、背中が痛んだ。

 僕はなぜか、床で寝ていた。


「……?」


 昨日はたしか、ベッドで寝ていたはず――

 ベッドの方に振り返ると、ラファエラがすやすやと寝息を立てていた。その頭の上には、金色に輝く光の輪が浮かんでいる。


 そうか、原因はあれだ。


 彼女の隣で寝落ちしかけたはいいものの、あの天使の輪が眩しすぎて寝付けなかったんだ。おかげで僕がベッドを退いて床で眠る羽目になって……


 今になって、昨夜のことが鮮やかに蘇ってくる。

 そして、やっぱりあれは色々まずかったのだと気付かされる。

 何事もなくてよかった。本当に。


「はぁ……」


 思わず安堵の溜め息が漏れる。

 ベッドの上で安眠する天使様に、文句の一つでも言ってやりたい気分だ。


「もう、起きなよ……」


 控えめに揺さぶってみても、起きる気配はない。どんだけ熟睡してるんだこの天使は。ちょっと警戒心がなさすぎるような……


「えへへぇ……」

「いやえへへぇじゃなくて、起きて……」


 よく見ると、シーツに彼女のよだれが垂れそうになっている。

 早く起こさないとまずいことになりそうな予感がする。


「……いいの、ラファエラ」


 こうなったら最後の手段だ。


「――僕、このままだと勝手に死ぬよ?」


 ラファエラが眠っている今なら、何も言われずに死ねる。

 そのつもりはないから嘘だけど。


「――ダメです許しませんやめてくださいっ!!」


 都合よくなぜかラファエラは飛び起きる。使命感だけはよっぽど強いのかもしれない。


「やっと起きたね」

「はっ、大丈夫ですか唯都さん生きてますか!? ここ現実ですよね!?」


 寝起きからテンションマックスなラファエラは、僕の肩を掴んで揺さぶってくる。

 天使のくせに落ち着きがない……


「落ち着いてってば……生きてるよ、このとおり」

「よかったぁ……」


 ドタバタな朝を迎え、僕の異世界生活二日目が始まった。





〈ヒズミ・ユイト〉 ランク1 レベル3


〈所持紋章〉 龍爪の紋章


〈基本ステータス〉 

耐久:243 攻撃:336(紋章補助) 防御:99 機動:403(紋章補助) 技術:123


〈戦闘素質〉

精神:471 生理的耐性:333 魔力:7


〈所持スキル〉

再生(リバイヴ)】ランク:SS

・自動発動。

・被撃発動。

・残り発動回数:1000回

【】

【】




「無事レベルアップされましたね。おめでとうございます」


 ギルドの受付にて。

 唯都のダンジョン攻略のアドバイザーを担当することになった例の『眼鏡の受付嬢』――レーナは、ショートで切り揃えた黒髪を揺らして微笑む。制服をきちんと着こなすその容姿は麗しくも、凛々しい表情はどこか見る者に生真面目な印象を与える。


「ステータスの変化については、主に〈機動〉の項目の上がり幅が著しいですね……」


 眼鏡を指でくいっと上げて、彼女の視線は数字へ食らいつく。


〈機動〉が示す数値の変動は、他の項目とは一線を画している。これは推測するに、前回の戦闘で唯都が自発的な機動を見せた『経験』による強化なのだと、レーナは語った。


「これ、〈戦闘素質〉の方はこれ以上()がったりしないんですか?」


 前回と変化のない三つの項目を見て、唯都は訊ねる。


「これら三つは、あくまで〈素質〉ですから。この先少しずつ上がっていくこともあれば、何か()()()()()()を経験して数値が飛躍することもあります」

「大きな出来事、ですか」


〈精神〉や〈生理的耐性〉を格段に跳ねあげるほどの出来事、と唯都は不意に思考を巡らせた。


(修行的なものかな……?)


 と、小首を傾げるのはほどほどに。


「レベルアップしたってことは、もっと階層を増やしても大丈夫ってことですよね?」

「はい。レベル3まで昇格したのであれば、私からも心配は不要とは思います。5階層まではモンスターの種類は限られていますから。そう、なんですが……」


 眉を下げ、レーナが何とも言えない表情で見つめる視線の先。

 先刻、少年が「武器です」と差し出してきた鉄の凶器――バール。


 唯都の両手の上に鎮座する彼の得物を見やったレーナは、思わず言葉に詰まってしまう。

 唯都がバールを差し出してきたことは勿論、なにより何食わぬ顔でいるこの少年に、彼女は柄にもなく困り果ててしまっていた。


「装備品の強化は、最優先と言ったところでしょうか……」

「ですよね……」


 薄い苦笑いを貼り付けた唯都に倣って、レーナも頬を歪ませる。

 誰の目から見ても、唯都の戦力不足は明確だった。


 シンプルなシャツとズボンの上に羽織った黒のロングコートだけが唯一、現状彼を探索者と見当付けできる品の一つ。


 防具など当然のごとく皆無で、非力で軟弱そうな彼の身体を守る代物は存在しない。

 その生身に攻撃でも受けたら一体どうするつもりなのか。


 そして得物であるバール(のようなもの)については、言わずもがなだ。


「初級モンスターであれば通用するかとは思いますが、それ以降は厳しいかと」

「……それって、与えるダメージが少なくなるってことですか?」


 疑問を呈する唯都に、レーナは適確な表現を模索しながら会話を進めていく。


「ダメージというものも当然少なくはなりますが、何より武器というものはいかに『モンスターとの戦闘を意識しているか』がより重要になってくるので。スライムやゴブリン等の肉体には刃物として通用しても、硬い皮膚や装甲を持つ上級モンスターには単なる鈍器としか通らなくなる、ということです」

「な、なるほど……」


 要するに、無理がある。

 遠回しにそう言われて初めて、唯都は自分の無謀さに気づくのだった。

 だが、何も彼が選んでそうした訳ではなく。


「でも、戦力を強化しようにもお金がなくて……」


 戦力不足と資金不足。

 重なり合う二つの問題が、探索者としての唯都を苦しめていた。


「今日も、朝ごはんでほとんど全財産使っちゃったくらいですし」

「あの、それでしたらギルドの方からの貸し出しもございますよ。といっても種類は豊富という訳ではありませんし、性能も今一つといった感じですが」


 レーナの言うように、探索者ギルドでは初心者(ビギナー)向けに短剣や槍、弓などの基本的な武器の貸し出しを無料で承っているのだ。


 だが、そのシステム自体はあまり探索者内で知られていない。

 これは彼らのほとんどが、生まれ育った地からダンジョンへ潜る探索者に成り上がる過程で、それなりの装備を自前で揃える傾向にあるためと言える。


 金に困ったから探索者になりたい、という部類の探索者もいない訳ではないが。


「今一つ、ですか」

「はい。あくまで初心者向けのシンプルなものなので……。大半の方は、ある程度資金が貯まった時点でご返却なさっています」


 ギルドの一職員として、レーナも自身の経験上おすすめはできない立場にあった。

 ()()()()()()()()()()がダンジョン内で討ち果たされ、文字通り『ダンジョンの一部』となるケースは、ギルド職員ならば腐るほど耳にしている。


 もっとも、唯都の場合は例外だが。

 そんな彼女の複雑な表情を見て何かを察したのか、唯都は悩むのはそこそこに決断する。


「でも僕の場合、無い方がまずいですよね……だから一応、お言葉に甘えさせてください」

「承知しました。ダンジョン内の比較的安全なルートを示したものも後でお渡しいたしますね」

「何から何まで、ほんとにありがとうございます……」


 そうして、彼女が運んできた大量の武器の入った木箱を見て唯都が長考を強いられるのは、また別の話。


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