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第6話 探索者になろう(1)

以降3話チュートリアル編です。世界観の説明パートが主なので、そういうのが面倒な人は9話まで読み飛ばし推奨。

(作者がこんなこといっていいのか)

 僕の『はじまりの街』、テンペスタ。


 昼間人口は約五万人ほどで、この世界では『中都市』に分類される街だ。

 街一帯を囲う円形の市壁は高さ約三十メートル、直径約二十キロ。

 

 現実でいうと神奈川や埼玉のなどの郊外の小都市にあたりそうな、いわゆる住みやすい街。


 以上、偉大なる大天使ラファエラさん(自称)の簡単な説明。


 訳あって僕はこの街で、探索者を志すことになった。そのための第一歩としてまず、街を突っ切る大通りをまっすぐ進んで探索者ギルドとやらを目指している。


「ちょっと、そんなに急がなくても……」


 ……ラファエラに連行されて。

 僕の意思はお構い無しに、彼女は僕の手をがっちり掴んで道を突き進んでいる。天使だからなのか、思ったより力が強くて逃げ出せそうにはない。


 というか、こっちはずっと手を握られていて恥ずかしいからやめてほしい。

 ラファエラはまったく気にしていないみたいだけど。


「唯都さんいいですか、思い立ったが吉日です」

「何、急に……」

「何事も、唯都さんの気が変わらないうちにやっておくべきなんです!」

「うん、わかったから手離して……」

「ダメです」

「ダメなの!?」


 段々と彼女が怖くなってきた。もしかして、ラファエラもあの強引な神様と一緒なんじゃ……


「あ、着いたみたいですね」


 適当な雑談を交わしているうちに、いつの間にか目的地にたどり着いていた。


 二階建ての石造りの建物。その大きさはどことなく、現実でいう公民館や児童館を思い起こさせる。入口の看板には、【探索者ギルド テンペスタ支部】との表記。


 分厚い木の扉越しに聴こえる喧騒に、心の中の何かをかき立てられるような気がした。腰が引ける、といってもいいのかもしれないけど。


 扉の前で突っ立っていると、真横にあった立て看板に目がいった。安っぽい木の板に大きな字で書かれていたのは――


『ギルドに入るときは大きな声であいさつを!』


 ……なんだこれ。


「学習塾かここは……」

「ふむ、古臭い文化ですね」


 入り口の前で立ち止まっていると、誰かが僕の肩を叩いた。

 そうだ、こんな所にいたら邪魔だ。


「ご、ごめんなさ――」


「――Hey少年、ギルドは初めてかッ!?」


「へ? あっ、はい……」


 振り返るとそこにいたのは、いかにもヤバそうで世紀末な雰囲気を纏ったおじさんだった。


 チャラい感じを残しつつもドスの効いた低音で、その謎のおじさんは僕に話しかけてきた。黒のロン毛と短めのヒゲ、左耳のゴツすぎるピアス、胸筋、トドメのグラサン。


 明らかにただ者ではない雰囲気が漂っている。この人だけ世紀末だ。


「ケヒャッ! ようこそ探索者(オレたち)の世界へ! 今ここがテメェの第一歩だァ! 勇気持って踏み出しやがれェ!!!!!」

「は、はいっ!!」


 なんか、見た目はヤバそうなのに割と親切……?

 でも、従わなかったら骨を何本か砕かれそうだから彼の言う通りにする。


 おそるおそる扉を開き、大きな声で挨拶――


「――た、たのもーう!!」


 中にいた人たちの視線が僕に集まる。一瞬静まり返ったあと、彼らは声を合わせて叫んだ。




「「「「「「「「どうれー!!」」」」」」」」



 

 そして、またさっきまでの喧騒が舞い戻った。

 歓迎されたのは確かだけど、今のノリは……


(た、体育会系……?)


 全然知らなかったけど、ギルドってこういう雰囲気なのか。結構暑苦しい。


「ケヒャッ、やればできるじゃねえかッッ!!」

「あ、あはは……」


 さっきのおじさんに背中を強めに叩かれ、僕は苦笑いするしかなかった。

 でも、このおじさんが悪い人じゃないのはわかった。


「ンじゃ、オレが出来ることはここまでだなァ!!」

「あ、あの、あなたは一体……」


「オレか? ケヒャッ、オレは通りすがりの『チュートリアルおじさん』だァッ!! 別にオレのことを覚えておく必要はないぜェェ!!」


 チュートリアル? おじさん?

 ただのいいおじさんか。というか仕事それだけ?

 まあ、そこはどうでもいいや。


「えっと、ありがとうございました!」

「おう、いい探索者ライフを送りやがれェェ!! んじゃァな!!」


 去り際に激励(?)の言葉を送り、チュートリアルおじさんはどこかへ行ってしまった。


「なんだったんでしょうね、あの人……」


 ふわふわ浮きながら着いてきたラファエラも、僕と同じくぽかんとした様子だった。流石の彼女もあのおじさんには絡みたくなかったみたいだ。


「いい人、なんじゃないかな……知らんけど」


「ですかね……それにしても、『たのもう』にちゃんとした返事があるなんて、わたし初めて知りました!」


「それはまあ、たしかに……」


 ……僕の第一歩、こんなもんでいいのだろうか。


 なんとも言えない始まりになってしまったけど、気を取り直してギルドの内部を一通り見渡してみる。端的に感想を述べるとすると、「つよそう」。またしても小並感。


 入ってすぐのロビーには、四人まで座れる丸テーブルと椅子のセットが幾つか並べられていて、いかにも探索者という強者たちがパーティで陣取っていた。


 頑丈を極めきった銀の鎧で全身を固め、背に大刀を携えた大男。

 艶やかな紫の水晶を嵌めた、金色の杖を持つエルフ。

 鮮烈な真紅のマントを羽織った剣の勇者。

 まるでゲームキャラの博物館にでも来たみたいだ。


 これが、探索者。これが、異世界。


「って、そうだ、探索者登録……」


 異世界ならではの景色に感心するのはほどほどに、僕は探索者たちの並ぶ受付らしき場所に近づく。そこではカウンターを挟んで、職員らしき女性が探索者の応対にあたっている様子だった。


 とりあえずその探索者の後ろに並んで順番を待って、数分。

 僕に順番が回ってきた。


「いらっしゃいませ、探索者様。どういったご要件でしょうか?」


 黒縁の眼鏡をかけた女性が、礼儀を弁えた口調で訊ねる。


「えっと、探索者登録をしたいんですけど」

「探索者登録ですね。少々お待ちください……」


 そう言って彼女は、背後の書類の山から一枚の羊皮紙を引っ張り出してカウンターに置いた。既に手書きで欄と項目が書かれているものだ。


「こちらに氏名、生年月日、性別を記入して下さい。探索者証(ライセンス)の作成に使うものになっています」

「はい、分かりました」


 紙と一緒に差し出された羽根ペンを握り、まず氏名の欄から埋めていくことにする。

 けど、これって……


「ねぇラファエラ、」


 すぐそばに立っていたラファエラは、なぜかよそよそしい表情を浮かべて僕に耳打ちする。


「あの……言い忘れてたんですが、天の使いである私の姿は今、唯都さん以外には見えないようになってるんです。なので……」


 はっとして、受付の女性に視線を戻すと。彼女はきょとんとして独りごちていた僕を見つめていた。 彼女からしたら、いきなり僕が誰もいない空間に話しかけてたということだ。


(もうちょっと早く言ってよ……!)

(てへぺろ♪)


「あの、今どなたかお呼びで……」

「あ、いえっ、何でもないです! 僕最近独り言にハマってるので!」

「そう、ですか……」


 思わぬ深手、そして誤爆。

 極力人前ではラファエラに話しかけないようにしなきゃいけない、ってことを身に染みてわかった。こっちの名前のこともラファエラに聞こうと思ってたけど、やむを得ない。


 流石に西洋風のこの世界で、「日隅唯都」は浮く。

 だから、ここは無難に。


(ヒズミ・ユイト、と……)


 カタカナにすると違和感がすごい……

 まあ、余計に厨二病めいた偽名を創作して黒歴史を作るよりはマシだ。

 持ち慣れない羽根ペンを駆使して、現世での生年月日を書き記して最後に性別の男の欄に丸をする。


「書けました」

「はい、ありがとうございます。それでは……これより、探索者ギルド入団の手続き並びに〈神の記憶(メモリア)〉の授与を行います」

「メモリア……ですか?」


 思わず、オウム返ししてしまう。メモリアの授与って一体……?


「はい。まあ、口頭で説明すると長くなるので、早速式場へ向かうとしましょう」


 わけも分からないまま、僕は彼女のあとについて行くことにした。一階の受付から騒がしいロビーを抜け、反対側の壁際まで連れられる。


 果たしてそこにあったのは、不自然な位置に立て付けられた木製の扉。

 そして、目に飛び込んできた『関係者以外立ち入り禁止』の文字列。


 彼女は鍵を使って扉の南京錠を解き、いとも簡単にその禁じられた扉を開く。開いた先、視界一面に広がる闇。ただならぬ雰囲気を感じ取り、心做しか身の毛がよだつ。


「この先です。どうぞ」


 暗闇の中、足元には段差……いや、階段が下へと続いているのがわかった。

 受付嬢の彼女が先を行き、後を追うように僕も恐る恐る一段ずつ降っていく。暗がりを照らす明かりは、壁に(はりつけ)にされたいくつかのランプのみ。


 レンガが均等に並べられた石壁を指でなぞりながら、最後の一段を降り終えて。目の前に広がる薄暗い空間に緊張が高まった。


「あの、ここは……?」


 学校の教室ほどの広さの部屋の真ん中で、僕は足を止めて訊ねた。同じく僕の前で足を止めた彼女は、振り向きざまに告げる。


「まず、〈神の記憶(メモリア)〉の授与について簡単に説明いたします」

「あ、はい……」


「〈神の記憶(メモリア)〉とは即ち、神が探索者に授ける『戦う力』のことを指します。通常、ダンジョンでのモンスターとの戦闘は〈神の記憶(メモリア)〉の補助なしでは成り立ちません。人間の持つ潜在能力を引き出すのが、〈神の記憶(メモリア)〉の役割という訳です」


 だいたい解った、かな。

 簡単に、と言った割には至極丁寧に説明してくれた彼女に感謝したい。


「さて、では改めて」


 薄闇の中、彼女が手をかざした先にあったもの。

 それは、石碑だった。


チュートリアルおじさんは今後一切出てきません。断言します。



追記)ケヒャリスト1号の呼称を元々の『チュートリアルおじさん』で統一しました。こいつは本編に一切絡まないので正直クソそうでもいい情報かもしれませんが。

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