君なら分かる
…一方、現世では一八は律花と魔術に没頭していた。昴が心配しているとは知らずに、二人はビガラスの教えを受けていた。
ビガラスに教わったのは、植物を操る術だった。それを律花よりも早く覚えて身につけていた。
どうやら、一八は植物の魔法と相性が良いそうだ。それに気づいたビガラスは、更に色々な術を教える。しばらくすると、一八はビガラスよりもその術を使いこなせるようになってしまった。
「怪だから人間よりも術に適してるんだろう。」
後から来たのにもう自分を抜かしてしまったのかと律花は焦った。一八のように術を使おうとするが、上手くいかなかった。
「律花、そう焦るんじゃない。一八は才能があってそれが引き出されただけなんだよ。それに、律花にしか出来ない事があるはずだ。それを探して頑張ればいいだろう?」
律花は頷くと再び練習を始めた。
それから、二人は部屋に戻った。すると、律花の電話が鳴る。それに出ると律花の顔が明くなった。
「奇跡ちゃん!」
「律花ちゃん、元気にしてた?」
電話の相手は、律花の友人の霧山奇跡だった。奇跡は律花と同級生で、夢原という町で暮らしている。
「うん、元気にしてたよ。そっちは?」
「私も元気にやってるよ。」
奇跡は夢原の小学校で楽しくやっているそうだ。それを聞いて律花は嬉しくなった。
それから、二人は他愛のない話で盛り上がった。修学旅行で聖都に行く話や、周囲の友人の話をしていた。あまりにも楽しくて、律花は先程まで落ちこんでいのを忘れてしまった。
律花が電話を切ろうとした時、奇跡が付け足すようにこう言った。
「これから、二つの世界が大変な事になる。私が守っている夢も、その余波を受けてるの。気をつけてね。」
律花は頷くと電話を置いて一八と話し始めてしまった。
電話を切った奇跡は、支度をして家を出た。
「私の夢は当たるから。」
奇跡が向かっていたのは夢原神社だった。奇跡はそこの祭殿を開け、錫杖を取り出した。
霧山家は『夢守』、夢を守る術士の家系だ。彼らは妖を使役し、『夢界』と呼ばれる夢の世界を守っている。
その中でも奇跡は特別な夢守だった。仙人と妖の力を宿した奇跡は、別の妖を使役せずに自らの力で夢守としての責務を全うしている。
夢守は夢にまつわる能力を持つ。その中でも奇跡は予知夢を得意としていた。今までの夢は確実に当てている。だからこそ奇跡は、それが当たらないようにと願っていた。
「律花ちゃんなら分かるよね」
奇跡は錫杖で模様を描き、その中に入った。すると、奇跡の姿は消えていた。奇跡は夢の世界に入っていた。奇跡は自分のやり方で世界を守ると既に覚悟を決めていた。