奇跡は、今も夢の中に居た。夢は黒く濁り、怪が目を光らせている。奇跡は怪を次々と倒していったが、終わらなかった。
現世は律花達に任せた。後は夢をどうにかするだけだった。だが、夢は不安定になり、怪は次々に湧き出ている。恐らく現世と冥界が怪に侵食されているからだろう。
奇跡にとって怪は敵ではなかったが、数が多ければ話は別だ。戦いの中で奇跡も消耗していた。一方、死の概念を知らない怪は姿形を変えながら夢を侵食していく。
「一体どうすれば…」
奇跡は錫杖を握り締めていた。奇跡が悩む最中にも夢は侵され、破れていく。
「このままではいけない」
奇跡は錫杖を地面に突き刺し、怪を消滅させようとしたが、以前のようには効かなった。怪も力を増しているからだ。奇跡が術を放つ最中も夢は破れていく。
その時だった。夢の狭間から紫色の獏と銀髪の男が現れた。獏は怪を吸い込んでいく。
「お母さん!それにお父さんも!」
その一人と一匹は奇跡の両親だった。獏は奇跡と似た女性の姿に変わった。彼女は夢叶と名乗る神妖で奇跡はその力を受け継いでいる。
「夢を守ってくれてありがとう」
夢叶は錫杖を持ち、残った怪を一掃した。
「僕も夢守としての役目を果たさないとね」
奇跡の父親霧山ペグルは半仙という仙人の力を宿した存在だった。夢を守る夢守で、かつては音羽の父親である照彦と共に陰謀を止めた事がある。
「寒月、行くよ!」
ペグルが笛を鳴らすと、雪の色をした狼が現れた。雪狼の寒月だ。夢守は妖を使役して夢を守っている。寒月はペグルの相棒だった。
「応!」
寒月は冷気を纏い、ペグルの横に立った。
「今まで任せっきりでごめんなさい。後は私達も協力するわ。」
「ありがとう。」
奇跡は錫杖を持ち、再び地面に突き刺した。
「『光と影よ、そして現世に宿る八百万の神々よ、怪異を退け破れた夢を再び繋げよ!』」
奇跡がそう唱えると、錫杖が光り、夢が繋がり始めた。奇跡の身体も淡く光っている。奇跡の想いが届いたのだろうか。奇跡は錫杖を抜き、残りの怪の前に立った。