砂漠の花
シリカは、元気を取り戻したのかペタライトの腕から離れていた。水晶の羽根でショールに付いて来ている。
「空を飛べるなんて凄いね。」
「うん…」
シリカは頷くとショールの手を引き、一緒に進んだ。一同が進んでいるのは砂漠だ。人は全く寄り付かない。
シリカの羽根は変わった形をしている。身体の一部ではあるが分かれて浮いている。それで羽ばたく訳でもないらしい。どちらかというとロケットエンジンに近いのだろうか。自身の霊力を推進力に変えて飛んでいる。
自身も『奇形』と呼ばれているショールだったが、家族以外の『奇形』を見るのは初めてだった。
「『奇形』って、他にも居るのかな?アゲートのお父さんも『奇形』じゃなかったっけ?」
「全体の中でどれだけ居るかは俺も知らないがそこまで珍しくもないみたいだな。遺伝子が不安定だからそうなるんだとか。それとな、『奇形』は強力な力を持っている。そいつも例外じゃないかもな。」
エルは『奇形』について随分と詳しいようだった。彼もまた『奇形』から産まれた存在だ。母親のルイザから色々聞いたのだろうか。
「どうして『奇形』は強いの?」
「それはだな…」
エルはその答えを言おうとしたが口を止めた。その視線の先には黒髪の少女が居る。『Star dust』のゾフィーだ。
「あいつは人間じゃないな…ひょっとして怪か?」
「ここまで流暢に人語を話す怪が居るなんて、驚いたわ。」
ゾフィーが指を鳴らすと地中から巨大な蛇が顔を出した。
「私は怪を呼べるのだけれど、そこまで賢い奴は呼べないの。きっと我が強いんでしょうね。」
蛇の怪は首をもたげ、ショール達を攻撃する。それに気付いたショールとアゲートはすぐ様臨戦態勢に入った。
ゾフィーは蛇に攻撃しなかったシリカとペタライトに近づく。それに気付いたシリカはペタライトから離れた。
「私が行く。」
「シリカさん、無茶は禁物です!ここはショールさん達に任せた方が…」
ペタライトの制止も聞かずシリカはゾフィーの目の前に立った。そして、首から下げてあるガラスペンを手に持つと、鎌に変化させた。
「へぇ、小さいのにやるじゃないの。」
シリカは躊躇いなくゾフィーに向かう。ゾフィーは怪を呼んた。シリカはその怪を次々と倒していく。怪ではシリカを倒せないと察したゾフィーは、シリカの目の前に現れ、拳を突き出した。シリカは間一髪で避けたが、ゾフィーは逃さない。
「やるしかない!」
シリカは水晶の欠片を鎌に差し込んだ。すると、シリカの姿が一変し、少し成長した状態になる。神化とよく似た覚醒だ。シリカは一時的だが自らの能力制限を解放出来る。
そうして、ゾフィーと果敢に戦うシリカの背後で、ペタライトはシリカを見守っている。
「お前、戦わないのか?」
「ええ、僕はシリカさんのお守りを任されただけですから。」
ペタライトは鎌を取り出してはいたが、身体は震えていた。戦いの経験が少ないせいで前に出られなかったのだ。
そんなペタライトにも怪は躊躇いなく襲い掛かる。エルはすぐ様人の姿になり、怪を石化させて砕いた。
「自分戦えないからこんな小さな子供に戦いを任せるのか?そうじゃないだろ?お前は親から大切な子を託されてるんだ。その子を守れなくてどうする?ここでもしゾフィーを倒せたとしてもシリカが無事じゃなかったら意味がないんだよ!」
エルに言われて何かを思い出したようにペタライトはシリカの元へ向かった。
覚醒したシリカはゾフィーを追い詰めるが、ゾフィーも一筋縄ではいかなかった。ゾフィーも同じように力を覚醒させ、シリカを執拗に狙う。底なしの力のゾフィーを前に、先に倒れたのはシリカだった。ゾフィーはそれを待ってたと言わんばかりにシリカの息の根を止めようとする。ところが、それは防がれてしまった。
「怪に至極真っ当な事を言われたのは初めてですよ。」
「ペタライト…」
「シリカさん、ここは逃げましょう。」
ペタライトはシリカを抱え、ゾフィーから離れた。ゾフィーはシリカを逃がすまいと攻撃を続けるが、ショールが自身の幽体で防いだ。
ゾフィーが呼んだ怪はしばらくショール達を囲んでいたが、ゾフィーと共に姿を消した。
戦いで力を使い果たしたシリカは飛ぶ気力も失っていた。ペタライトはシリカを抱え、オアシスがある人里へ向かう。ショール達も付いて行った。すると、見知らぬ誰かから声を掛けられた。
「大丈夫?」
疲れ果てたシリカの前に現れたのは、現世を旅しているエメルダと水蛇だった。




