私以外の誰か
律花は今日も一八と過ごしていた。旅する音羽や修行している一八の姉松葉と異なり、二人は相変わらず日常を謳歌している。この世界に危機が迫っているというのに、呑気に過ごしていた。
ソニアやゾフィーの姿は見なかった。あれからどうなったのだろう。一八は昴に会ったそうだが、
そして、姿を消した星藍はどうなっているのだろう。今日も彼女の姿を見なかった。篤矢の方も心が沈んでいる。星藍と篤矢はまだ再会していない。
律花は、一八と共に町を歩いていた。律花の心境と同じく平穏が続いていた。ところが、一八はその中に不穏を感じたらしい。それを律花に伝えようとしたその時だった。地面が盛り上がり、中からゾフィーが現れた。
「一八君!」
「あら、あんた達居たのね。」
ゾフィーの側には二人の青年が居た。仲間だろうか。ゾフィーの様子を伺っている。
「怪はこの世界の歪み。彼らは世の理を無視し蔓延る。」
「難しい話はわっかんないけどよ、とりあえずやりゃいいんだろ?」
二人が指を鳴らすと怪が地面から現れた。律花と一八がそれに囲まれているのを見ながらゾフィーは話を始める。
「あんたの友達?は今頃生と死の狭間を彷徨ってるんじゃないかしら?誰の記憶にも残らないまま死ぬなんていい気味だわ。」
「まさか、星藍ちゃんを消したのはあなた達の仕業なの?!」
律花がそう尋ねるとゾフィーはわざとらしく笑った。
「あの対の魂、一度妖になっただけあって、強大な怪に変化する才能があるわね。それならね、片方の子を霊体にして怪に取り込ませようとしたの。何故か邪魔されてばかりだけどね。もう片方の子はね、別れた衝撃で自ら怪になるかと思ったけれど、それもまだみたいね。」
ゾフィーは巨大な怪の上に乗った。
「風見の一族が守っているだけあって一筋縄ではいかないわね。でも、あの二人さえ怪に出来たらあんた達なんかすぐにでも始末するわよ。」
ゾフィーが指を鳴らすと大勢の怪が姿を現した。しかし一般人には視えていないのか、誰も気に留めない。
「あの二人を怪にするのも時間の問題ね。もう前世の記憶を思い出そうとしてる。そうなると厳しいわね。それじゃ、せいぜい頑張りなさい。」
ゾフィー達三人組は姿を消した。残された怪の大群が律花と一八に襲い掛かった。
町中で戦うのは初めてだった。大勢の怪は無秩序に人々を襲うが誰も気付かない。
律花と一八は二手に分かれて戦った。律花が御札を投げると怪は消え去っていったが、それでも大群の前には敵わない。一八の方も杖を持って戦っていたが、怪の猛攻を前に力尽きてしまった。
その時だった。突然目の前の怪が斬られていった。
「大丈夫?」
二人の前に現れたのは律花の母親の真由だった。
「お母さんがこんなに強かったなんて、知らなかった。」
「私もあなたぐらいの時に戦ってたのよ?」
律花の手には見慣れぬ刀があった。風見家が陰陽師の家系であるのは知っていたが、戦う姿を見たのは初めてだった。真由は刀に霊力を込めると一瞬にして怪の大群を倒していった。
戦いを終えた真由の前に遅れてビガラスがやって来た。
「怪我はないか?!」
「うん、平気…」
ビガラスは力尽いてコウモリの姿になった一八を家に運び込んだ。律花も真由と共に家に帰った。
風見家の人々は大切な人を、そして世界を守る為に強くなっていった。今の自分にはその力があるのだろうか。律花は不安になってきた。このままでは、来るべき厄災が訪れたとしても大切なものを何一つ守れない気がしたからだ。




