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君の声だけが聞こえない


 一方(いっぽう)、篤矢(あつや)は家(いえ)でも学校(がっこう)でも気持(きも)ちが沈(しず)んでいた。心(こころ)の中(なか)の空洞(くうどう)が広(ひろ)がり、とうとう空(から)になってしまったからだ。篤矢(あつや)は何(なに)をする訳(わけ)でもなくぼんやりとしている。


 それを心配(しんぱい)しているのは音羽(おとは)だった。音羽(おとは)は学校(がっこう)に居(い)る間(あいだ)はなるべく篤矢(あつや)の側(そば)に居(い)るようにした。

「なん最近(さいきん)おかしいよな。」

「おかしい?どういう事(こと)?」

篤矢(あつや)は、自分(じぶん)の様子(ようす)が異常(いじょう)だと自覚(じかく)していないらしい。

「何(なに)があったんだ?」

篤矢(あつや)は何(なに)も答(こた)えなかった。



 音羽(おとは)は一度(いちど)教室(きょうしつ)を出(で)て、律花(りつか)に会(あ)いに行(い)った。律花(りつか)は教室(きょうしつ)で誰(だれ)かと話(はな)していたが、音羽(おとは)の姿(すがた)に気付(きづ)くと、それを切(き)り上(あ)げて音羽(おとは)の元(もと)へやって来(き)た。

「星藍(せいら)が消(き)えて、篤矢(あつや)の様子(ようす)もおかしくなった。このままじゃまずいな…」

星藍(せいら)の記憶(きおく)は周囲(しゅうい)から消(き)えていたが、音羽達(おとはたち)には残(のこ)っていた。恐(おそ)らくだが、人(ひと)ならざる力(ちから)を宿(やど)しているからだろう。

「でも、篤矢君(あつやくん)に記憶(きおく)の事(こと)を話(はな)したら私達(わたしたち)の秘密(ひみつ)も明(あ)かさなきゃいけないよね?」

「そうなんだよなぁ、かといってこのままにするのもいけない気(き)がする。」

音羽(おとは)は放課後(ほうかご)ずっと冥界(めいかい)に行(い)っている。新(あら)たな力(ちから)を手(て)にする為(ため)だ。篤矢(あつや)の事(こと)が気(き)になる一方(いっぽう)で、やらなくてはならない事(こと)もある。

「もう少(すこ)しなんだ。この力(ちから)があればもしかしたら二人(ふたり)もなんとかなるかもしれない。」

「私(わたし)も、篤矢君(あつやくん)の事(こと)気(き)にかけとくよ。」

律花(りつか)はそう言(い)った後(あと)、教室(きょうしつ)に戻(もど)っていった。



 それから、放課後(ほうかご)になっても篤矢(あつや)は帰(かえ)らなかった。誰(だれ)も居(い)ない校庭(こうてい)を篤矢(あつや)は一人(ひとり)眺(なが)めていた。その時(とき)、帰(かえ)らない篤矢(あつや)を見(み)かねて校長(こうちょう)が近付(ちかづ)いて来(き)た。今(いま)の青波台(あおなみだい)小学校(しょうがっこう)の校長(こうちょう)は男性(だんせい)で、卒業生(そつぎょうせい)という噂(うわさ)もあった。

「どうした?」

篤矢(あつや)は頭(あたま)を抱(かか)え、その場(ば)にうずくまった。

「ずっと考(かんが)えていた。なんであの子(こ)の声(こえ)だけが聞(き)こえなくなったのかって」

「その子(こ)の名前(なまえ)とかは覚(おぼ)えてる?」

篤矢(あつや)は首(くび)を振(ふ)った。

「この学校(がっこう)にはね、時々(ときどき)不思議(ふしぎ)な力(ちから)を持(も)つ子達(こたち)が来(く)る時(とき)があるんだ。先生(せんせい)じゃどうにもならない問題(もんだい)も、その子達(こたち)ならなんとかなるかもしれない。」

「校長(こうちょう)先生(せんせい)はその子達(こたち)を知(し)っているんですか?」

篤矢(あつや)は立(た)ち上(あ)がって校長(こうちょう)にそう聞(き)いたが、校長(こうちょう)は首(くび)を振(ふ)った。

「さぁ、どうだろうね。先生(せんせい)も聞(き)いただけだから分(わ)からないよ。」

校長(こうちょう)は篤矢(あつや)の背中(せなか)を押(お)した。

「今日(きょう)はもう帰(かえ)りなさい。話(はなし)はまた今度(こんど)聞(き)くよ。」

「さようなら、校長先生(こうちょうせんせい)。」

篤矢(あつや)は一人(ひとり)帰(かえ)っていった。

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