空からの災厄
…冥界。そこは魂の通り道があり、現世とは異なる世界が広がっている。ただ、全てが異なる訳ではなく、鏡写しのように、互いの世界が影響し合っている。
そんな世界のある荒地で歩いていたのはノジュール、カルセドニー、クリオライト、アンバーの四人だった。彼らは人間のように見えるが、そうではない。冥界で暮らしている死神だった。
死神という名目であるが、彼らは考古学者として、様々な場所を研究している。冥界の死神達は魂の循環に関わるという本来の責務だけではなく、人間のようにそれぞれの職業や役割を持って暮らしている。
その中で考古学者という役割を持った四人の中の一人が口を開いた。
「それにしても何故昴様はこのような辺鄙な土地の調査を依頼されたのでしょう…。」
「昴様のお考えだ。私達が想像し難い何かがあるのだろう。」
昴様というのは、死神を束ねる冥府の長、冥府神皇・昴の事だ。四人は昴の命で調査をしに来たのだ。
四人はこの荒地で何かをずっと探していた。ところが、どこを見てもただ剥き出しの地面が広がっているばかりだった。
四人が諦めてそこを後にしようとしたその時だった。空から突然火の尾がついた石が降って来た。それは四人の目の前に落ち、衝撃波が走る。
「あれは隕石?ここには落ちるはずがないのに…」
ノジュールは隕石の側まで来て、隕石を叩いた。すると、隕石がひび割れ、中から怪鳥が産まれた。ノジュールはすぐにその場から離れ、仲間達に伝える。
「石じゃない、これは卵だ。怪の卵が降ってきたんだ。」
四人はそれぞれ武器である鎌を取り出した。ところが、怪鳥が叫ぶと先程と同様の衝撃波が走り、四人は吹き飛んでしまった。
「産まれたばかりなのに、強くないか…?!」
元々戦力もそこまで強くない四人だった。どう考えても勝ち目はない。四人はその場で頭を抱えてしまった。
その時だった。空に光の尾が走るのが見えた。ノジュールはまた隕石が落ちたと叫んだ。ところが、よく見るとそれは違うようだった。光の尾は怪鳥の頭上で留まり、次の瞬間には怪鳥は倒れていた。
その光の尾は地上に降りるとその姿を変えた。朱色の衣に金の冠を着けた青年の姿に四人は覚えがあった。
「昴様…」
彼は四人に調査を命じた冥府神皇こと風見昴だった。昴は卵の欠片を拾っている。
「あの卵は恐らく何かの力でここまで降っただろうな。そして、それは一つではなさそうだな…。」
昴は何かの確信があって四人に荒地の調査を命じたようだが、それを四人には伝えなかった。
「引き続き調査してくれ。俺は宮殿に戻る。これから冥界は窮地に立たされる。手遅れになる前に手を打たなければならない。」
昴はそう伝えた後、一人で飛び去ってしまった。
宮殿に戻った昴は、先程の話を冥府の役人達に伝えた後、こう命じた。
「空から怪と戦かう為になるべく強い死神を集めてくれ。戦力になるなら妖や怪でも構わない。とにかく、現世に影響が出る前にここで食い止めなければならない。」
昴は部下達それぞれに指示した。昴以外はその話をあまり信じていなかったが、皇からの命令という訳で、すぐにそれに従った。
…空から謎の存在が飛来し、現世と冥界は混乱するというのを昴は既に予知していた。ところが、その兆しが想定よりも早く来てしまった。
「この調子だと他の世界に影響が出るのも時間の問題だな…。」
昴は宮殿の窓を開け、笛を吹いた。すると、中からコウモリが一匹飛んで来る。昴はそのコウモリの足に紙を結んだ。
「律花と音羽をよろしくな。」
コウモリは頷くと、翼を広げて何処かへ飛び去ってしまった。