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切れた糸


 星藍(せいら)の家(いえ)から離(はな)れた篤矢(あつや)は星藍(せいら)を探(さが)し回(まわ)った。途中(とちゅう)、クラスメイトにも会(あ)って星藍(せいら)の話(はなし)をしたが、誰(だれ)も何(なに)も知(し)らないと答(こた)える。

「おかしいよ、たった一日(いちにち)で星藍(せいら)ちゃんを忘(わす)れるなんて…。」

クラスメイトだけでない、隣(となり)で暮(く)らしていたはずの老夫婦(ろうふうふ)も星藍(せいら)は知(し)らないと答(こた)える。あまりにも不自然(ふしぜん)だった。一日(いちにち)で人(ひと)はある一人(ひとり)を忘(わす)れるのだろうか。それ自体(じたい)はそうおかしくはないが、篤矢(あつや)にとっては大問題(だいもんだい)だった。


 篤矢(あつや)は町(まち)を駆(か)け巡(めぐ)った。そして色々(いろいろ)な人(ひと)に話(はな)し掛(か)けた。ところが、誰(だれ)も星藍(せいら)を知(し)らないと答(こた)える。



 星藍(せいら)が居(い)ない世界(せかい)は意味(いみ)がない。篤矢(あつや)は日(ひ)が暮(く)れるまで必死(ひっし)に探(さが)したが、それでも見(み)つからなかった。町(まち)をどんなに探(さが)しても、星藍(せいら)どころか、それを知(し)る者(もの)は誰(だれ)も居(い)ない。


 篤矢(あつや)の心(こころ)には空洞(くうどう)が出来(でき)ていた。それも星藍(せいら)がどこにも居(い)ないからだ。篤矢(あつや)はずっと星藍(せいら)を心(こころ)の拠(よ)り所(どころ)にしていた。そんな星藍(せいら)が居(い)なくれば、何(なに)を頼(たよ)りにして生(い)きていけばいいのだろう。

 その現実(げんじつ)を否定(ひてい)する為(ため)に、篤矢(あつや)は星藍(せいら)の存在(そんざい)そのものを否定(ひてい)してしまった。

「星藍(せいら)ちゃん…って、誰(だれ)だっけ?」

篤矢(あつや)がそう呟(つぶや)いた次(つぎ)の瞬間(しゅんかん)、お守(まも)りの光(ひかり)が消(き)えた。そして、篤矢(あつや)の目(め)の光(ひかり)も消(き)えた。そして、篤矢(あつや)はそのままどこでもない場所(ばしょ)に向(む)かって歩(ある)き出(だ)した。




 篤矢(あつや)が辿(たど)り着(つ)いたのは『光(ひかり)の樹(き)』と呼(よ)ばれる木(き)の側(そば)だった。篤矢(あつや)はその木(き)に寄(よ)りかかる。心(こころ)の空洞(くうどう)は広(ひろ)がって、いつしか空(から)になっていた。今(いま)の篤矢(あつや)には誰(だれ)の声(こえ)も届(とど)かない。



 そんな篤矢(あつや)の前(まえ)に現(あらわ)れたのはお守(まも)りを渡(わた)した青年(せいねん)だった。青年(せいねん)は篤矢(あつや)の側(そば)に近寄(ちかよ)り、一言(ひとこと)こう言(い)う。

「忘(わす)れるなって言(い)ったのに…」

青年(せいねん)が篤矢(あつや)のお守(まも)りを見(み)た。水晶玉(すいしょうだま)は篤矢(あつや)の目(め)と同(おな)じように光(ひかり)を失(うしな)っている。

「早(はや)く手(て)を打(う)たないと手遅(ておく)れになる。それでもいいのか?」

篤矢(あつや)は何(なに)も答(こた)えない。ただ空虚(くうきょ)をぼんやりと眺(なが)めている。今(いま)の篤矢(あつや)には誰(だれ)の声(こえ)も届(とど)かない。

「このままだと本当(ほんとう)に大切(たいせつ)な存在(そんざい)を失(うしな)ってしまうぞ?」

青年(せいねん)はそう言(い)って立(た)ち去(さ)るが、篤矢(あつや)は全(まった)く気(き)づいていなかった。



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