悪魔の胎動
律花と一八に一通り魔術を教えたビカラスは、居間に戻った。二人の相手をしていたビガラスはかなり疲れた様子である。
「ビガラス君、どうしたの?」
ビガラスは手紙を読んでいた。それは、昴からのもので、ビガラスもいずれは冥界で戦わなければならないという内容だった。
ビガラスがそれを妻の真由に伝えると、何故かエプロンを着始めた。
「そうだ、何か食べたいものある?なんでも作るよ!」
「チョコレートケーキ、それも生クリームたっぷりの重たいやつ。」
「真っ黒なチョコレートケーキって『悪魔の食べ物』って呼ばれる事もあるんだよ!」
それを聞いたビガラスは顔色を悪くした。
「やっぱり、俺はいいや…。」
「いいじゃない、食べよう。冥界に行く前に現世の食べ物食べとかないとね!」
真由は台所に立ってチョコレートケーキを作り始めた。いつ用意したのだろうか、材料はふんだんにある。真由はそれを慣れた手つきでボウルの中に入れ、混ぜ始めた。
しばらく経つと、チョコレートの甘い匂いがオープンから漂ってきた。それに気づいた律花と一八が降りてくる。一八は初めて見るケーキに興奮していた。
「律花、これはなんだ?」
「チョコレートケーキだよ!お母さんがまた焼いてくれたんだ。」
真由はケーキを切り、クリームを添えて手渡した。一八は早速食べている。
「甘い!こんな美味しいもの食べたのは初めてだ!」
今まで冥界で暮らしていた一八は、お菓子を食べた事がなかった。一八はあっという間に食べてしまった。
それを見た律花達も食べ始める。真由のチョコレートケーキは甘く、あっさりとしたクリームによく合っていた。
「律花が俺に似なくて良かったなって」
「どうして?」
「真由によって力が無くなったとはいえ、悪魔の手によって産まれたのは確かだからな…。」
「お父さん…。」
ビガラスは律花を見つめた。ビガラスと律花は親子だが、あまり似ていない。外見も性格も真由譲りだ。律花は、ビガラスの力や、緑色の目に憧れていた。それなのに、ビガラスが似なくて良かったというのが不思議でならなかった。
「悪魔の力って、そんなに悪いものなのか?」
一八はそう呟いた。
「俺は妖と怪の間に産まれた。だから、怪の気持ちが分かる。現世でも冥界でも怪は悪者扱いされている。どうもそれが納得いかないんだよ。」
一八は空になった皿を見つめていた。
「そっか…、一八は怪に産まれて良かったと思ってるんだな?」
「自分の産まれに不満を持ちたくないんです。どんな産まれであっても、生き方は自分で決めたいですから…。」
ビガラスは、悪魔の力を持って産まれた事が嫌だった。全てを憎んだ時期もあったくらいだ。だからこそ、その力を真由と共に手放した。
ところが、目の前の少年は、いや、少年の姿をした怪はそうではないと言っている。ビガラスは、一八の話をもっと聞こうと身を乗り出した。




