死線の拍動
家に戻った音羽は、ずっと律花と居た頃を思い出していた。Star dustの長ゾフィーが率いる怪は冥界を苦しめている。恐らく、ゾフィーはそれよりもずっと強いだろう。今回は撤収したが、次会ったら二人は立ち討ち出来るだろうか。
「律姉…」
音羽はズボンの中から小さくなった鎌を取り出した。音羽は常にこれを持っているが、ゾフィーが現れた時にそれを取り出せなかった。もし鎌を握られていたら、ゾフィーに立ち向かえていたかもしれない。
音羽は鎌をポケットに戻して、母親の絢音の元へ向かった。絢音は二人分の夕食の支度をしている。
「お父さんは?」
「しばらく帰って来ないみたい。」
「もしかして、曽祖父ちゃんに呼ばれたの?」
絢音は頷いた。この調子だとしばらく帰って来ないだろう。音羽は絢音と向かい合わせで夕飯を食べた。
そして、音羽は自分の部屋で休んでいた。父親の照彦が居ないこの家はいつにも増して静まり返っている。音羽は、縮んだ鎌を取り出して投げていた。
その時だった。音羽の携帯電話が鳴った。出ると、従兄弟の来人の声が聞こえる。来人は高校生で、音羽と同じように青波台で暮らしている。
「来人兄ちゃん、どうしたの?」
「声が聞きたくなって、電話したんだ。」
「そうなんだ、今何処に居るの?」
「何処って、君達と同じ現世だよ。僕も君達と同じく、現世を任されてるんだ。」
「そっか…。」
音羽は先程まで投げていた鎌を握り締めた。来人はもう戦う覚悟を決めているのが分かったからだ。それに比べて、音羽はまだ決められない。音羽はそんな自分が情けなかった。
電話を切った音羽は、学校の勉強をしていた。その時、窓を叩く音が聞こえる。近寄ると、そこには薄墨色の八咫烏が居た。その脚には手紙が巻いてある。音羽がそれを外すと、烏は飛び去った。
手紙を開くと、そこには昴の筆跡でこう書かれてあった。
『冥界にある火山屋へ向かえ。詳しい話はそこの主人が知っている。』
音羽は手紙を握り締めた。まさか、自分も冥界に呼ばれるとは思いもしなかったからだ。音羽はしばらくその場から動けなかったが、このままではいけないと、宝箱にしている古い缶から鍵を取り出してズボンのポケットの中に入れた。




