魂の謳
『…この世に生まれ変わり続けるのが苦しみというなら教えてほしい。何故彼らは人の世を繰り返すのか。
…この世に生き続けるのを苦しみと呼ぶなら教えてほしい。何故彼は生き続けるのか。
…世の理から抜け出すのを解脱と呼ぶなら教えてほしい。いつか彼らは安寧の地に辿り着けるのだろうか…。』
広い草原の中で一人、七道篤矢は詩を読んでいた。その詩は誰から教えられた訳でもなく、自分で考えた訳でもない。ただ、篤矢自身は空から突然降ってきたと言っていた。
篤矢は見た目は幼く、まだ小学五年生だったが、周囲に比べて非常に落ち着いていた。この年齢ながら人生を達観しているように見えた。そんな篤矢を誰かは、人の世を既に何度も繰り返しているようだと言ったが、本人にはその自覚はなく、普通に過ごしているだけだと答えた。
そんな篤矢には少ないながらも信頼する友人が居た。まずは幼馴染の木幡星藍。それから、篤矢にも言えない秘密を抱えている風見音羽とその従姉妹で六年生の律花。彼らは仲良く同じ町で過ごしている。三人は篤矢を変わりものだなと何処かで思っていたが、そんな篤矢が好きだった。
…彼らはまだ知らない。これから二つの世界で過酷な運命が待ち受けている事を。空から災厄が降って来る事も。それを乗り越える為にはある記憶を思い出さなければならない事も、この世界の人々はそれに気付いていない。