1話 決意の日 〈1〉
ここは巨大大陸の中心部。
そのとある街に彷徨く。
なんでもこの大陸一帯にはたくさんの古代文明の遺産がたくさんあるんだとか。
石タイルの敷かれた街並みを一瞥しながら、俺は行き交う人込みの中を歩く。
一般民家から、高々にそびえ立つ建物など種類は様々。
書籍によれば、かつてここは大きな戦いが巻き起こり被害甚大なできごとがあった模様。
街中の外れにはいくつもの遺跡らしきものがちらほらと見えた。道中見かけただけで寄ってはいなかったが。
「どうしようかな、行ってみようかな」
好奇心ながらもその遺跡に興味を抱く。
考古学などは端からないが、歴史のにおいをこの身で味わうのもいいかなと思った次第。
観光名所にも載っているし、行って損はないか。
街を一通り、回り終わると俺はその遺跡の立つ方面へと向かった。
巨大な街とはいえ、いままで俺が行った場所となんら変わらないような場所だった。
相違は街の中身や景色だろうか。正直興味をそそられる物は微塵もなく行く気も伏せる。
紹介が遅れた。俺はヒルガ。
世界を旅歩く風来坊で、数年前自分探しのため故郷を離れ旅に出た。
やりたいことがなければその当てもない。
空っぽな人間だが、世界を渡り歩けばその答えにいつかたどり着けるだろうと考え今に至る。まあ現状進展はないのだが。
両親は1度引き留めはした。が俺の旅へ出る理由を述べたところすんなり受け入れてくれた。
出て行く際に両親は何も言わなかった。昔から虚無な俺を見ていたから、俺の考えることなんぞ1つも分かりやしないだから告げることは1つもなかったと思える。過ぎ去った話なのでもはやどうでもいいが。
遺跡の行き先の途中、焼け崩れた跡の民家が一軒。
瓦礫が山のように重なっており、建物の内部が確認しづらい。
壊されてからだいぶ年層が経っているように見える。色褪せている部分もところどころあるし。
そんな瓦礫の中を無意識に俺はあさり始める。
すると一筋の光が差し込む箇所が見えた。
「なんだこれは」
気になり掘り返してみると奇妙な物が出てきた。
「……本? 随分の古い書物のようだが」
それは使い古されたかのような赤い火の模様が描かれた本。現代の装飾にはないような独特な模様が施されている。
本を見開いているとこれもまた奇妙な中身。謎の解読不明な古代文字が長々と綴られておりよく分からなかった。
これまで何度か古代文字は見たことあるのだが、この文字は初めてだ。どの街にもこのような文字の書かれてあった資料も、それに関する資料も見なかったぞ。
謎は深まるばかり。
ひとまず俺はその本を閉じて肩掛けのカバンへとしまう。
「き…………すか?」
「? ……何今のは一体気のせいか」
一瞬本から声が聞こえてきたような気がするが空耳か。
ひとまずそれは置いておき、俺は遺跡の方へと向かった。
◎ ◎ ◎
街外れに佇む崩れかけそうな遺跡。
入り口には小数の人々が押し寄せ、壁に描かれた模様を熟視したりして観察している。相当の遺跡マニアなのだろうか。俺には単なる浅知恵の子供が落書きしたような絵にしか見えんが。
遺跡の内部へと入り探索。薄暗い場所ではあるがカンテラで辺りを照らす。無限に続く様な1本道。その長さはというと目で推測できないくらいの深さだった。
奥に進めば進むほど、暗黒の世界は深まるばかり。……外とは違い人は俺以外誰もいなく、一瞬で静寂な世界へと塗り替えられた。
「どこまで続くんだこの道は」
恐怖を漂わせる暗闇の道。物音1つすらしないその洞窟内からはなにやら胸騒ぎがしてきた。
そしてようやく最深部へとたどり着く。
双方に建つのは本を持った魔術師の石像と魔物の石像。
互いに見つめ合う石像からは、何かしらの意があるのだと実感した。その何体もある石像が控える道をひたすら進むと。
古代の石版が目に写った。
カンテラで箇所を変えながら、石版を見ながら凝視。
目を凝らしてまじまじと見つめる。
「これは……一体なんだ」
その絵はとても独特な絵だった。数人の魔術師が天に本を掲げ魔物達を本に封印する様子がその絵に描かれていた。
その本の形はどこか先ほど拾った本と酷似していた。
「偶然だよな……」
少々焦りながらも俺は石版を見るのをやめない。
解読不明な古代文字が絵の上に書いてあり、それを翻訳した文がそこに記されている。
その文字の形や形状も先ほどの本に用いられていた文字にそっくりであった。
一部解読できていない文字もあるせいか全ては読み切れないが。
『契……と……喚師。双方は人と魔物を繋ぐ存在なり。行く末たどり着く先に自在そこなり、双方の交わす契約において大いなる力覚醒されん……………………』
そこから先は解読途中のせいか未だ翻訳されていない。
この"契約"という言葉に妙だが引っかかる。何かしら重大な因果関係が? 人と魔物……やはり昔なにか大騒動になるような事態が起きたのだろうか。
考えながら引き返し、街に戻る中慮っていると。
「おっと」
人とぶつかる。
長い紫髪が特徴的な黒い杖を持つ魔法使い。
「すみませんちょっとよそ見していて」
「あらそう? 周りには注意しないといけないわよ坊や」
年端もいかない俺と同い年ぐらいの女性だが、自信過剰なその口調から少々上から目線。一言言い返してやろうと思ったが、彼女の次の口から出た言葉に疑問を抱く。
「なにか考えごとしている顔しているけどどうしたのかしら?」
「いえ、さっき遺跡の方を見に行って妙な物を目撃したのでつい考え事を」
「ふーんいいけどさぁ。……あ、でもいいこと教えてあげようか」
やたらと絡んでくるその人は。
「昔ね、とある一族が争い合ったんだって。それはちょっとしたもめ事から生まれたんだけど、でもその人達は"特別な力"があったみたいよ」
特別な力?
「でも結局はその一族は戦いに1人も生き残れなくて文明が滅びたって話」
「一体それはどういう……」
気になったので問うてみると、彼女は俺を追い抜いた後肩に手をぽんと置き囁く。
「見たんでしょ? そして知ったんでしょ……"契約師"の存在を」
「契約師……?」
「あぁ深く考えなくてもいいことよそれ、あなたには疎遠的な存在だから」
「……」
「でも」
後にする手前で彼女は尻目に俺を見つめて忠告してきた。それはまるで未来を予知するような警告。
「"その本"絶対に捨てないことね、狙われるととんでもない目に遭うかも知れないから……じゃあね」
なぜ俺が本を持っていることを知っている? カバンにはあの本以外の書物は何もないのだがなぜあることを悟った?
契約師……? なんだそれは。
言われたことを頭で考えながら、その場で立ち止まり瞠目。
あの少女が何者なのかは知らないが、何かを知っていたその人は。
遠くを見ると彼女が歩く姿が見える小歩で遅く。
そんな彼女の手には"何か"が握られていた。……また本。
遠目なので正確には分からないが、色は紫で闇のオーラを身に纏ったような模様だった。
本? だからなんなんだあの本は一体。
「?」
カバンが震えるガサガサと。
そのカバンを漁っていると動く物を手で察知しそれを引き上げる。
手に取ったのは。
……本。あの奇妙な本だ。
「本が動いてる!?」
「聞こえますか? 私の声が?」
本から聞こえて来たのは 潤った女性の声。
声の発信源は明らかにその本。
本を握りしめたまま、俺は手に持つ本をじっと見つめ続けていた。