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契約師の使い  作者: 萌え神
1章 旅立ちの邂逅
3/10

0話 殺める罪を背負う少女

新契暦50年


 街中の澄んだ空気が漂ってくる。

 人々の喧噪に耳を傾けながら、私は本の中で今の世界を見ていました。


 私の名前はエステリア。

 数百年前生まれた新米の契約喚師です。

 私はちょうど、他国との戦いのあった合間生まれたので。


 戦況がどんな状況だったか、誰が何人殺されたかは存じません。

 両親の話によれば、数千万にもの犠牲者がこの戦いでいたんだとか。

 たしかあの戦いは"契約戦線"と呼ばれていたような。


 そんなことを考えながら私は、今日も主――契約師を求めて街中を歩きます。

 竜人の耳は目立つので、フードを被ってある程度格好を誤魔化していますけど。

 ですが窮屈なことに。


 突起した耳の部分が非常に痛いです。

 そこまでの痛感はありませんが、感覚がおかしくなりそうな気分ですねこれは。

 町の人には顔を出すのが恥ずかしいと言っていますが。

 本当はそんなことないのにお恥ずかしい限りです。


「すみませんパンを1つください」

「はいよお嬢ちゃん銅貨1枚ね」


 硬貨を手渡して昼食を買います。

 この硬貨はどこで手に入れたかというと。

 私達契約喚師が尊敬する存在ノア様からのもらい物です。


 彼女は私達にとって神のような存在。

 契約喚師に助言などを告げ、私達の道の手助けをしてくれます。

 路地裏に駆け込み買った長いパンを一口かじります。


「今日も絶妙のおいしさですね」


 最近お気に入りの一品ですが、どうも私はこのパンの虜になってしまったようです。

 人間ってどうして。

 このような美味しいものを作れるのか、不思議でままなりません。


「さて、探しますか」


 食べ終わり探索を続けます。

 ひたすら本通りとは違う薄暗い路地裏を歩きます。

 ……ノア様から言われたことそれは。

 最近どうやら裏で悪事を働かせている者がいるようです。


 契約喚師はそういう事態なると動かなければなりません。

 一刻も早く人を見つけ契約しなくては。

 でないとこの世界に滅亡の危機が訪れる。そうノア様から言付けを預かっています。


 街の本通り、路地裏などくまなく人を探します。できるだけ人がよさそうな方がいいのですがなかなか見つからないです。どこを歩いても困り果てているような方はおろか冒険者同士で話合う人ばかりです。


 少し疲れたので本の中に戻って休憩することにします。

 私は手招きをしてとある本を取り出しました。

 私の家――。


 "竜英の契約書"です。

 契約喚師が入れる特殊な本です。

 これがないと死活問題になりかねないので、常に肌身離さず方に背負う布鞄へ収納しています。


 さて、人がいないことを確認して。


「いませんねここなら。床から腐敗した臭いが漂ってきますけど……我慢です」


 というわけで路地裏にぽつんと。

 穴の空いた樽の中へ本を置いて。


「よいしょっと」


 ふと本に飛び込もうと足を蹴ると、私の身体は吸い込まれるように溶け込んでいき、生白い空間へ移動しました。

 中はとても充実しており、机や本棚浴室、食料だって間に合っています。

 私は本の中に入り少し休憩し少し考えに浸りました。


 ノア様はテレパシーでこのように言ってきました。




「エステリアさん、最近地上で何者かが悪事を働かせています。一刻も早く契約師を見つけ悪を討って下さい」

「それは、私が地上を出歩いて探せという意味で?」

「はい、お小遣いは私が差し上げますから頑張って下さい」


 とてもお優しい寛大ではありましたが、子供扱いされているようで少々腑に落ちない感じにそのときなった気がします。親御心のつもりでしょうか? と答えようと1度試みましたが失礼になりそうだったので私は口を噤みました。


 それで私は今回、この地上に出歩き始め現在に至ります。

 初めて人間界へ赴きましたが、感激物でした。広々とした青空の下には……自然豊かな野原に囲まれており、街や洞窟。様々な多種多様に及ぶ場所が溢れていました。……とても危険が迫っている世界とは思えませんでした。


「さて、そろそろ再開しましょうか」


 地を蹴るように飛ぶと、元いた場所に戻ります。時刻は昼下がり過ぎでしょうかね。……路地で中腰で座る質素な男性がパンを美味しそうに頬張っています。


 先へ進むと立派そうな戦士冒険者がいました。

 断髪としたハンサム系の男性です。困り果てた表情で辺りを見回しています。

……強そうな方に見えた私は思いきってそっと彼に顔を近づけ話しかけました。


「はあ俺は一体どうすれば。仲間に見捨てられ行く場所もないこれだと一流の冒険者にはなれないな」

「どうかされました?」


 やはりなにやら困り果てている模様。

 契約師にならないかと相談をそのまま持ちかけました。

 最初に契約する際、願いを叶えてあげるのですがそれは可能な限りの範疇です。後回しにすることも可能ですが、彼は今すぐにでも願いを叶えたいそんな根強い想いが顔から感じてきました。……相当困っていたのでしょうね。


「マジか? なんでも願いを叶えてくれるとは本当か?」

「えぇ勿論可能なことであれば。多少の危険な足場を踏むことになりますがどうです()()しますか?」


 手を差し伸ばすと彼は私の手を掴んで了承しました。

 数分。

 私は手を前に差し出して念じ始めます。

 彼の足下に契約陣が現れ激しく発光。


「竜英の契約に誓う。その力を主に宿らせ新たな契約師とならん!」


 うまくいけば契約が成功し新たな契約師と共に旅ができる。

 そのように胸を躍らせました。

 彼が願ったのはクエストで疎遠となってしまった仲間と和解すること。


 それを私は叶え今契約師にする儀式をしています。

……ですが。

 私は過ちをここで犯してしまった。


 何かが粉砕する音。

 生々しい破裂した音が私の耳に響きます。

 石タイルに広がるのは血みどろに染まった床でした。


「そ、そんな」


 恐る恐る前の方を見ると私は絶望しました。

 全ての部位が無残に切り落とされた、先ほど喋っていた彼の死体がそこにあり。


「……ッ!」


 そこから逃げ出すように私は疾走しました。

 気が落ち着くまで私はしばしの間本に身を隠すことにして。


◎ ◎ ◎


新契暦870年


 だいぶ時間が経ちようやく復帰しました。

 私達には適合属性というものが存在します。……契約する人に宿る属性が私達の持つ属性全て一致すれば正式に契約できるのですが。


 私の場合全属性所持しているため契約を結ぶのは非常に難しいとノア様が言っていました。

 適合していないと、作用が起こり契約しようとした者は無残に死を遂げる。高い代償がつきものなのです。


「できますかね今度こそは」


 手の平をじっと見つめて半信半疑な自分に問いかけます。……胸が悲鳴をあげているのは一体なぜでしょうか。


 契約喚師には寿命の概念がないのでいくら時間をかけても問題ないのですが、心の癒えはそう易々と治るものではありませんね。

 また歩いている途中に見知らぬ冒険者に声をかけて。

 契約の儀式まで話を進めます。

 ですが。


 大丈夫大丈夫私ならきっと……大丈夫大丈夫そうですよねノア様。

 ノア様の言葉を信じて今一度契約に臨みますが。

 私の願いは神には通じませんでした。


「……っ! どうして」


 二の舞。

 また私は人を殺めてしまった。

 数百年前と同様に。

 走馬灯のようにあの日犯した出来事が、昨日のように目に浮かび私は重ねてしまいます。


「やめて……。思い出したくない」


 また私は現実から逃げ本に逃げ込みました。

……。

 それから何年か1度、契約目的で出歩いては契約しようとしますがその度に人を殺してしまいました。


 寿命がない分、精神的な苦痛を味わうのは非常に胸が痛くなる内容です。

 私と契約してくれる人は果たして現れるのか。

……。


新契暦1700年


 また私が街中出歩いていると、本通りに見知らぬ人がいました。

 三つ編みの金髪をした少女。ハーフパンツを履いており頭にはゴーグルを着けていました。

 鋭い眼差しがとても特徴的で、その視線は自信に溢れているような様子です。


 私はその少女の横を素通り。

 その時でした。


「ねえあなた」

「え?」


 唐突に声をかけられ肩を掴まれます。

 それは私の素性を知っているかのような口調で。


「あなた()()()()でしょ?」


 咄嗟に清い声から出てきた言葉は契約喚師という言葉。

 明らかにこの人は契約師です。

 私は彼女に近くにある酒場に行くよう言われ駆け込みました。

 店内に入り自分のことを彼女に打ち明けました。


 彼女の名前はマーガレットさん。

 焔の契約書を持つ契約師なんだそう。


「そう辛かったわね」

「えぇ」

「でもそうそう全属性対応している契約師なんてほんとごく希よ」

「……」

「私は契約獣だけどね今は寝ているか……死ぬ覚悟で契約したわよ」


 彼女は契約するさい死を覚悟した上で契約したそう。


「マーガレットさんは何をお願いしたんですか?」

「故郷をね魔物に滅ぼされちゃって。非力だった私は力が欲しかった。誰にも屈しない力とそして勇気を」

「……」

「そうしたら狐の契約獣が現れてね、私はその子と契約し契約師になった」


 契約獣。

 人語は話せませんが小さめの契約喚師の一種です。

 他にも契約召喚獣もいますが、ここでは説明は省いておきます。


 彼女は相当故郷を滅ぼされたことを悔いている様子だった。

 湧き上がってくるのは憎悪、そして悲しみ。


「私はやつらが憎い。その魔の手というやつらの足取りを掴んで私がこの手で」


 彼女は片手の拳を力強く握りしめていました。染み染みとどれだけマーガレットさんが恨みを抱いているのかが分かります。……それは復讐の炎をその身に宿すように、顔には出してはいませんが私には彼女が歯を噛みしめる様子が頭に浮かびました。


「でも彼らは凶悪ですよきっと。勝算はあるんですか?」

「わからない。でも試してみないと分からないわその為に契約師になったんですもの」


 彼女はどんな力を持っているか知りませんが、きっとお強い方なのだろうなと視線から感じました。彼女から微量の炎属性が伝わってきます……これは?

 場所を変え元いた場所に帰り彼女と別れ。


「それじゃあねエステリア」

「エステとお呼びください」


 彼女は言い直し。


「エステいい契約師見つかるといいわね。影ながら応援しているわ」

「ありがとうございます、マーガレットさんもお元気で」


 マーガレットさんは手を振りながら一言告げて後にする。


「あなたに恵まれた契約があらんことを。……契約師と契約喚師は人と魔物を繋ぐ架け橋よ絶対に諦めないで」

「……はい、ありがとうございます」


 それは契約師、契約喚師共々知っている支えになる言葉でした。


「恵まれた…………か」


 その場で立ち止まり。

 しばらくそこで時間を潰すのでした。

 理想の契約師を求めることに思いを巡らせながら。

 いつか私の目の前に世界を救ってくれる契約師が現れてくれるそう胸に想いを抱きながら。

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