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~展の四・終~

「えっ!? エルバドスの王子が……剣聖?」


「あら、知らなかったの?」


「は、はい……戦場で数々の武功を立てた方だとは聞いていますが……」


「そう、オリヴィアなら知っているかと思ったわ。剣聖好きな子も居る事だし」


 アルフィルクの事か。


 確かに、アルフィルクなら気にしそうな話だな。


「オリヴィア、アナタは今回の件、なぜ護衛としての帯同を命じられたと思う?」


 確かに、そこ辺の説明は無かったな。


「私は……最近お母様から直々に魔物討伐等、戦闘に関わる公務を頂いていますので、その一環かなと……」


 そうそう、最近のオリヴィアはゴブリンやらオークやらの討伐に出かける事が多い。


 本来なら、新米騎士や一般の冒険者が行うような仕事の為、オリヴィアとしては王妃の嫌がらせと捉えているようだ。


 アタシとしては稽古が素振り中心になっている為、良い実戦訓練になると思っているんだが。


「……オリヴィア、お母様がアナタをアナベルの護衛に指名した意味は、とても大きいと思うわ」


「は、はぁ……」


「アナベルだけでは乗り越えられぬ、何かがあるのでしょう」


「その何かに、その王子が関係していると?」


「……オリヴィア、アナタは西の森に発生したゴブリンの件、マイラから聞いているんでしょう。私が関わっていると」


「そ、それは……」


 オリヴィアが王女として初の実戦となった、西の森に発生したゴブリンの調査。


 この一件は、滅多にお目に掛れないゴブリンロードと変異型ゴブリンの発見、そして即時討伐という結果となった。


 結果は無事討伐となってはいるが、一歩間違えばオリヴィアを含め部隊が全滅していた可能性もある。


 またゴブリン達は、隣国から渡って来たとも推測されているのだが……。


「私が魔道具を使って、隣国エルバドスからゴブリンを自国に呼び寄せた……そう聞いているのでしょう」


「えっと……あの……」


「別に咎めるつもりはないわ、だって……事実だもの」


「えっ!?」


 えらくアッサリ認めたな。いくら王女とは言え、国に被害をもたらしたかも知れないモンスターを呼んだなんて、流石に許されないだろう。


「勘違いしないで頂戴。確かに私は、部下に魔道具を使ってゴブリン達を誘い込めと言った。しかしそれは、何時国境を越えてくるかもしれない危険なモンスターを、計画的に排除しようと考えただけよ。アナタの調査が終わった後にね」


「しかし、私が調査した時には既に……」


「そう、すでにゴブリン達は国境を越えていた。我ら光鷹騎士団が管理する魔道具を使ってね」


(何が言いたいんだ? コイツ?)


「わ、分かりませんよ……」


 ゴブリンはオリヴィアの調査後に呼び寄せるつもりだった、それがヴィクトリアの思惑とは違い、オリヴィアと鉢合わせした……か。


(……あ)


 ピーンと来た。


(オリヴィア、ちょっと聞いてみてくれ……)


「え、えっと……ひょっとしてですが、お姉様はゴブリンが森に現れる事を、エルバドスの王子から伝えられたのですか?」


「ええ、正式な書面でね。私個人宛ではあったけど」


「それを、ただの目撃情報としてお母様に報告をした……」


「含みがあるわね……」


「い! いえ! 決してその様な事は!」


「……まぁ、情報元は言い忘れていたかもね」


「そ、それで……お姉様がゴブリンを呼び寄せる様に指示をした団員は、今……」


「現在行方不明中、あの一件の直後からね」


(なるほどねぇ……)


 アタシが一人納得していると、ヴィクトリアが自嘲気味に微笑んだ。


「本当に、なぜ気が付かなかったのかしらね……」


「……え?」


「何でもないわ。それにしても随分と聡くなったわね」


「え? え?」


 オリヴィアは、まだ理解出来ていないっぽいけどな。


「私からはそれだけよ、今回の件は我が国にとっても大きな節目になる。アハトの名に恥じぬ働きをしてきなさい」


 ヴィクトリアはそれだけ言い残すと、優雅な足取りでオリヴィアの部屋を出て行った。


 残されたオリヴィアは、理解が出来ぬまま茫然としている。


(よし、話も終わったし寝るか)


「ちょっと! ちゃんと教えてくださいよ!」


(もういいじゃん、とにかくオリヴィアは護衛を頑張れば良いんだよ)


「ダメです! 説明してください! 私さっきエルバドスの事を説明してあげたじゃないですか!」


(めんどくさいなぁ……)


 アタシは自分自身の考えを整理しながら、出来るだけ丁寧に説明してみた。


 流れとしては、恐らくこう……。


 ヴィクトリアは、エルバドスの王子からゴブリンの群れが西の森の国境付近に近づいているとの一報を受けた。


 アイツは、それを単純な目撃情報として王妃に告げ、捜索隊にオリヴィアを指名した。


 エルバドスの名を出さなかったのは、書面の詳細を検分されると思ったからだろう。ゴブリンロードの存在が記されていれば、オリヴィアが捜索隊から外された可能性がある。


 しかし、予定では何も見付けられない筈だった。書面には、ゴブリン達が国境に到達すると思われる日付でも書いてあったんじゃないかな。


 本来なら、オリヴィアの後にヴィクトリアが西の森を再調査し、ゴブリンを呼び寄せてそのまま退治。


 自分とオリヴィアとの差を、世間に示そうって魂胆だったんだろう。命を脅かそうとまでは考えてかったんじゃないかなぁ。


 ところが実際にゴブリン達と遭遇し、討伐したのはオリヴィアの部隊だった。


 ヴィクトリアも予定外の事。しかも、指示をした団員は姿を消した。


 通常のヴィクトリアなら、そこで気が付いたかもしれない。


(なあオリヴィア。この世界には他人を操る魔法や、催眠術みたいなモノはあるのか?)


「えっと、相手を自在に操る魔法は無いと思います。でも、極度に興奮させたり怯えさせたり、感情を操る魔法や魔道具はあったはず……」


(それで、エルバドスの狙いに気付かなかったかもな)


「それじゃあ、ヴィクトリアお姉様が感情を操られて?」


(此処まで来ると妄想の域だけどな。ゴブリンの件も浅はかだが、聖清の儀を思い出してみろ。幾らヴィクトリアとは言え、あの異常な殺気はおかしいと思わないか?)


「た、確かに……」


 今の落ち着いたヴィクトリアとあの時では、あまりに違い過ぎるからな。


 ひょっとしたら、遠回しに言いくるめられたりしてたかも。


(恐らくだが、聖清の儀が終わった後も姿を消した人間が居ると思うぞ。ヴィクトリアに近い人間がな)


 仮説を重ね過ぎて、とても胸を張っては言える内容じゃないが、大筋では間違っていないと思う。


(まあ事実はどうあれ、あのプライドの塊であるヴィクトリアは認めないだろうな)


 自分が他人の思い通りに動かされていたなんて。しかも、昔の許嫁が関わっているとしたら……。


「ちょ、ちょっと待って下さい」


(何だ?)


「一連の流れがエルバドスの意図した物なら……」


(そう、オリヴィアが狙われた可能性がある)


「え……」


 オリヴィアの血の気が、さっと引いた。


「な、なぜ私が……」


(姉に殺されかけたと思いきや今度は国家ぐるみか、人気者だな~)


「じょ、冗談じゃないです! 私は命を狙われる覚えなんてありません!」


(オリヴィアになくても、アチラさんにはあるんだろう。命を狙うというか、ちょっかいを出した程度かもしれないけど)


「ちょっかいってレベルじゃないような……」


(ひょっとしたら確認したかったのかもしれないな。先代剣聖オルキデアの娘、オリヴィアの実力を)


「母ならともかく、なぜ私なんかを……」


 そこでオリヴィアも気が付いたようだ。


「現剣聖エルドバスの第2王子……確か、ザヴァル・ア・エルバドス」


 エルバドスは過去オルテギアに痛い目に合っている。オリヴィアの噂を知れば、気にはなるんじゃなかろうか。


 やけに回りくどいやり方だとは思うけどな。


(オリヴィア、あの地下室での一件は覚えてるか?)


「勿論です、忘れられませんよ……」


 クトゥア地区と言う場所で行われた、鬼畜の所業。


 貧民地区で人を攫い、その遺体を使って悍ましい作品を作り、他国に売りさばいていた闇商人の事件。


 オリヴィアの武勇が噂され始めた、最初の一件と言える。


(もしかして、アノ外道の商売相手にエルバドスの人間も居たんじゃないか?)


「居たと……思います……」


(それでエルバドスにも噂が流れたかもな、剣聖の娘が覚醒した……とか)


「あ、あれはトモエがやった事じゃないですか!」


(傍から見れば、オリヴィアがやっとようにしか見えないだろ)


「そ、そんなぁ……」


 オリヴィアがガックリと項垂れる。


 その反面、アタシは胸が躍るような高揚感を覚えていた。


(こりゃ、ただの交渉だけじゃ終わらなそうだなぁ)


「楽しそうですね……」


(そりゃそうだ)


 アタシは生きてるお袋さんを見た事ないからな。剣聖と呼ばれる男の剣技、それを実際に見られるかもってんだから。


 しかし、気になる事が一つ。


 ヴィクトリアを代表団から外した王妃は、全て分かってるんじゃないかと思う。


 その上でオリヴィアを指名した。ヴィクトリアの言う様に、何か特別な意味があるのか? 仮説通りだと、カモがネギしょって行くようなモンだけど。


 ただオリヴィアを困らせたいって訳じゃないだろうけどなぁ……。


(それが目的なら、もう充分達成されてんな)


「何の話ですか……」


 オリヴィアは、テーブルに突っ伏したまま動こうとしない。


(ほらほら、もう寝るぞ。明日からの修行時間は今までの倍とるからな)


「倍っ!?」


(当然だろ、出発までに少しでも強くなっとかないと。コレから二週間、座学に充てる時間は無いと思え。あ、公務はヴィクトリアに振っとけ。あの様子なら、修行の為だと言えば了承するだろう)


「うぅ……」


(自分の命を護る為だと思えば軽いだろ。ホレホレ、早く寝ろ)


「わかりました……」


 ネグリジェに着替えたオリヴィアは、モソモソとベットに潜り込む。


「おやすみなさい……」


(あいよ、おやすみ~)


 オリヴィアは暫くベットの中でメソメソ泣いていたが、程なくして眠りについた。


 逆にアタシは興奮しすぎて眠れそうにない。


 国がらみで命を狙われる、しかも相手は現剣聖と呼ばれる男……かも知れない。


(良いねぇ、燃えてくる)


 その夜、結局アタシは全く眠る事が出来ず、朝までオリヴィアに課す特訓メニューを考え続けていた。

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