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~展の二~

 訓練を終えた夕暮れ時、オリヴィアは部屋着に着替え、自室で夕食をとっていた。


 本来オリヴィアは、食堂で家族と一緒に食事をするはずなのだが、ある時オリヴィアだけ自室で食事を取る様にと王妃から指示された。


 理由は姉達から「オリヴィアの髪の色が気持ち悪い、食欲がなくなる」等と罵倒されたかららしい。


 母親と同じ髪色は、オリヴィアの誇り。


 当初はオリヴィアもかなり凹んでいたが、今では「コチラの方が気が楽だ」と悠々と食事を楽しんでいる。


 なかなか図太くなってきたなと思うが、時折寂し気な表情をする時もある。本人は気付いてなさそうだけど、アタシもあえて何も言わない。


 オリヴィアと感覚を共有するアタシとしても、食事は数少ない娯楽。姉達の嫌味で料理が不味くなるより、コチラの方がよっぽど良い。


 オリヴィアの為にも、何時か色々と解決出来れば良いなとは思うけれど、焦っても仕方が無い。


 一先ずアタシはオリヴィアの舌を通し、一流シェフの織り成す美食の数々を堪能した。


 やがて食事も終わり、アルフィルクが食器を片付け終わると、オリヴィアは本棚から一冊の本を取り出しテーブルに戻る。


(またお勉強か?)


「はい、今日は剣の修行ばかりだったので」


 オリヴィアの取り出した本は、世界史について書かれた物。アハトだけではなく、諸外国との歴史が網羅されている。かなり分厚い本だ。


 オリヴィアは王女として、剣だけ鍛えていれば良いと言う訳でも無いらしい。


(また小難しい本読むんだな、マンガとかないのか?) 


「私はマンガと言う物を知りませんが、トモエが楽しめる書物は無いと思いますよ」


(アタシを何だと思ってんだよ……)


 オドオドした姿よりよっぽどマシだけど、偶にツッコミきついんだよな。


 王妃や姉達にも、これくらい言えるようになると良いんだが……。


(まぁ良いや、つまらなそうだからアタシは寝る)


「もう寝るんですか?」


 時間は夕方過ぎ、やっと空が暗くなった所だ。確かに早い時間だが、訳分からん読書に付き合う気はない。


 そもそも霊なのに睡眠が必要か? と問われれば、眠くなるんだから仕方がない! と言う以外にはない。


(早寝早起きは健康の秘訣だぜ、オリヴィアも夜更かしすんなよ)


「また深夜に起きて、私の睡眠を邪魔しないで下さいよ」


(へいへい、善処します)


 アタシは都合の良い言葉を残し、眠りにつこうとした。


 しかし唐突に鳴らされたノックの音で、アタシの眠気は掻き消される。


 現れたアルフィルクは一礼すると、やや緊張した面持ちでこう言った。


「オリヴィア様、スタンリー陛下がお呼びです」


 オリヴィアの心臓が、僅かに跳ねる。


 王からの呼び出し。それは王妃や姉達と顔を合わせると言う意味でもある。


 オリヴィアにとって、義母と義姉はトラウマの原因。


 だいぶマシになって来ているが、完全に払拭出来たとは言えないようだ。 


「わかりました、すぐに向かいます」


 オリヴィアは本を片付けると、部屋着からドレスに着替え自室を後にした。


 オリヴィアが向かったのは、玉座の間。


 そこは城の中でも一番広く豪華な場所。


 夜なのに大量のランプや燭台で灯された空間は、まるで昼間のように明るい。床には真っ赤なカーペットが敷き詰められ、お高いんだろうなぁって感じの美術品や工芸品で飾られている。


 一番奥の玉座に座っているのは、オリヴィアの実父であり現国王のスタンリー・アレク・キャンベル。


 パッとは見は堀の深いナイスミドルって感じなのだが、何せこの王様、王妃やオリヴィア以外の娘達に弱い。ハッキリと尻に敷かれていると言って良い。


 故に、玉座に座ろうが王冠を被ろうが、威厳と言う物を感じない。


 オリヴィアを気に掛けているようだが、何時も王妃達に押されて流されている。コイツがもう少しシッカリしていれば、オリヴィアが虐められる事は無かったかもしれない。


「お待たせいたしました、お父様」


 オリヴィアが王様に向かい、恭しく一礼した。


「良く来たオリヴィア、突然呼び出してしまいすまなかったな」


 オリヴィアに気を遣う王様。それを一喝したのは、隣に控える王妃だった。


「陛下の呼び出しに応えるのは当然です。オリヴィア、もう少し早く来られたのではないですか?」


 彼女の名は、エイダ・アレク・キャンベル。第1王妃だ。


 ルーブル美術館に飾られている彫刻の様な、ある意味あまり現実味を感じない程の美人。


 長く煌びやかな金髪は、代々王族の女性に受け継がれている物らしい。


 弱腰の王に代わり、実質国を支えているのは彼女だと言う者も居る。


 その攻撃的な視線は、アタシでさえも思わず身構えてしまいそうになる。


 当然、オリヴィアはと言うと……。


「申し訳ございません……お母様……」


 冷や汗ダラダラで頭を下げる。視線すら合わせる事が出来ず、不整脈かと心配になる程に鼓動が乱れている。


 相変わらず、王妃への苦手意識は消えていないようだ。まぁ、仕方ない。このプレッシャーは、姉達とは比べ物にならないからな。


「剣聖様の血を引く末妹は、修行三昧でお忙しいのでしょう」


 王妃に続けとばかりに、厭味ったらしいセリフが真横から聞こえてくる。


 オリヴィアの横に並んでいたのは、派手なドレスを纏った3人の姉。


 エイダ王妃を実母とする長女のヴィクトリア、次女のアナベル、三女のマイラだ。


 3人とも実母である王妃の血を色濃く受け継いでおり、皆揃って金髪美人。


 嫌味を言ってきた次女のアナベルは、王妃や他の姉妹に比べるとやや童顔だが、性格は一番ひねくれている。


 現在、オリヴィアを最も目の敵にしているのが、このアナベルだ。


「申し訳ございません、アナベルお姉様……」


「あら、謝る必要は無いのよ。アナタには、それくらいの事しか出来ないのだから」


 二度も凹まされているくせに、良くもまぁこんな嫌味を言えたモンだ。


(オリヴィア! 何か言い返せ!)


「む……無理です……」


(アタシには何時も言いたい放題言ってるだろうが!)


「うぅ……」


 王妃は兎も角、まだアナベル程度にもビビッてんのか。


 唸るしかないオリヴィアに、アナベルの更なる嫌味が続く。


 そんな中……。


「アナベル、お父様のお話がまだです。後にしなさい」


 そう言ってアナベルを止めたのは、長女のヴィクトリア。


 外見は、姉妹の中で一番王妃に似ている。


 長い金髪も、切れ長で攻撃的な眼も、抜群のスタイルも。


 少し前までは、ある意味アナベル以上にオリヴィアを目の敵にしていた。


 ところが、オリヴィアと命懸けで剣を交えてから少し様子が変わった。


 オリヴィアを敵視していない訳ではない。


 しかし何と言うか、グチグチと嫌味を言うような事は無くなったな。


 日々公務に邁進しているようで、最近は城内で出会う回数も減ってきた。


 それゆえか、以前よりも顔つきが精悍になってる気がする。


「失礼致しました……」


 ヴィクトリアにたしなめられ、アナベルが渋々引き下がる。すると今度は三女のマイラが溜息交じりに口を開いた。


「私はまだ報告書の作成が残っています、お話が有ればお早めに」


 マイラは姉達の中で、一番良く分からない人物だ。


 金髪軍団の中では珍しく髪を短く揃え、ドレスも機能性を重視しているのか、見た目はやや質素に見える。


 率先してオリヴィアを虐める訳でも無し、かと言って助ける訳でも無い。ずっと我関せずといった態度だ。


 オリヴィアにとって最も害のない相手だが、最も読めない相手でもある。


 そんなマイラに促され、王様が一つ咳払いをした。


「この度、隣国エルバドスより両国の関係改善の為、交渉の席を設けたいと打診が有った」


 一瞬で、場が緊張に包まれる。


「我々としても、彼の国との改善は望む所。早速、外務卿を派遣すると回答したのだが……」


 そこで王様が言葉を切った。


「何か問題でも?」


 ヴィクトリアの問いに、王様が眉をひそめる。何故かヴィクトリアの声に僅かな苛立ちを感じた。


「エルバドスの王から、国賓として我らも招待したいと」


 アタシの居た世界でも王族の国外訪問は有る。珍しい話でもない様に思うが、妙にピリピリしてんな。何か訳アリっぽい。


「それで、招待を受けられるのですか?」


 再びヴィクトリアが王様に問う。だが、答えたのは隣に控える王妃だった。


「正式に招待を受けているのです、拒む事は出来ません」


「それでは、誰が……」


 王妃は娘達を一通り見回した後、ある一人に視線を向けた。


「アナベル、アナタが私達の代表としてエルバドスへ向かいなさい」


「わ、私ですか!?」


 王妃の言葉に、珍しく否定的な声を上げるアナベル。


 普段、王妃に対して絶対服従のアナベルにしては、かなり珍しい反応だ。


「お、お言葉ですが! 私よりも……」


「ヴィクトリアは光鷹騎士団団長として国を護る立場、マイラは別件で他国へ訪問する予定が有ります。陛下や私も同様。アナベル、アナタが適任です」


 アナベルに一切の反論を許さない王妃。アナベルは渋々「畏まりました」と低頭する。


 ん? それじゃあオリヴィアは?


「そして、オリヴィア」


「は、はい!」


 王妃に名前を呼ばれ、オリヴィアは全身をビクンと震わせる。


「アナタは、アナベルの護衛として同行しなさい」


「はい、畏まりました……」


 王妃の唐突な命令に対し、オリヴィアは戸惑いながらも承諾した。


「宜しい。出発は二週間後、ヴィクトリアはアナベルとオリヴィアから公務の引継ぎをしておくように」


「畏まりました」


 ヴィクトリアの返事を最後にその場は解散、重い空気のまま娘達は玉座の間を後にした。

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