93.沼地の集団戦
日を決めて騎士団と落ち合い沼地の古塔に向かう。
【王国】の気温は暑くもなく寒くもなく、それこそ隊長と【輸送】とか逃走とかじゃなければ、非常に過ごしやすい環境。
騎士団は沼地では馬が使えないからと徒歩だが、重装備やロングローブの術士を多く抱える所為か、足並みのんびりで、気分は最早ピクニック。
気持ちが弛緩しリラックスしたまま着いた現地は、薄く霧がかかり遠くに薄ボンヤリとうろつくスケルトンがチラホラ。
まあまだ、戦闘区域手前と言う事で、
「ご飯にしましょうか」
「まあそうなるか、一応この辺はパン文化なんで、普通の食事よりは若干日持ちの良いカチカチパンなんだが?」
「確かチータデリーニさん直伝簡単料理本に何かあったような……」
鞄から本を取り出し確認していると、
「隊長みたいに手際よくなんでもってタイプじゃないみたいだが、ゲーム内の料理本見つけてくるとかやっぱり変な奴だな……」
「ありました!フレンチトーストですね!牛乳はチータデリーニさんの牧場で買った物がありますけど、問題は卵ですね」
「卵は【王国】にもあるし、目玉焼きくらいなら俺が作れるから大量に持ってるぞ」
「じゃあ、料理出来る人で、フレンチトースト大量に焼いて皆でご飯にしてから、術士骸骨討伐と行きますか」
言うが早いか、料理の準備が始まる統率の取れた騎士団。
幹部だと赤騎士が料理担当みたい。金のお姉さんは全く動かない。
何なら邪魔しないように、隅っこで座っているようにすら写る。
フレンチトーストで微量だがバフがついた所で、戦闘開始。どうやらスタミナバフのようだが数値では見えないので、多少疲れにくくなった位で考えておく。
沼地に一歩入れば、沼地に相応しい泥だらけの地面。
足首に浸かる水とぬかるむ地面に騎士団は動きづらそうだが、自分からすれば沈まないだけマシ。
スキルで補強している分割りと楽に戦えそうだ。
戦闘列は青騎士率いる重装大盾部隊。騎士はやはり【兵士】職だったらしく幹部は20人まで率いれるとの事で、これは非常に助かる。
そして次列は赤騎士率いる重装攻撃部隊。自分はフルプレート中盾持ちと中途半端なので、この赤騎士部隊と進む。
視界の悪い霧の中に散らばり情報収集担当の黒騎士。術士率いる金騎士の守備及び全体のフォローをする遊軍白騎士。
最後に術士をまとめて擁する金騎士部隊。
普段は黒騎士の収集した情報を元に金騎士が動きを決めるそうなので、基本的な部分はお任せ。
自分は士気管理と前線指揮に集中できそう。
問題は敵の強制的に移動させるっていう能力。多分強制瞬間移動みたいなんだけど、あとは見てみないと……。
そんな事を考えている内に、目の前を歩いていた青騎士部隊が丸ごと消えてしまった。
「はじまったぞ!気を引きしめろ!」
「白騎士さんは金騎士さんの術士守護を優先して出来るだけ一塊で動いてください。では『行きます』」
戦陣術 激励
高まる士気と緊張感。青騎士の位置と敵位置の情報を待ちつつ、霧の中に目を凝らす。
左前方に細いヒトのシルエットが見えると同時に、
「左前方行きます!」
走り出し、一気に接敵。相手は小盾と見られる丸い盾とロングソードだけ、その分足場の悪い沼地でも沈みにくいのか軽快に移動しているように見える。
壊剣術 天荒
一体を狙い相手が剣を振り下ろすより早く薙ぎ払い。
左手から襲い掛かってきたもう一体は、
武技 盾衝
武技で一旦距離を取れば、数体巻き込んで吹っ飛ぶので、やっぱりここの骸骨は軽そう。多分骨粗鬆症。
右手側から斬りかかってきた一撃を肩で受けガード。からの掬い上げる斬撃でやはりあっさり吹っ飛ばす。
どんどん力が湧きあがり士気が高まるのを感じるのは、相当敵が多い証拠だ。
「ふふ……防御力高めます」
戦陣術 戦線維持
これで、更に乱暴に向かっても問題ないだろう。
「ソタロー!よくこの足場でそんだけの速度で走れるな。まあこいつら片付ければ20体は削れそうだし、幸先は悪くない。いくぞ!」
赤騎士部隊が追いついて、あっという間に殲滅していく。明らかに骸骨の方が足取り軽く、翻弄されるかと思ったが、上手くカウンターをあわせて屠る戦い方は要勉強だ。
それでも滑って尻餅ついてる人がいるって事は、自分の<難路>とかは雪国専用じゃなくて割りと色んな地形で役に立つんだなと、ちょっと感心してしまった。
「青騎士発見。今は重装備スケルトンと交戦中。戦況はお互い防御力が高くて長引きそう」
「白騎士、金騎士接敵。数では完全に不利、救援を乞う」
黒騎士部隊から報告が入ってくる。
「行きますか」
「いや、この霧の中どうやって白と金の位置を探すんだ?塔だけはずっと見えてるし、あそこが沼地の中心だって分かってるんだから、全員あそこを目指せばいいんじゃないか?」
「白騎士さんと金騎士さんに粘れるだけ粘ってもらって、自分達は塔を目指して元凶を叩くって事ですか?」
「ああ、それが一番早いと思うが」
「でも、塔に近づくと入り口に戻されるっていってませんでした?」
「まあな、だから全員バラバラで誰か一人でも突入できれば、あとは術士骸骨と一対一だ!」
「博打過ぎますよね。白騎士さんと金騎士さんの位置は<分析>で大雑把な位置は分かってますから、とりあえず向かって近づいたら頑張って探すしかないですね」
「<分析>ってそんな事も出来るのな」
「見えない敵の配置までは分かりませんけどね。でも普通そうやって味方の位置を確認しながら動かすものだと思ってましたけど?」
「いや、知らなかったわ~」
<分析>使わずに集団戦って赤騎士は一体どうやって戦ってきたんだ?