90.大砦地下墓地
そして、ぞろぞろと大砦へ移動。
正直な所プレイヤー達の中でも選りすぐりの強者ばかり、道中の不安は全く無い。
活躍しどころも皆無。
談笑交じりに鎧袖一触。最早魔物が近寄ることすら許さないビエーラさん。
スケルトンの集団が出てきても、街の雑踏を通り抜けるが如し、
残るのは骨の残骸が霊子に変わって世界に光が返る様のみ。
大砦というのははじめて見たが、本当に大きいとしか言えない。【黒の防壁】とは比べるだけ無駄な途方も無いサイズ。
「前に護国の将軍と戦った時にめちゃめちゃにしたのに、もう直ったんだ……」
隊長が不穏な事を言っているが、自分はスルースキルを発動!街か都かと言うほどの砦をめちゃめちゃにするって、どういう事なのか全く想像できないし、想像したくない。
大砦の大きな門をあっさりと開けてもらい、中にぞろぞろと入っていく。
砦という割には色々揃っているようで、明らかに交易風の集団もいる事から、ただの戦闘要塞でない事が見て取れる。
広い平原内の安全地帯なのだろう。
ここを拠点にするヒトが多くいるようだが、時として隊長のような危ないサイコパスがめちゃめちゃにするという事か……。
迷うことなく平然と砦の真ん中の道を進み、あっという間に中央の大きな建物の前へ。
「はい!じゃあここからの案内人はルークになります!この建物の地下で試練を受けることになるので、気を引き締めて!」
そうして、皆で地下に向かうが相変わらず隊長がぶつぶつと、
「しかし墓の上に都とか砦とか作っちゃうのって、何様式って言うんだ?普通は避けるはずなのに【教国】はまんま地下墓地の上にあるしな~」
地下は本当に墓地。土道と墓石が並ぶ広大な空間に気持ち悪くなってしまう。
隊長じゃないけど何でこんな場所に砦を築いたんだか。
そして、一番奥にはあからさまな地獄門。
『汝に問う。心にやましき事無い者のみ、この先に進め』
声が聞こえたかと思うと、門がひとりでに開く。
一切の望みを捨てよとかじゃなくて良かったが、自分の心にやましい事って何だろうか?
特にこれと言って、やらかした事はないかな!
そんな事を考えながら門をくぐったら、後ろから騒ぎ声が聞こえてくる。
振り返ると門の所で動けない人達が沢山。
透明な壁化ガラスに阻まれているかの様子で、顔が歪に潰れておかしな事に。
通り抜けたのは、自分、隊長、騎士殿?綺麗な顔の日本刀使い。
「え?何?皆そんな後ろ暗い事してるの?」
「いや!この面子絶対逆だろ!お前達の方が絶対おかしいじゃないか!」
「いえ、僕は常に正々堂々とPKしてますし、後ろ暗い事はした事がありません!」
と言い放つ日本刀使い、PKしてるのに後ろ暗い所は無いって意味が分からないんだけど、イベントの時隊長と一緒にいたし、サイコパス仲間かな。
「儂はいつも世のためヒトのために槍も剣も振るっておる。なにも後ろ暗い所なんぞない」
「「「そりゃ鈍色の騎士はな~~~」」」
と、騎士殿?に関しては皆納得のようだ。
「まあ、先進もうか」
一番疑惑の人物は言い訳の必要すら感じてない様子。
「隊長は心にやましさって無いんですか?」
「特に……無いかな。いつも頼まれた事を一生懸命やってるだけだし」
サイコパスにやましさも何も無かった。
「第一の門で随分とふるい落とされちゃいましたね」
そういうルークとイベントの時の三人と自分。非常に心細いが、この人数で天騎士の試練に挑むのか。
次の門は、
『汝一切の望みを捨てよ』
出ちゃった!地獄門の有名な一説!
それでも一切怯まない人達はあっさり第二の門もクリア。
次の門は、
『汝大きな利を得たければ、ここで引き返せ』
そう聞こえたかと思うと、背後に聞こえるお金の音。どうせ試練だろうし、自分は現状十分に間に合っているので、ほっといて第三の門もクリア。
そして第四の門。
『汝一旦休憩だ』
意味が分からないので、どうしようかと思ったら、隊長がおもむろに料理の準備を始める。
仕方ないので普通に手伝いを申し出ると、大量の山葵を摩らされ、
隊長の出す魚やら野菜やらと片っ端から混ぜていく。挙句の果てにはステーキにまで大量の山葵を載せるので、
「こんなに緑にしてどうするんですか?」
と尋ねれば、
「地獄門だし辛い料理がいいかと思って」
たったそれだけの理由で山盛りのワサビを食べさせようとする、地獄の極卒隊長。
門が『通ってもいいぞ』と言ってもご飯を食べ終わるまで頑として動かないんだから、地獄もこの人の扱いには困るだろう。
あっという間に4つの門を抜けてきたがあと幾つあるのだろう。
そんな事を考えていると、大体もう門は無い。
終着点と見られる白く輝くフルプレートとロングソードより更に長い剣。
それに短杖とも剣の柄とも見える……なにか。
その前には二人?の骸骨。一人は背が高くフルプレートに身を包む強敵のオーラを発する骸骨。
もう一人は小柄で、ローブをまとい。表情も何も分からないのに何となく静けさを感じる雰囲気。
この二人が護国の将軍と古の聖女かと勘付いたところで、周囲に骸骨の群れが満ち溢れる。