89.天騎士相談会
数日、いつ招集がかかるかドキドキしながら待っていたら、突然【教国】に呼び出された。
何だかんだ先日の事もあってきな臭い【教国】は正直近づきたくなかったが、
隊長が魔将の件で呼び出すのだから、どうしようもない。
指定された場所に赴けば、なんか腕に自信のありそうな集団がたくさん。
しかし見た目やなんかがバラバラに見えるので、多分有力者に片っ端から声を掛けて集めちゃったのかなと。
しかし、皆相応にオーラがある人ばかり、ビエーラさんやカヴァリーさんがいたので、さり気なく近くに陣取る事にする。
自分より弱そうな人もいれば、明らかに力の上限が見えないフルプレートの人もいる。
まだ青いフルプレートの人は何とかなりそうだけど、自分とそう変わらないいかにも鉄なフルプレートの人は、顔が見えないながらも漂うオーラが段違い。
その姿を見ているだけで、足元から震えが来るのには我慢するのに忍耐力が必要だ。
駄目だ……手に持っている槍をこちらに向けた瞬間に勝負がつく幻視をしてしまった。圧倒的な力の差しかない。
コレだけの実力者を集めて尚涼しい顔の隊長は一体何を考えているのだろうか?
「はい!じゃあ皆さんに今日集まってもらったのは他でもない。魔将復活に際して、何とも厄介そうな魔将を倒す役を決める為ですね。我こそは!という方々ばかりだと思うんですが、まず一言。そこ!喧嘩してんじゃねぇ!」
確かにさっきから喧嘩している人達は気になったが、相変わらず隊長の気が短い。
一気に騒然となる場をたった一発、さっきの鉄フルプレートのプレイヤーが地面に槍を突き立てただけで、一斉に震え上がり顔が青ざめるプレイヤー達。
顔色が変わらないのは、ビエーラさんカヴァリーさん隊長、サバイバルイベントで見かけた綺麗な顔の刀使い、露出の多い赤髪のお姉さん。
他は大なり小なり顔色が変わった。
「隊長殿が手を出すまでも無い。騎士道に悖る者はこの場で成敗しよう。仮にそれで魔将討伐の人数が足りなくなったとしても、命の限り戦うとしよう」
「いや、それこそ騎士殿に切り札になって貰いたいから、自分が分からない奴等をこの場で斬り捨てるよ」
そう言いながら、ジワジワとオーラが増していく隊長。この人は普段余り気配を出さないのに、こういう時は空気に重量を感じさせる程の威圧感があるのは、何でだ?
そんな重い空気の中誰も何も言葉を発っする事が出来ないかと思いきや、
「隊長もおじいちゃまも止めるの。二人がその気になってまともに戦える相手すらいないの。今回は魔将討伐の為に贔屓や忖度無しで魔将と直接対決する人を決める会なの。文句があるならこの場にいる本物達を敵に回す事になるって事を踏まえて、身の振り方を考えるの」
さすがビエーラさん!上手くまとめてくれたお陰で全員大人しくなり、隊長の言葉に耳を傾ける余裕が出来たようだ。
「ふむ、今回魔将と直接対決する役は天騎士と呼ばれる事になる。まあ皆が好きな特殊職だかそんな感じ!誰がなっても恨みっこなし。他の者は魔将率いる軍勢との戦闘になる。指揮は自分。文句がある奴は?」
勿論誰一人文句は無い。そりゃ1000人率いるなんて途方も無い事引き受けられる人がいたら厚顔無恥というほか無いだろう。
「隊長!魔将はどうでもいいから、あたしと一戦勝負しな!脅されて黙ってるほど気が長い方じゃないんだよ!」
どうやら中には根性のある人もいるらしく、露出の多い赤髪のお姉さんは果敢に隊長に挑みかかる。
「いや、それこそガイヤの所の連中が騒いで邪魔したんだから、ガイヤが注意しろよ。それともそいつらもう一回銅の小剣一本で殺されなきゃ理解できないのか?」
「仕方ないだろ!うちのアホどもはそれはもう心の底からアホなんだから!一回喧嘩しないと分からないんだよ!」
「分かった。じゃあそいつらは自分が斬るから、ガイヤは騎士殿に任せる」
「うむ!任された!大船に乗った気持ちでいるがよい!」
「いや~!待ちな!冷静になんな!今は仲間割れしてる時じゃないよ。あんたらもくだらない事で喧嘩してんじゃないよ!」
仲間と思われる数人の頭を拳でぶん殴り、ダメージを与えていくガイヤ?さん。
流石にあの見ただけで強プレイヤーと分かる騎士殿?の強さには一目置くようだ。
「まあいいや、それに決める会って言っても自分が決めるわけでも、相談するわけでもない。皆で試練を受けるって話」
「要はゲーム内のルールに従って誰が天騎士に選ばれるかって話なの。平等にチャンスはあるわけだから、あとは普段の研鑽次第。その後どのポジションになっても恨みっこ無しなの」
「そういう事!という訳でこれから大砦に向かう。どうやらそこには護国の将軍の装備が眠っているらしい。その装備を装着して魔将と戦いましょうって事」
駄洒落かな?まあいいか。余り気にする事じゃない。
「質問が一個あるんだが、その魔将ってのは本当に復活するのか?」
「天騎士の装備をプレイヤーに装着させようってんだから、復活するんじゃない?どこから現れるのかはまだ分からないけど、何にしたって、天騎士になれる可能性を棒に振るの?」
「いや、一応の確認だ。チャンスがあるなら挑戦するぜ」
と、嵐の岬のバルトさんも参加らしい。
その後もぽろぽろと質問はあるが、結局皆天騎士に興味津々みたい。