86.待ち伏せ
指定された時間に隊長とルークと連れ立って【古都】の南門から外に出る。
「ルーク……」
「まあ、向こうは【王国】に引き渡すって言ってるだけだし、心配ない」
「ええ、まあ、お任せしますよ。アレから母にちゃんと天騎士と聖女についてちゃんと聞いてきましたし、自分の力が必要なのも間違いないようですから」
そんなこんな話しをしていると、例の三人と率いるクラン勢が姿を現す。
かなりの大人数で、明らかに自分と隊長が100人づつ率いる事を意識した陣容。
でもこちらは二人とルークだけ。完全に過剰戦力だが、この期に及んで陣容を崩す気はないらしい。
例のクラン代表の3人と自分達3人が前を歩き、大河へと向かう。
「ちっ!本当に3人で来やがって、拍子抜けだぜ」
「何を言ってるんだ。寧ろ誠意に対しては誠意で応えるべきだろう!我々は君達を傷つけるようなことはしない!」
そんなこんな話しているが、自分はずっとモヤモヤしていた。
いくら強敵だろうと、ルーク一人に押し付けていい問題なのだろうかと。
しかし自分は隊長みたいに何とかなる当てはないし、隊長が本当にどうにかできるかも半信半疑だ。
魔将を倒すってのはそんな簡単じゃないだろう。
それでも、ルークを差し出せばそれで終わりって言うのは納得がいかない。
それはこの人達が、騎士団を許せないって言って、迷惑な事をしてる事と何も変わらないのかもしれないが、それでも……。
列から離れ先頭に廻り、振り返る。
正直今まで見た事無い軍勢が目の前に広がっているが、それでもこの場で言わなきゃいけない。
「すみません。自分はこの件承服できません。一人でどうこう出来るものとは思いませんが、邪魔させて貰います!」
言うだけ言って、剣を抜き盾を構え、敵の動きを待つ。
「おいおいおいおい!隊長何とか言ってやれよ!」
そう言う、最初に会ったガラの悪い男、そして……。
「グフッ!」
喉から剣が突き抜ける術士。そのまま一切抵抗を許されぬまま滅多刺しにされて光の粒子になって消えてしまう。
「あのさ……ちょっと早いよソタロー。もう少しでこいつら全員雪の深みにはまるってのに……まあいいか。どうせ100人集まってもタダの雑魚しかいないんだから、皆殺しパーティ始めるよ。変身」
ベルトを弄るといつものフード付きローブ装備から、自分の装備にちょっと似た全身黒い西洋鎧に変わる。
よくよく見れば金属じゃなくて甲殻や皮の様だが、それでも防御力はかなりありそう。
っていうか、不意打ちで一人滅多刺しとか隊長はやっぱりサイコパス。
なんなら既に次の獲物とばかりに手近にいる他の術士も斬り捨て、ルークを連れて集団から離れてしまった。
「おいおい、こうなるとは思ってたがよ。覚悟はいいんだろうな!」
「ごちゃごちゃ言ってる間が合ったらさっさと攻撃して来ないと逃げるよ?」
「あ?重装の人間連れて逃げられると思ってんのか?」
「いざと言う時はソタローは置いてく。ごめんな!一人でも多く巻き込んでくれ!」
「分かりました!」
「おいおいおいおい!【帝国】は頭おかしい奴しかいないのかよ!」
「【王国】は頭の弱い奴しかいないみたいだけどね。じゃ!」
言うだけ言って、雪の深い方に駆け去るが、まあ早いこと早いこと。全力走隊長に引きづられるルークが、大丈夫なのか心配だ。
そしてあっという間に追いつかれたのは自分。
でも敵が多ければ多いほど、士気が高まり身の内から力が湧きあがる。
今自分は笑っているのだろうか、
<壊剣術> 天荒
セサル師匠から教わった術を発動し、全身を巡る精神力。
いつもなら盾を前に掲げ、慎重に歩を進めるのだが、今日は一人でも巻き込めって話だ。
先頭を走って詰め寄ってきた相手の頭をカチ割る。
まさか重剣がそんなスピードで振られると予想もしてなかったのだろう。あっさり真っ二つ。
まあ体が二つに割れるような表現のあるゲームじゃないけど、手ごたえはあった。
横薙ぎにすれば、三人巻き込み押し返す。それでも次々攻め寄ってくる相手の圧力を押し返すように、
武技 撃突
肩の角で押し返し、左手の盾を振り回して跳ね飛ばし、右の剣で殴り飛ばす。
何発か攻撃を喰らっているが、結局金属部で受けさえすれば、ダメージは軽減されるのだからかすり傷程度。
それでも盾と剣を潜り抜けてきた身軽そうな相手を膝蹴りで、蹴り飛ばしたらガラの悪い向こうの代表の一人。
「待て!話し合おう!」
この期に及んで戦いを始めない重装備の向こうの代表の頭に矢が突き立つ。
「女の子一人犠牲にして自分達だけ助かろうって言う男は撃つ事にしてるの」
「妻がこう言っているので」
いつの間にか自分は集団に組み込まれていた。
そしてこの声はカヴァリーさん夫妻。気がつかないうちに敵集団は矢の雨に晒されているが、四方八方から降り注ぐ矢に対応し切れていないようだ。
どうやら雪深く足を取られるこの場所を囲むように白い服の人達が配置され、矢の雨を降らせている。
そしてその矢の雨の中、当たり前の顔をしてシェーベルを駆り、縦横無尽に戦場を走り回り……跳び回り、サーベルで首を狩りまくるカヴァリーさん。
いつの間にか戻ってきた隊長もさり気なく戦場に混ざっており、上をカヴァリーさん下を隊長が斬り抜け、
時折隊長の使う術が相手の妨害をしている。
何をどうやっているのか、時折隊長の左手から発する閃光が数人をまとめて焼く。
最後にはバラバラと逃げるしか出来ない相手を足の速い二人が徹底的に追って、後ろから狩り倒す。
いつの間にか敵のいなくなった戦場で、隊長が一言。
「ざっと300人って所か、まあ倒した奴らは一旦捕縛状態になってるから、説教タイムだね」
「お疲れ様なの。ソタロー君もよく頑張ったの」
「お疲れ様です。助勢してくれてありがとうございます」
「いいの。魔将討伐に参加する為のチケット代替わりなの」
「え?魔将討伐に参加って、どうやって?」
「???今回の条件は1000人率いる事と、天騎士?とか言う凄い騎士の二つなの。隊長は1000人率いれるからそっちに組み込んでもらうの。天騎士の旧部下しか戦闘参加できないとかそんな事は無いと思うの」
「隊長って1000人率いれるんですか?」
「そうなの。多分プレイヤーでは隊長だけなの。だから騎士団は隊長と接触しようとしたんだと思う。そうなると凄い騎士は多分おじいちゃまなの」
「そうですか、そのおじいちゃまという方には心当たりがないんですけど、皆さん知り合いなんですかね?」
「?プレイヤー最強の最初の騎士にして鈍色の騎士なの」
なんかまたビッグネームが出てきたけど、この人達どういう人脈してるんだ?