85.動きだす奴ら
ある日の事隊長と連れ立って【古都】を歩いていると、見覚えのある二人と初めて見る術士風のローブの男。
「やっと二人連れ立って歩いてる所を捕まえられたぜ。話は分かるよな?ルクレイツァの正体は割れた。あの大会の時に皇帝から何やら受け取ってたのが、ルクレイツァだったなんてな~……ファン倶楽部が無かったら一生見つからなかったぜ」
「ファン倶楽部?」
「あ?知らないのか?あの大会以降ずっとこそこそ隠れて追っかけてる奴らがいるだろうよ。ルークキュンを陰から見守る会の連中だよ」
「ルークってそんなに人気あったんですね……」
「まあ、そんな事はどうでもいい。引き渡すのか渡さないのか、NPCと言えど仲良くしていた相手を生贄に出すと言うのは苦渋の決断だろうが、世のためヒトのため魔将復活を阻止するにはそれしかない」
「あのさ~自分もそれなりに調べたんだけど、そもそも生贄にするって誰が決めたの?アンタ達クエスト盗み聞きしただけじゃん。ルーク攫ってそれからどうすんのよ」
「当然【王国】に引き渡して賞金貰って以上だ。何の実績も無いくせにでかい面してる騎士団に一泡吹かせて、俺達は懐ホクホク。完璧なプランだろうが」
「いや、アホなの?騎士団がルーク攫って来いって、そんな任務受けると思う?そりゃ昔の聖女が命を張ったかも知れないけど、今回は魔将を倒せって話だと思うよ」
「はっ!何を甘っちょろい事を!それが出来ないから聖女の子孫を生贄にするんだろうがよ。いいからさっさと引き渡せや!」
「話にならね~な~……どうすっか……一旦皆殺しか?」
「いやいやちょっと待ちたまえ!ではこうしよう!隊長とソタロー君、二人共一緒に付いてきたらいい。事の顛末を見届ければ二人だって納得するだろう」
「だってよ。どうするソタロー」
「え?自分ですか!隊長はどうするんですか?」
「まあ、この状況は想定の範囲内だから考えはある」
「そうなんですか……自分は、どうしよう……」
「だからどうしたいか決めておけって言ったのに。まあ言ったからってどうにかなるもんではないか……」
「あと言っておくけどよ!今は一応街中だし三人で来てやったがこっちもそれなりの軍勢揃えてるからな!二人が100人づつ率いれる事を踏まえて、数の暴力って奴だ。はは!金はかかったが、相応の戦力は集めたぜ」
「なんだよ。集めたって言うだけで俺の紹介は無しか。俺も一応【王国】でクランを率いる身だ。クエストを横から掻っ攫うのはどうかと思ったが、まあ世界のためだと思ってルクレイツァ?の事は諦めてくれ」
「分かったよ。それでどういう段取り?」
「なんだ隊長随分と殊勝な事だな。まあそりゃそうか指揮官って事は率いる仲間がいてこそだもんな。一人で突っ張るのは流石に無理か!明朝二人でルクレイツァを連れてこい。そのまま大河を渡って一旦【馬国】に抜ける」
「へ~随分大急ぎで【帝国】から逃げ出すんだね~」
「まあそりゃ【帝国】貴族だって所までは情報が出てきたからな。NPCに追われるってのはぞっとしないぜ」
「だったら出し抜くなんて事せずにクエストを受けられるように真っ向から頑張ればいいのに、どうせ大方PKが暴れてるのだってアンタ達が金ばら撒いて先導してるんだろ?損しかして無いじゃん」
「うるせえな!【王国】の第一クランだってのにちゃんと締められねぇ騎士団が悪いんだろうが!俺達はあいつらに一泡吹かせずにはいられないんだよ」
「なんでよ?」
「あ?ここにいる連中は一度は騎士団志望だったんだよ!それがやれ【訓練】しろだの何だのと押し付けてきやがって、上だけ攻略が進むのを指をくわえて見てなきゃなんねぇ……。最強の鈍色の騎士は個人主義であっちフラフラこっちフラフラ、会う事すら出来ねぇ……」
「いやでも、騎士団はちゃんとお前らの事を思って【訓練】しろって言ってると思うぞ?こんな馬鹿な事やってないで、ちゃんと【訓練】したら?」
「それは出来ない。騎士団で活躍できなかったのは我々の力不足だったかもしれない。だからと言って下の人間は【訓練】してろなどと言っていいことじゃない。ゲームは皆で楽しむものだ。後発プレイヤーを軽んずる騎士団には思い知らせてやらねばならないんだ」
「いや、下とか関係ないから!自分だってソタローだって【訓練】してるし、当たり前なんだって【訓練】するのがさ。そうじゃなきゃ強くなれないの!フルダイブVRなんてこのゲームしかないんだから、もう少し先行くプレイヤーなり、NPCの言う事信じたら?」
「うるせえ!もうココまで来たら引き返せないんだよ!いいから明朝ルクレイツァ連れてこい!」
「まだ引き返せるだろうが!ヒト攫いの実績は無いんだからさ。ここが引き返せる最後のポイントだっての!」
「う!る!せーーーーーーー!」
完全な交渉決裂。
どうやら今回の事件は騎士団に対する私怨から端を発したものらしい。
明朝自分と隊長はルークを連れて【古都】の南門へと向かう。