84.忘れてた新術
「兄さんそろそろどうだろう?」
「焦るなホアン……丁度私も同じ事を考えていた所さ」
【訓練】中になにやら話してる師匠兄弟。
ルークは狙われてるのに平気で相変わらずフラフラと任務を受けているようだが、お兄さん’sは自分の【訓練】を見てくれている。
「さて、ソタローは覚えているだろうか?君に必要なのは術だと言っていたのを」
「……?」
「いや、確かに説明したし精神力の使い方も覚えたじゃないか!」
ああ!忘れてた!ルークと魔将の件で完全に頭がいっぱいだった!
「その顔は思い出したようだね……じゃあ、ここからは兄さんに習うといい。その為に来てもらったのだから」
「ああ!そういう事だったんですか!天騎士の話は聞いたのに相変わらず通ってくれているからてっきり暇なのかと……」
大きく目を見開いたセサルさんからキラキラ成分が一気に広がり、自分の肩に手を置いて告げられたのは、
「暇じゃない!」
「なんかすみません」
「だが、ちゃんと説明しない私も悪かったよ。君を観察して私の術を受け継ぐに相応しいか見極めたかったのだ」
「そうだったんですか、その術というのは?」
「うん……まずは私の得物を見せよう!」
そう言って取り出したのは、自分が使っているものによく似た剣。
「セサルさんは重剣使いだったんですね」
「さんはいらないよソタロー!そうさ私は君同様重剣を使う。だが見ての通りの体だ当然剣に振り回されてしまっていたものさ。昔はね」
「術を得た事で、自在に扱えるようになった?」
「うん、理解が早いね。周囲からはもっと体に合う装備を進められたが、体が細いからと言って軽量武器に逃げるような事はしたくなかった。だから旅に出たのさ……」
「周りの言う事聞いておいた方がよかったんじゃ?」
「確かにそれは賢い選択だ!しかしヒトには諦めきれぬ事もあるものさ。そして【馬国】で運命の出会いを果たした。小柄で細身、全身ピンクの服を着た師匠とね!」
「つまり、筋力の低そうな師匠を見つけたわけですか」
「ああ、そう見えたが我々より圧倒的な体格を持つ獣人達を片手で軽く投げ飛ばし捻り上げる姿にすっかり心酔してね。弟子入りを願ったが、断られた」
「じゃあ、師匠じゃないじゃないですか?」
「心の師匠と言う事さ。どうにか弟子入りを頼んだのだが『お兄さんには足りないものがあるネ』と言われてしまってね……」
「でも、術は手に入れたと」
「そう、どうしても筋力の足りない私に師はこう仰った『力という物をはき違えてるネ!体と心が一致してないから振り回されるネ』とそう言って、大人数人がかりでも持ち上げられ無さそうな大岩をあっさり真っ二つにしてしまったのだ。素手で」
「素手で……化け物じゃないですか」
「ああ……この目で見なければ信じられない光景だったが、それが天啓となり精神力を利用する事で私を振り回すこの重剣を扱えるようになり【帝国】有数の剣士となる事ができたのだ」
「セサル師匠は有数の剣士だったんですか、それも初耳です」
「師匠!!!」
「え?術を教えてくれるんだから師匠じゃないんですか?」
「いや、これからは私もホアン同様師匠と呼ぶように!くっくっくっく!ふっ!ハーハッハッハ!」
何がおかしいのか急に笑い出すセサル師匠と何故か微笑えんで見守るホアン師匠。
「それでなんていう術なんですか?」
「その名も<壊剣術>!普通じゃ扱う事すら難しい重剣を自在に操る術さ!」
「……片手で扱ってますけど」
「うん……普通は扱えないんだ。この重量の剣だともう少し長いものを両手で扱うはずなんだけど、何で当たり前のように片手で振り回してるんだろうね。でも大丈夫!今まで振るのがやっとで相手によっては当てる事すら難しかったろう?安心したまえ!これからは……」
「当りますけど」
「そう……ソタローは自在に扱えてるし、当てられる。でも、そう!ロングソード並みの速さで振りぬけたらどうだろうか?」
「それは凄いですね!命中率も勿論……」
「多少は改善されるだろうね!しかもそれは基本であって、習熟すれば剣術で出来る事が増える」
「例えば?」
「本当はお楽しみと言いたい所だが、ちょっとだけ触れると剣を地面に突き刺すと自分や仲間を強化出来る結界を展開できたりとか、逆に敵を弱体化したり」
おお……まさに前にホアンさんと話した手札を増やせる術。
「てっきり斬撃を飛ばしたり、剣のダメージが増えるような術だと思いました!」
「ギクッ!」
「ぎく?」
「う、うん攻撃力は上がるよ……まあ、剣の術だと一発大きなダメージ狙いの様な必殺技が持て囃されるのは分かるが、タダでさえ攻撃力自体は十分なんだし、大事なのは当てる方法じゃないか?」
「その通りですね!是非教えてください!」
「ここで残念なお知らせです」
「出た!残念なお知らせ!でもどうせ<剣技>がなくなるとかそういう……」
「正解だ察しがいいね。<剣術>全般そういうものらしい剣系武技が重剣系に固定されてしまうが、どうする?」
「……今の所重剣以外使う予定ないですし、いいですよ」
「よく言った!それでこそ私の弟子だ!じゃあ最初の術を教えるとしよう <壊剣術> 天荒 だ。重剣と全身を一体として精神力を巡らせる事で自在に重剣を扱えるようになる。ただし使っている間は徐々に精神力を消費していくから気をつけるようにね。消費自体は少ないが使い続けていれば枯渇するからその辺もよく考えて使うように」
なるほど、発動したら発動しっぱなしにしなきゃいけないのか。それでも重剣を長剣並みに使えるとなれば、かなり助かる事間違いないぞ。