81.更にお兄さん
「ふむ、君がソタローか!我が最愛の妹を任せるに値するかどうか私が直々に見てやろう!」
ホアンさんは金のさらさらヘアーだったが、そのお兄さんセサルさんは金のフワフワ長髪ヘアー。
ホアンさんに勝る量の謎のキラキラ成分を撒き散らし、目のハイライトもおかしい。
隊長を後ろから刺せる様な【訓練】と聞いていたが、なんで金髪キラキラお兄さんに絡まれるのだろうか?
「ふむ、ソタローも何か言い返すといい。やはり精神と愛こそがモノを言うのだ。ここは思うことをはっきりとぶつけ合い、その後相互理解を図ろうじゃないか!」
なんともホアンさんまで無茶を言う。
要は挑発されたのだから、はっきり言い返して戦ってから友情が芽生える少年漫画的展開を演じないと先に進まないのだろうか?
「……そんな細い体と筋肉じゃ、率いられる【兵士】達も不安で夜も眠れないんじゃないですか?いつでも相手になりますが、せめて吹けば飛ぶタンポポの綿毛のような体を何とかしてくれないと、まともに相手も出来ませんよ」
ただでさえ、ハイライトのおかしな大きな目を更に見開き、全身が震え膝から崩れ落ちながらも空を仰ぐセサルさん。
「ホ……ホアン……私は兵達を不安にさせていたのだろうか?いや、薄々は気が付いていたのだ……こんな貧弱な私に兵を率いる資格なんて無いとね……どんな戦いだって常に最前線に立って戦い抜く覚悟はあるのに、いつも後ろで指揮してくれといわれる始末……私は、血筋だけで兵達を率いていたのか?正直に応えてくれ!ホアン!」
「そんな事はないですよ!常に一人一人全ての【兵士】たちに気を配り、優しく見守る兄さんだからこそ【兵士】達もついてきてくれるんですよ!そんな兄さんだからこそ皆守りたいと思ってくれるんですよ!」
「自分はいつも最前線に立ちますし、軽量の隊長は【兵士】達をギリギリまで追い込みますけど、慕われてますよ?」
「グ……グフ!!」
「兄さーーーん!!!!」
雪が薄く積もる訓練場に倒れ動かなくなるセサルさんと、セサルさんを抱きかかえて叫ぶホアンさん。
自分には状況が今一理解できない。
「どうしたらいいんでしょう?」
「ふ、ふふ。ソタローと言ったね。どうやら君は只者では無いらしい。君の言う通り体はこの通りだが、折れず曲がらずの鋼の精神を持つとまで言われた私の心をここまで散り散りにするのだからね!しかし、なんでも君は迷いがあるらしい。そしてもし心が決まった時にそれを貫き通す力も足りないと聞いた。だから私がこうして来たのだが、杞憂だったようだね」
「いえ、兄さん。さっき出た仲間をギリギリまで追い詰めて尚慕われる隊長と呼ばれる方が、今回のソタローの相手になるかもしれないのです。そして意見が分かれたなら後ろから刺せとまで言い放つ傲慢な相手……正直ちょっとやそっとの事で追いつく相手ではないからこそ、兄さんの知恵を借りたいと……」
「えっと……できるなら隊長と協力したいんですけど、隊長はちょっと何考えているか分からないし、敵はルークを狙っているので場合によっては、自分がルークを助けたいと思っているんですけど……」
「そうなのか!妹の身を案じて……僕のような頼りない細身の教えすら乞おうと言うのか……なんて愛深き漢だ!分かった。私はコレまでいくつもの体型のハンデを越えてきた経験がある!その知恵と知識を君に伝授しよう!もし困ったことが有るならいつでも相談して来ればいい!きっと力になる!」
「兄さん!彼はソタロー!僕の弟子なんだ……、とても素直で真面目。何より素晴らしい筋肉がある!それでも手が届かないかもしれない相手を後ろから刺す方法を教えてあげて欲しい。あと天騎士について知っていたら教えて欲しいんだけど」
「えっと……?よろしくお願いします。自分も今回の件はどうなるか分からないし、どうしたらいいのか分からないんです。場合によっては【王国】の者を雪に沈める方法を……」
「ふっふふふ、よく分かったよ。どうやら僕は君を放って置けないようだ。そして君は隊長を後ろから刺す気なんて最初から無い。寧ろ【王国】の者の倒し方を知りたいんだね?それならそう言えばいいのに、誰に遠慮しているんだい?」
「兄さん……ソタローは……」
「遠慮してるとかは無いですけど、意見が割れたら後ろから刺せっていうのが、引っかかると言うか……」
「うん、何だかんだ隊長の事は信用していると……本当に刺せと言ってきたのかい?」
「ええ、刺せる位にしておけといっていたと思いますが」
「いや、どうするかはっきり決めておく様に言われました。いざと言う時は剣で決めなくちゃいけないかもしれないから、後ろから刺せるくらいには覚悟を決めておけと」
「ならば意味合いが違う。ソタローは刺す為の修行より、どうするかを決めるべきだ。それならば先に天騎士の話をしよう」
ぼろぼろになるほど悪口を言った筈なのに、ちゃんと教えてくれるのが意味分からない。
あと修行つけてもらえって言ってたのは兵長だった筈?