80.【帝国】帰還
ちょっとどきどきしてログインしたが、どうやら追いつかれたり囲まれたりと言う事は無さそうだ。
まあこちらも戦闘員だけで100人いる集団な訳で、相手がそれ以上の戦力を集めて移動できるのか?
普通に考えて難しいか。
油断は出来ないけど、そこまで逼迫した状況でもないだろう。
湿地の町からもひたすら真っ直ぐ【王国】の平原を抜けるが、何しろ村や町に逗留しなくても野営できる関係上、相手よりも進みが速いのは間違いない。
気がついた時には大河に出たが、問題はここからどうするか。
「多少待っても全員で行こうか」
「反対では無いですけど、念のため理由を聞いてもいいですか?」
「ポータルで都を押さえられてたら面倒くさい。その時はこちらも軍勢が必要になるじゃん?」
「なるほど。走って追いつけないならポータルでショートカットって訳ですか。ありそうな話ですね」
「向こうも言ってたけど【王国】はプレイヤーの分母が多いだけあって、クランの規模もちょっと分からないからね」
なんだかんだ言いつつも慎重な隊長。コレなら万が一も起こらなかろうと、大河でを渡る船を待つ。
今回は積み込む荷物が無い事と、隊長がどこでどう顔を利かせたのか、何ならいくら払ったのか分からないが、何とか船を融通してもらって、対岸へ渡航。
本来近いのは【旧都】だが、今回は念の為勝手知ったる【古都】へと向かう。
途中【黒の防壁】にも一瞬だけ立ち寄ったが、チータデリーニさんに状況を話したら、早馬を出してくれて【古都】の方でも警戒してもらえる事になった。
なんだかんだ順調に進み、全て揃えて【古都】へ到着。
すぐさま兵長に報告しつつ、ホアンさんにも話を聞きたいとお願いする。
「とまあそう言う訳で、正式な依頼じゃないけど、ルクレイツァってのを狙ってる奴がいるらしい」
「自分が知ってるルクレイツァはホアンさんの妹だけなので、まずは話しを聞いてみようかと」
「は?何言ってるんだお前ら。ルクレイツァって言ったらルークだろうが?だから狙われたんじゃないのか?」
「なんで偽名なんだ……?」
「多分家柄がいいんじゃないですか?そう言えばお兄さんたちも一般兵からはじめたとか言ってた気がするし、そういう家系?」
「そうだな一応貴族だ。代々武官だし、現場主義なのばっかりだが、まさかルークの母親が聖女の家系だったとはな」
「何で母親だって分かるんだ?」
「ルークが【教国】の血を引いてるのは聞いてましたけど、あの顔の造形だし……でももっと先祖で混じってる可能性は?」
「無くはないが、可能性は低いぞ。あいつの親父もその親父も代々ただの筋肉だし、あんな細いのは息子達からだ」
「誰が細いって言うんだい!陰口はやめたまえ!」
「話にあったホアンさん?悪口言ってたのは兵長だけだよ」
「そうですね。自分達は何も言ってません。真面目にルークの身を案じてただけです」
「こいつら裏切りやがった。別に悪口のつもりはねぇ。身体的特徴が変わったのはお前の代からだって話だ。それで魔将について心当たりはあるのか?」
「ないね!ただ母は【王国】の物語に出てくる騎士将軍のような方と結婚したかったらしく【帝国】に嫁いできたと言う話は聞いた事ある」
「ふむ、死してなお国を守るってのは護国の将軍以外にいるのかね?」
「え?隊長そっちは心当たりあったんですか?しかもこの前戦ったばかりとか言ってませんでしたっけ?」
「……もしかしたら魔将復活に合わせて護国の将軍も大砦占拠したってのか?」
「ふふ、はははは!だとしたらどうする?隊長はその護国の将軍と戦ってどうしたんだい?」
「いや倒しちゃったけど。どうすっか」
「どうすっか……、じゃないですよ!どうしますか?」
「どうしようもねぇな~。隊長だって上からの御達しで任務に行っただけだし、何の責任も無いだろ。どうしたい?」
「そうだね……僕はルクレイツァをみすみす人柱にするような真似はしたくないね。それだけだ」
「そりゃそうでしょ。どうにもならないから一人生贄にして、はい完了なんて話は無い。魔将ってのが全てのヒトの敵だって言うなら、世界全体で当たるべきだし【王国】のみの脅威だって言うなら協力要請次第」
「協力要請次第って……いいんですか?もっと積極的に動かなくて」
「まぁ、隊長が言いたい事は分かる。他国の事に戦力率いて首突っ込むなんて勝手にやっていい話じゃないだろうが」
「ふむ、もし……【王国】の手の物が強引に力づくでルクレイツァを攫いに来た場合は?」
「可能性は無くもないし、その時の為の準備は急いでおいた方がいいか。この場合皇帝陛下に許可取らないといけないのかね?」
「え?どういう事ですか?」
「まあ、その辺の事は報告を上げる必要もあるし、俺の方から話を通しておこう」
「ふむ、僕は僕で母から例の聖女の件を聞いておこう。あと天騎士か……、どんな存在なのだろうね?」
「まあ、ソタローはどうしたいか決めておくんだね。もし意見が分かれたら剣で話を付けなきゃならない場合もある。その時自分の事後ろから刺せる位にはね」
「何で後ろから刺すんですか!」
「じゃなきゃ、隊長倒せないだろ?丁度師匠がいるんだ。いざって時隊長暗殺出来るように修行つけてもらえ!」
「いいだろう!正面からぶつかる方法ばかり教えてきたが、我を通すために後ろから刺す方法も教えようじゃないか!」
何でかよく分からない内に、隊長を暗殺するための修行をする事になってしまった。