79.湿地通過と酒の町
そして辿り付くのは例の湿地。迂回するのかと思いきや……。
「さて、この湿地が天国と地獄の分水嶺!馬を喰う強敵がいるのは分かっているが、ここを真っ直ぐ進めれば、逃げ切れるのは間違いない」
「本気ですか?ここは回り道しても逃げ切れるんじゃ?」
「いや、相手は腐っても【王国】プレイヤーだし、平原を馬で駆ける能力はあると思う。つまりここが金ヶ崎!自分達を追ってくれば馬を喰われる。回り込めば逃げる時間を稼げる」
「なるほど……だから何も買い付けはせず。更には皆駆け足で、逃げてきたんですか」
「まあ、そういう事。全てはここで勝負を決める為。もし相手が根性入れて、徒歩でこの湿地を抜けてきたら、話は変わるけど真っ向勝負だね。何人連れてくるか分からないけど、こっちは101人で、戦い抜く事になる」
「全ては相手次第ですか……ある意味相手に主導権を握らせてるようにも見えますけど」
「まあね【王国】内じゃ華を持たせて上げるよ。でもね【帝国】に進入してまで、あの態度を貫くなら……お楽しみだね」
「お楽しみですか?」
「うん、雪原に引き込んで、ど田舎プレイヤーの戦い方を徹底的に教えてあげようかなと。世界一周して分かったんだけど、雪って相当足場悪いよ。あそこで戦えれば大抵の場所で戦える。逆に戦いなれてなければ……」
「こちらは雪原に慣れてるし、負ける理由は無いですか」
「そういう事。じゃあ皆気合入れて湿原踏破と行こうか!」
そして、踏み込む湿原は意外と木の足場が架かっていて、通る人に優しい。
「足場沈めたろうかな……」
不穏な事を言う人もいるが、順調そのものだ。しかし確かに馬で通るには結構きついかもしれない。
そんな中、流石に細い足場道だけあって、足場をはずれ湿原に落っこちた者がいた。
すぐさま足場に戻ろうとしたが、何かに足を取られ、そのまま湿原奥に引きづられていく。
身軽な隊長が追い、その先には大きな蛙が一匹。
いぼいぼの茶色い蛙が舌を伸ばし【兵士】を丸呑み。
しかし、隊長はあっという間に追いつきその蛙の腹を一突き。
吐き出された【兵士】を救出しつつ、蛙と戦闘開始。
名も無き一般兵を飲み込まれた事で完全に火がついた隊長の滅多切り、
しかし蛙もさるもので蝦蟇油とでも言うのだろうか、傷口を粘液で塞ぎつつ、舌で応戦。
何をどうしたのか、隊長の剣で斬られた所が凍り、傷口が開かないものの蝦蟇油も一緒に凍結。
動きの鈍くなった蛙を倒しきってしまう隊長。
仲間が加勢に行くまでもなく、ボスサイズの大蝦蟇を倒す様はやはりヒトを率いるだけの事はあるなと……。
「多分あの蛙が馬喰いだから、全員気をつけて!足場から外れた途端やられるよ!」
全員に釘を刺しながら、本人は警戒してるかどうかも分からないスピードで湿原を抜けつつ、先の安全を確保している。
その後も、何度か蛙は現れたが、その都度対応して何とか湿原を通過。
複数人でかかれば何とかなる相手だったが、隊長のようにあっさり滅多切りとは行かない。何しろ蝦蟇油で滑ってしまってまともに剣筋が立たないのだから苦戦必死。
途中湿原のど真ん中に祠のような物を見かけたが、それは完全にスルー。
本日は逃走がメインなので仕方なし。いずれ訪ねてみたいものだ。
湿原を抜けた先には町があったので一旦休憩!
よくここまで駆け抜けたなって感じだ。例え馬に乗った相手と言えどもそう簡単には追いつけないだろう。
何でもその町では旅人に酒を振舞うのが習慣らしい?
複数の蔵でお酒を作っているが、どれも【王国】に納める物で、飲みたければここで飲むしかないらしい。
自分は未成年なので勧められないが【兵士】達は断るのでいっぱいいっぱい。
隊長はどうせ飲んだくれているのだろうと思ったが、
寧ろ珍しいお酒を自慢して、交換して欲しいと頼まれている始末。
町のヒトは【王国】に納める一級品のお酒で旅人を迎える習慣らしいのに、今では隊長に振り回されている。
完全に主導権を握った隊長のあこぎな交渉が怖すぎるので、自分は距離を取ってご飯を作ろう。
まあまだ大した物は作れないし、手際が良いわけでもないが、皆で食べるスープぐらいはいいだろうと思った所で、
子供達が山盛りの白い塊を渡してくるので<分析>したら酒粕だった。
この町では子供までお酒を勧めてくるのかと思った所で、ちょっと天啓。
「隊長!ブリとかの魚と味噌と出汁持ってないですか?!」
「え?あるけど、どうするの?」
「いや、アリェカロのミルクと一緒に味噌汁にしたらおいしいかと思って……」
「はいはいミルク味噌汁ね。出汁多めにしておけば、味壊れないからやってみな」
そう言って、材料を渡してくれるのは流石。
更には味噌汁だと分かった瞬間、酒粕生姜焼きを作り始める隊長の料理能力が相変わらず謎。
ある意味新しい世界を見るようなスピードで走り回った挙句に落ち着いて食べる食事は何とも癒される。
隊長の言ってた雪中行軍の厳しさと食事の大切さとはこの事なのだろう。
無理をして出来るだけ広げたアドバンテージに、今夜は一旦しっかり寝て休息タイム。