76.変人と変な人達
湿地を迂回して歩いていると、突如地面が盛り上がり土の中ならヒト型の骨が剣を一本持って立ち上がる。
そして、次々草の陰から骨が立ち上がり見る間に取り囲まれてしまう。
「コレが死者の平原名物の骨魔物」
「魔物って言ってもヒトですよね?」
「うん、死ぬと本来は霊子に返るんだけど、魔素を浴びすぎると死体が残っちゃって魔物化するんだってさ。一応浄化って言う名目なんで、討伐しても問題ない」
問題ないって……、そりゃゲームでスケルトンを倒した事はいくらでもあるけど、流石にこんなリアルにヒトの死体を倒さなきゃいけないことがあるなんて……。
「ちょっと心の準備していいですか?」
「ああ……もししんどかったか自分が片付けるから大丈夫だよ」
「いや、でも魔物化したヒトの死体を倒して霊子に戻してあげるみたいな感じですよね?」
「そういうことみたいだね。一応【教国】で聞いたから倫理的にも問題ないと思う。ちなみにこの辺りは野晒しだからさらっと系の死体だけど【教国】の地下墓地はウェット系だから」
「なるほど【教国】はもうちょっと慣れてからにします」
「うん、無理はしない方がいいね。まあ片付けない事には先に進めないから、待機でも参加でも好きにしていいよ。この程度なら余裕だから」
そう言うと隊長は刃のついてない短い刀を取り出して、指揮を始める。
あっという間に士気が上昇し、気分が高揚してくる。と同時にステータスの上昇も感じるのは<活性>の効果だろうか?
鎧の内から押し出すように膨張する筋肉!自分を支配するのは圧倒的全能感!
気がついた時には重剣を抜き、骨を一撃の下に砕き潰す。
2体目は横薙ぎに上半身と下半身を分離!3体目は<蹴り>で粉砕。
死を恐れずに真っ直ぐ斬りかかってくる骨を盾で突き飛ばせば、ぐしゃっと潰れて転がる。
転がった骨を踏みつけ、そのまま今度は3体の塊に突っ込み、
武技 撃突
まずは1体、横薙ぎに2体まとめて蹴散らし、すぐに次の獲物を探している内に急に冷静に……。
結構な数がいた筈のスケルトン集団をいつの間にか制圧していたようだ。
周りの【兵士】達もどうという事なかったらしく、被害は殆どないに等しい。
その後も平原を進めば野性の動物かスケルトンに出会うが、まあまず問題ない。
そのまま進み、最初の町で多少の鉄製品を降ろし、更に少し進んだ所に広いだけのセーフゾーンがあったので、そこを宿営地に休む。
そして、数日死者の平原をうろうろしていると、ちょっと大き目の街に入る事に。
街だけあって外壁は高く堅牢な様子だが、密集しつつもバランスよく配置された建物と奥に進むほど緩やかな上り坂になり、街の中心が分かりやすい造りにちょっとほっとしながら荷降ろし。
その街の倉庫に丸ごと残った品物を降ろすようなので、ここが目的地なのだろう。
隊長はなんか見慣れぬ建物に入っていったので、聞いてみたら【運び屋】の【営業所】との事。
表で一応待っていると、なにやら集まってきた一団の知らないプレイヤーに声を掛けられる。
「よう、あんた【帝国】から来たんだよな?この集団の代表ってどこにいんの?」
「え?今この建物の中で何か話してますよ?」
「ふーんそうか……」
なんだろうか?気にするような事でもないんだが、明らかに自分達の方が格上だぞって雰囲気を出してる?
でもまあその割には動き方が雑だし、言っちゃなんだが重剣一発で頭カチ割れる程度の実力しか無さそう。
簡単に言うと超弱い。新人なのかな?
そうこうしていいる内に隊長が建物から出てきて、その周りを囲まれてしまう。
一応自分は重装備だが、軽装の隊長が弱く見えるのだろうか?
そんな事はないか、気を抜いたら一瞬で見失うスピードのヒトを舐めるほどアホな人はいないだろう。
「なぁ、あんた【帝国】プレイヤーだよな?まあ知ってて聞いてるんだがよ。ちょっとルクレイツァってのこっちに渡してくれよ」
「断るよ。じゃあね」
用件もろくに聞かず断る隊長に詰め寄るプレイヤー達。場合によっては間に入らねばならないかと一気に動悸が増す。
流石に知らないプレイヤー相手に剣を振るうのは初めてだ。街中で大丈夫だろうか?
「いやいやいや、何様か知らんがよ。ここは【王国】だぞ?お前らのいるど田舎とは違うんだよ。な!そりゃ1位2位は化け物揃いよ?それでもそれ以下だって多士済々!お前如きがいきがっていい場所じゃねぇんだよ?」
「へ~ちなみにその1位と2位って誰か聞いていい?」
「はっ!世間知らずが!騎士団と闘技場のガイヤの所に決まってんだろうが!」
「あ~騎士殿とガイヤにはまあ、一目置くけど他はどうだろうね?それ未満は自分に絡まないでくれる?不快なんだけど?」
「てめ~マジで体に教えてやらなきゃ分からないか?」
「それこっちの台詞だって分かってて言ってる?お前如きが一万人いたって一発も喰らわずに完封してやるよクソ雑魚が!」
うわ~完全に切れちゃったよ隊長……。
「待ってくれ!双方やめるんだ!」
突然現れた重装備のイケメン?
なんか若干【教国】風?のアバターのお兄さんが止めに入る。