73.変人と【輸送】
クラーヴンさんに装備を作ってもらい、慣らし程度に近隣の魔物を狩って数日。
そろそろクエストでも受けようかなって頃合で、タイミングよく振ってきてくれるのが兵長。
「新しい装備の調子も良さそうだし、どうだ?気分転換に遠征とか興味ないか?」
言われてみたら、ガンモから他所の国の話は聞いても、自分から出掛けた事はないな。
まあ正直、用事がないっていう話しなんだけど、楽しみを取っておいたら忘れてたとも言える。
何しろ【帝国】の【古都】周辺だけでも行ける場所は色々あるし、料理に戦闘に任務にとやる事も多い。
寧ろ【帝国】国内をもっと歩きつくしてからの方が、いいんじゃないかとすら思ってしまう。
しかし全てを完全に網羅しようとしたら、いくら時間が有っても足りない広さなんじゃないかとも思うし、
なんならあのやたら足の速い隊長ですら、行った事無い場所なんていくらでもあるんじゃなかろうか?
ここいらで、一度他の国を見てみるのもいいかもしれない。
「興味はあるんですけど、自分で大丈夫ですかね?」
「そりゃいきなり一人で行って来いなんて言わないぜ。隊長が【輸送】任務で【王国】に行くから、興味があったら付いていっていいぜって事だ」
「隊長か……」
「ははは!早速振り回されてるのか!あいつと付き合うコツは言いたい事を言う。やりたい事をやる。やって欲しい事を頼む。コレだけだ。はっきり言わんと振り回されて疲れるぞ」
「そんなものですかね?」
「おうよ。我侭勝手な奴だが、逆に他人に対して頭ごなしに命令するような奴じゃないし、寧ろそれをしてくる相手にやたら反発するからな……そういうのに出会うと面倒なんだよな……」
「やっぱり面倒なんじゃないですか!」
「まあ、何事も経験だ。何かあっても隊長の責任だから気楽にやれよ」
という事なので、初外国は【王国】に決定。
【古都】門前に大荷物と大人数が待っていたので急いで合流。すぐに隊長に挨拶と思ったら……。
「おっ!ソタローも一緒なんだ?【王国】は行った事あるの?」
「いえ【帝国】から出るのも初めてです」
「そっかそっか、まあ気負わなくて大丈夫。列乱さなければ迷子にはならないから。何かあったら周りの【兵士】に相談する事。一応各部隊の隊長だけ紹介しておくわ。【歩兵】スペーヒ、【偵察兵】ルーシー、【弓兵】ルーク、【衛生兵】カピヨン、【重装兵】ソタローそんな布陣だから」
「どんな布陣ですか!自分は初めてだって言うのに!」
「でも100人率いて戦えるなら部隊長もいけるでしょ?ちゃんと自分もフォローするし問題ないよ。荷物運ぶだけだよ?」
「だけって……。まあ分かりました。それで目的地とかルートとかは?」
「ああその辺は道々説明しようか。自分も【王国】に詳しいわけじゃないけど概要くらいは分かるからさ。じゃあ出発!」
なんだか相変わらず振り回されっぱなしの気もするけど、任務受けちゃったものは仕方ない。まずは【王国】について教えてもらうか。
「それで、まずはどこに向かうんです?」
「うん、中隊長の称号持ってるって事は分かると思うけど【黒の防壁】だね。ざっくりとした地理で言うと【古都】からそのまま南下すると【馬国】に入っちゃうから西の【旧都】辺りから大河を渡って【王国】に入ろうと思ってさ」
「えっと、色々分からないんですけど、何で【黒の防壁】経由?あと大河を渡るって……?」
「ああ、森の中の方が危険な代わりに雪が少ないから行軍するには楽なんだよね。寧ろ大河沿いの大通りは一般の人に使ってもらいたいじゃん?後は大河か……簡単に言うと大河は国境。そしてこの大人数で渡るにはそれなりの大きな船の船着場があるところじゃないと困るから【旧都】みたいな大量の荷積み卸しのある場所を利用するって訳」
「はぁ、何となく理解できました。ところで隊長って前に【黒の防壁】を交易拠点に作り変えました?」
「ああ……勝手に荷物置き場にしてたね。なんか拡張とか出来るからお金稼いで荷物置き場増やして、中継地点に使ってまた儲けてみたいな?でも全部国に納めてるから、何も問題ないよ。多分兵長が何とかしてくれる」
「そうですか……兵長も大変ですね。それで今回は【王国】のどの辺りに行くんですか?首都とか?」
「いやいや【王都】は栄えてるし、海に近いから海運でやってるんじゃない?何しろ【王国】って広いんだけどさ。この大陸の中央だもんで戦争が沢山あったんだって、だから大半が死者の平原て言う魔物だらけの土地らしくて、危険な場所を避けて街やら都やらあるって訳。そうすると中心部は都に適さないんだよね。なので外辺の海近くに都があるっぽいよ」
「へ~、海って西側でしたよね。あえてそっちから廻らないって事はその危険な中央部に用があると……。寂れた町村に荷物を届けて回る感じなんですかね」
「ん~そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるかな。一応中央にも都があるんだけど【教国】なんだよね。あそこは都一個だけの国だから。だからその周辺は別に寂れてないよ。何しろ邪神と戦う為の国【教国】らしいから、ちょっとやそっとの魔物なんて事無いと思う。でもまあ中央を抜けるって事は危険はあるね」
「なんでそんな危険を冒してまで【帝国】の自分達が【輸送】するんですか?」
「なんか、自分がそういう立場になっちゃったから?後はなんか自分に用があるって言われたから一人で来るつもりが、ついでに荷物運べってさ」
「はぁ……ほぼ隊長の事情じゃないですか」
「うん、そうだよ」
そうだよって……。ついてきちゃって良かったのかな?