64.祭壇迷宮
通路はかなり長い。幅が広いのでそこまで圧迫感を感じる物ではないが、地下の一本道をひたすら進むと言うのも中々に不気味な物だ。
例えば車用の長いトンネルを長時間歩いていたら、トンネルが崩れないか不安になるやつ。
ゲームなので本当に死ぬわけではないが、それでもソワソワした気持ちは変わらない。
道中でてくるのは、黒い魔物ばかり。天井を伝ってくるトカゲに、通路に住み着いてるのか鼠、後は虫。
虫の種類はちょっと分からないが触覚が長い中型犬サイズの虫って言うのは流石に気持ち悪い。
視界に入った瞬間には重剣で叩き潰す以外の選択肢はない。
そしてどの魔物もなんか人工的な音が途切れるような声で鳴き、動物的な意思を感じないのはなぜだろうか?
外の魔物は魔物とは言え、動物だ。何なら<解体>すれば食べれるし。
しかしここの魔物は様子が何となく違う。何が違うかと問われればよく分からないが、違和感を感じるって位。
そして、やっと長い通路が終わり、開けた場所に出たと思った所で、落っこちそうになり、縁で踏みとどまる。
現実だったら腰をやりかねない勢いで仰け反り、何とか尻餅をついて、もう大丈夫だと分かっても空中に投げ出された足を引っ込めた。
思わず荒く息をつき、落ち着くまで座って周囲の様子を確認。
どうやら、通路の先は吹き抜けなのだが、非常に広い、そして深い。落ちたら死亡不可避だ。
円形の吹き抜けの壁沿いに通路が続いているので、ここからは多分下りる道を探すのだろう。
それにしても、事故防止に柵や手すり位つけてくれてもいいのに。
そして、何か妙に明るいなと思い頭上を見上げれば、上からぼんやりと淡い光が入り込んでいる。
偶に見える影は……魚か?
揺れる淡い光と魚……、ここはどこかの池か沼か湖の下にあるのかな。だから真っ暗じゃない。
そして自分の<観眼>でも十分周囲を把握できるって訳だ。
それでも底はあるのは分かれども、様子まで見えないのは暗さからくる物なのか、遠い場所を見るスキルがないからなのか。
まあ何はともあれ落ち着いたので、壁沿いの通路を歩き、再び壁内部に入りこむ通路を見つけ、入り込む。
壁内部は暗い。<観眼>で薄ボンヤリ確認できているだけなので、奇襲に警戒して慎重に進む。
先ほどまでとは違いただの真っ直ぐ道ではないようだ。
なだらかな坂道が続き、細かく分岐している。
明らかに小さな横穴から、飛び出してくる黒いザリガニ風の魔物を叩き潰す。
虫と同様甲殻の魔物なので、剣の重さをめいいっぱいのせた打撃がよく効く。
剣ではあるが重剣は叩き潰せるのが便利。重いだけあってやたら丈夫だし、乱暴に叩きつけても全然平気!
しかし、平気じゃなかったのは足の生えた魚が現れた時。
コレが人間の手足が生えてて槍を持ってたら、サハギンだ!!!って言う所なのだが、
黒くて全身ブニブニしたブラックバスにごしゃごしゃとした虫みたいな足の生えた生き物が、這うように暗がりから現れた時、
自分が何を見ているのか分からず一瞬フリーズした。
水生生物が無理やり陸を歩かせさせられているような気持ち悪い姿に、どうしようか迷ってしまったが、
鋭い歯を持つ魚が噛み付いてきた時に、やっと敵だと認識して、刺し殺した。
死体は放置して、通路を下に向かって進めば、黒い蟹が現れる。
蟹なら叩き潰すに限ると、不用意に近づいたのがいけなかった。
黒い泡を吐き出し通路を埋め、
その泡を踏むとジュワッ!と音を立てるのですぐに装備を引き抜く。
<分析>で確認すれば、靴の耐久を一気に持っていかれていた。
この泡の上は歩けないなと逡巡している所に蟹は平気で泡を渡ってきてくれたので、重剣で叩き潰す。
叩き潰したが、残念ながら泡は消えない。
仕方無い、回り道を探す事にしよう。
とぼとぼと、来た道を戻るとさっきは気が付かなかった横道があり、そっちから下る。
その後も魔物達が現れるが、妙に水生生物が多い。上に池だか湖だかがあるのが関わってるのかな。
そして、厄介なのが時折現れる蟹。
こいつの所為で、通路がふさがれて道を一々変えなければならない……。
あれ?寧ろ自分が道を間違えると道を塞ぎに来てるんじゃないのか?こいつ。
システム的な補助だったりして……。何しろやたら複雑な迷路だし、心折れたら自害するしかないもんな。
と言う仮説を元に、蟹が出たら速攻道を戻って別の道を進む。
とにかく下へ下と向かい、ぐるぐると細い道、太い道、坂が急な道、しゃがまねば通れない道。
やっとの思いで、再び広間に出ると、
そこは、底だった。
さっき、自分が落っこちそうになった真下と思われる場所から出た広間は、簡素な石造り。
まあそりゃ大昔の祭壇だって話しだし当たり前か。しかも濃い瘴気で誰も入れないって言うのに、コレだけちゃんと残ってるだけ凄い。
まあゲームだからね。崩落して進めませんじゃ話にならないんだけども。
広間の中央には何かの塊。
塊としか表現できないぶよぶよとした……なんだろう?
薄明かりに照らし出された黒い塊が妙に気持ち悪く感じるのは、ずっと漂ってる異臭の所為だろうか?