63.試練一人
兵長に一言掛けて、白竜の祭壇に向かう。
いつもそうだが、どこかに行く時は一言掛けておけばヒントをもらえたり、身の回りの物を整えてくれるのだから、私用でも連絡はしておいた方がいいのだ。
何しろ兵長は必ず【兵舎】の受付にいて、自分は【兵舎】で寝泊りしてるのだから、何の面倒もない。
今回のアドバイスは試練を越えても越えられなくても無理せず帰って来いだった。
つまり、試練を越えるだけの能力はあるだろうが、その奥はまだ苦しいかもしれないぞと言う事だろう。
奥は瘴気が満ちてるって話しだし、危険な魔物でもいるって事なのかな?
道中の魔物は【巡回】で良く見知った仲、なんなら【帝国】プレイヤーより高頻度で会ってるので、
やぁ!倒すね!って感じ。
<解体>も何もないので、倒したら倒しっぱなしで放置だが、まあいいだろう。
そして、再びの祭壇はいつの間にか氷の壁が復元されていた。中には相変わらず白い鏃が一個。
戦闘体勢を整えて氷の壁に触れれば、あっという間に崩れ落ちる。
やっぱり前回もワザワザ叩かずに触ればいいだけだったのかな。
今回は大きく距離を取らずに、剣型の形が出来上がったと同時に、重剣で一刀両断。
しかしあざ笑うかのように、あっという間に復元する剣型の氷片。
まあ、挨拶代わりだし別にいいのだが、今回は仲間を呼ばないって事は、
やはり人数はこちらに合わせてくるという事だ。何なら武器も類似の物になるのだろう。
盾を正面に構え、今度こそ頭を完全に戦闘状態に切り替え。
盾裏からでもシルエットがはっきり見えている敵が剣を斜めに振り上げたと認識した時には、
自分は盾で頭上を守りつつ、しゃがみこむ。
そして剣型が袈裟切りに振ってくると同時に思考が加速し、世界をゆっくりに感じる。勿論スキルの効果だ。
この状態から自分が使える手段は二つ。足を斬るか、盾でカチ上げるか。
何しろしゃがんだ状態で自分が盾を構えると、体のほとんどが盾に隠れるので、非常に防御力が高い。
その反面、何気に体力の消耗も激しい。連発したり、ずっとその体勢でいると疲れるのか動きが鈍る。
なので、一気に攻勢に出るのが望ましい。
今回は足を破壊して、相手の移動を妨害といこう。
そこまで考えたところで、加速状態から通常状態に移行。盾で相手の攻撃を受けながら、すぐさま敵の足を砕く。
転んだ相手に追撃の盾攻撃。上から思い切り体重をかけた盾殴りだったが、これは剣でガードされた。
剣部分だけは妙に硬いなと思った時には復元した足で、転がったまま蹴りを見舞ってきて、
こちらが一瞬怯んだ隙に、盾下から抜け出す敵。
今度はこちらから袈裟切りに振れば、相手は水平切りに斬ってきて剣と剣がぶつかり合う。
鉄と氷のはずだが、やっぱり剣だけ硬い。
お互い剣は押し込みつつ、自分の横蹴りを敵は膝を持ち上げて受け止め、
寧ろそのまま体を回され背中側を空いた手で殴りつけてきた。
ならば、自分がやる事は、
武技 撃突
ショルダータックルで、相手の上半身を吹き飛ばす。
バラバラになった上半身のどこに核があるのか皆目見当も付かないが、重剣を水平斬りに振って下半身も砕く。
そして、復元する前に盾で押し潰す。文字通り押し潰してゴリゴリ氷片を粉々にしていくが、手ごたえがない。
何しろあっさり元のヒト型に復元されてしまい、剣で突いてきた所を回避。
……何か自分が勘違いしてるのかな?
そう言えば、剣部分だけは崩れないのって、核を守る為に滅茶苦茶硬く出来てるとかそういう事なのかな?
もう一度敵を剣だけの状態にするため、待ち構える。
今度は相手が屈みから剣で足払いを仕掛けてきたので、ジャンプと行きたい所だが、なにぶん自分は重い。
鋼鎧術 耐守鎧
術で攻撃を耐え、敵頭上から剣を振り下ろし、屈み状態の相手を一気に叩き潰す。
案の定剣部分だけ転がった所で、思い切り体重をかけて剣先で突き潰すと、
バキッ!っと鈍い音をたてて折れる剣、中から転げ落ちるのは白い矢尻。
思わず足で踏みつけると、敵の復元が止まる。しかし足を上げると、再び復元が始まる。
……核を攻撃するんじゃないのか……。
兵長は核を何とかするって言ってたけど、この白い鏃が核でコレに触れてればいいのか。
ホアン師匠に核を攻撃する方法って言ったのも自分だし、完全に勘違いしてた。
まあ、盾で攻撃する方法覚えたし、結果的には問題ない。
重剣を鞘に納めて、鏃を拾い<分析>すると、
[竜の歯片]となっている。
コレをどうしたらいいのかな?と手に握りこんでみると、程よいサイズの氷のロングソードが現れる。
剣の中心には歯片が埋っているって事は、使い手に合わせた武器になる便利グッズ?
多分これがキーアイテムって言うか、何かを倒す専用武器なのだろう。すぐに出せるように治療キットの鞄に突っ込んでおく。
そして、奥に進めば、そのまま通路。
「ヴヴヴ……ヴ」
何だろう?急に雑音が混じったような音が聞こえた気が?
一瞬の油断と共に思考が加速状態に、
すぐさま敵だと気が付いたが、どこに敵がいるのか……頭上!
頭上から落ちる影に気が付いたと同時に加速状態から通常状態になり、奇襲を受けたがホアン師匠に習ったとおり柔らかく受け留めたので、ダメージは大した事無い。
目の前には黒いトカゲ、舌を伸ばし足を絡め取って転ばせてきた。
しかし、こちらも伊達に重量級じゃない、力づくで耐え剣を鞘から抜き、そのまま黒いトカゲを地面に縫いつけ倒す。
ふむ、奥にはまだまだ魔物がいるようだし、気を引き締めていきますか。