59.氷像と剣
「おっ!ここ明かりを点けられるみたいだぞ!」
壁沿いを確認していたガンモが燭台を指差し、ニャーコンに指示をすると部屋内が少し明るくなる。
ちなみにニャーコンは術で火を灯しているが、自分の場合火をつける専用道具をチュートリアルで貰っていて、セーフゾーンなどではよく使っている。
しかし術を使うより手がかかるので今回はシラッキーにお任せ。
次から次へと燭台に火をつけて回れば、部屋の全容が把握できた。
余計な装飾などは無いが、正面奥には宙に浮く白いなんだろう?鏃か何かが一本と思って近づいたら、
氷の中に封じ込められた鏃が、氷の透明度が高すぎて浮いて見えてるだけ。
よーく目を凝らしてみると、氷にうっすらと文字が書かれているのが見て取れる。
『白竜様の楔を抜く者、試練を乗り越え剣を取れ。瘴気より出でし純粋なる邪のものは鉄の剣で斬ること能わず』
誰が書いたんだか分からないけど、要はこの鏃が何かを倒す為に必須になるから試練を乗り越えろと、言う事で間違いないだろう。
コレ剣なのかな?到底剣には見えないけど、鏃一つでどうやって敵を倒すか想像もつかない。
「なんて書いてあるんだ?」
「なんか試練を越えて剣を取れってさ。それでなんか倒すみたいだけど、瘴気より出でし純粋なる邪のものってなんか心当たりある?鉄の剣じゃ斬れないってさ」
聞いてはみたが、三人も心当たりは無いようだ。
「まあ、確かにこのナイフ?矢尻?って妙に白っぽいし、金属じゃなかったらなんだろう?」
と、ニャーコンの言葉に、
「剣て言ったら、この中じゃソタローしか使えないな。多分武器って事なんだろうから、別に剣装備以外受けられないとかそういうことじゃないと思うが、やってみるか?試練」
「ここまで来たんだし、やろうぜ!ネタだと思ったのが、意外に本格的な攻略だったわけだしさ!上級のプレイヤーに見つかる前にやっちまおうぜ!」
「じゃあ、やってみようか!それで、試練って何?」
…………
燭台の火に照らされた空間を沈黙が支配する。
「……あれだ『剣を取れ』な訳だから氷を壊して取りゃいいんじゃないか?」
「この中でつるはしとか使える人いる?」
…………
燭台の火がジジッと音をたてた所で、
「まあ、やるだけやってみるよ。氷殴ってみる」
そう言って、思い切り重剣を振りかぶり氷を殴ってみたが、ビクともしない。
打った場所を確認しようと手を伸ばし、氷に触れてみると、
シャラァン……とあっという間に粉々になる氷の壁。
重剣で殴ったのが効いたのか、はたまた最初から手で触れればよかったのか、地に落ちる鏃を拾い上げようと屈んだ所で、
粉々になった筈の氷片がジャラジャラと音をたてて集まり、徐々に大きくなっていく。
危険を感じ部屋の真ん中まで一旦退避。
自分を先頭に全員で状況を見守っていると、そこには氷片が固まって出来た片手が剣のヒト型立っている。
あくまで輪郭がヒト型なだけで、顔があるわけでもディテールの造形もない。
ただその立ち姿が、妙に戦いなれてるなって……。
氷片のヒト型が剣を持っていない方の手を顔の前に持ち上げると、
まるでその手に引き吊り上げられたように、地面に散らばる氷片から更にヒト型が生み出され、
丁度自分達を写すかのように剣型を先頭に、他がその後ろに横並びで立つ。
それぞれ片手が武器状になっている。ボウガンと円錐形の何かと杖かな?
向こうも4人って事は、試練を受ける場合は敵味方の人数が合うって事か?
だってパーティなら5人だもん。4人は中途半端な気がするんだけど?
まあ、今はそんな事を検証している場合ではないので、戦闘準備。
どう考えても戦うでしょこの状態。
突然敵後方、剣持の影から白いエフェクトの術が飛んできたのを盾でガード。
どうやらツララ状の物が数本飛んできたようだが、術の所為か貫通ダメージが重い。
しかし、やられてばかりじゃない。こちらはシラッキーが矢を放ち剣持を襲う。
剣で矢を斬り飛ばされ、
逆に片腕がボウガンになってる氷片ヒト型が放った矢は、何をどうしたのか天上にぶつかった後、拡散。
シャワーのように降ってくる氷片の矢を盾で必死に受け止め、一番軽装のニャーコンを守る。
矢のシャワーが終わった所で相手を確認すれば、いつの間にか眼前に迫り、剣を振りかぶっていたのでそれも盾をぶつける様に対応すれば、バッシュが成立し相手は体勢を崩す。
そのまま追撃!と思ったら、ガンモに氷片のランスが突き立っていたので、ランスを剣で破壊。
氷片の塊だけあってあっさり砕けたが、またあっという間に復元。
シラッキーはボウガンのヒト型の連射力に撃ち負け転がった所だったので、自分が割り込み敵の矢を受け止める。
ニャーコンはいつの間にか全身が動かなくなっているが、何の状態異常か分からない。
「駄目だ!退こう!ソタロー!」
「え?まだ立て直せるよ!」
「いや無理だ。一撃の重さがまるで違う。俺達の手に負える相手じゃねぇよ!」
思わず奥歯をかみ締めてしまうが、このまま全員死に戻りって言う訳にもいかない。
「分かった自分が殿になる。ニャーコンは頼んだよ!」
そう言って、すぐに氷片達に立ち向かう。
剣型に盾で突っ込み、
武技 盾衝
吹っ飛ばずにその場で崩れる剣型氷片はそのままに、ランス型は剣で頭から叩き潰す。
飛んできた氷の矢を盾で受けながら強引に進み、重剣で真っ直ぐ突いてボウガン型の上半身を破壊。
真横から飛んできた白いエフェクトが、今度は無数の礫状で到底避けられそうも無いと、
鋼鎧術 耐守鎧
術を使って全身で受け止める。
振り返れば、いつの間にか三人を追い始めた剣型。
大急ぎで追い掛け、後ろから、
武技 撃突
武技 衝突 が変化し、前よりダメージやノックバック効果が高まった。一応金属板防具であればどこの部位を当ててもいいらしいが、今金属剥き出しの部位といえば頭と肩なのでショルダータックルって感じか。
今回の敵は氷片なので崩れてしまったが、そのまま三人に付いていきつつ、部屋を脱出。
部屋の外までは追いかけてこないようで、奥に戻っていく氷片のヒト型達。