58.石と楔
ガンモ達と約束の日。
白竜の像の前で待ち合わせ、早速その文字が書いてある石を目指して【古都】を出発。
意気揚々と石に一直線に向かうのかと思いきや、
【古都】の外壁沿いを歩き、丁度縦横継ぎ目のところで、ガンモの足が止まる。
「いいか、丁度この角を向くようにあの像は立ってるんだ。正直ここまで分かるのに、三人でちょっとづつ進んで、何とか割り出したんだわ」
「いやホント【帝国】って太陽も月も星も見えないから、目安になる物が全然無くてさ!」
「でもよ。丁度この角だったから【古都】の外壁を目安に真っ直ぐ進んでみたって訳だ。それでも戦闘になる度に角度が分からなくなって泣きそうだったけどよ」
「よくやったねそんな面倒くさい事」
「まあよ。やっぱり俺達も他人のやってないクエストの一つも見つけたいじゃねえか。でもまだこの辺りの魔物より強いのはちょっと手に余るしさ」
ガンモで手に余るなら、自分じゃやっぱり、ここより手強い敵が出る場所はまだきついか。
【黒の防壁】で今までより手強い敵とも戦ったけど、それは要塞の兵と一緒だもんな。
チータデリーニさんも言ってたけど、あそこの兵は優秀だし、そりゃ自分でも狩れるって話だよね。
「あったあった!この木だよ確か!」
「え?ニャーコン、この木がなんなの?」
「丁度この木の枝の伸びる方向が、あの【古都】の外壁の角とぴったり位置が合うんだよ!こいつを見付けた時は、まさに神の導きだと思ったね!」
言われてみれば、なんか不自然なほど真っ直ぐに【古都】の角とこの先を指し示すかのように伸びた枝。
普通なら何とも思わないが、この角度に進みたいと意識した瞬間妙に気になる木は本当に道標の様な気がしなくもない。
「こういう木がこの後一定感覚であるんだぜ?絶対何かあるよな」
シラッキーも今回の発見には結構テンションが上がってるっぽく、鼻息荒い。
でもあるのは文字の書いてある石なんだよな?
しかしその後も確かに殆ど等間隔で、同じ方に枝の伸びる木が現れ、最早偶然ではないと自分も確信した。
幸い木の生える地なので、自分が沈む事もない。まあ<冒険者>も付けてるので雪上でも前に比べれば歩きやすいんだけどさ。
そしてちょっとした雪の小山の前に、真っ黒い石が一個雪から頭を出しているのを発見。
「な?ソタロー!文字が書いてあるだろ?」
確かに『楔』と読めるが、多分コレ雪の中にもっと埋ってるんじゃないか?
それともこの石を引っこ抜いたら何か起こるのかな?
思わず石にかかっている雪を払うと皆も一緒に払ってくれるが、何しろいくらでも降ってくる雪になす術がない。
「なあ、どうしたんだソタロー?」
「いや楔って書いてあるんだけど、何の楔なのかな?ってさ」
「ああ、何かをここに縫い付けてるって言うか、固定してるのかもしれないって事か」
「そう、下手な事して強力な魔物でも出てきたら危ないからさ」
「なるほどな。もう少しヒントが欲しいって事か。それなら俺が罠仕掛ける用に穴掘りも多少心得があるから、やってやるよ」
そう言って、鞄からシャベルを取り出したガンモが、石の周りの雪をどんどんどけてくれる。
しかし、楔の下の文字は一向に出てこない。
なんか予想間違えたかな?
「なあ、ソタロー、ガンモ……」
急にシラッキーが言いずらそうに声を掛けてくるが、なんだろう?
「いや、大した事無いんだが、俺は楔って打ち込んでなんか割ったりするのに使う物だと思ってたんだけど、固定する物なのか?」
「いや、確かに割るの場合も、固定する事に使う場合も楔は楔だね。連結させたりとかもそうだし……」
ガンモがそっと後ろに下がるので、多分一番重い武器を使っているであろう自分が、思いっきり石を叩き込めば、
石の横に立っていたシラッキーの足元の雪が沈み込み、あっという間にシラッキーを飲み込む。
一通り雪を飲み込むと、雪の小山に向かって伸びる下り階段があり、
底には階段を転げ落ちて仰向けに倒れるシラッキー。
「大丈夫?」
「全然大丈夫じゃない」
「ダメージがあったの?」
「いや、雪がクッションになったのかダメージは無いけど、心に傷を負ったと思う」
「そう……」
とりあえず、雪で滑りそうな石階段を三人で下り、底で待つシラッキーの元へ。
正面は両開きの鉄扉になっているので、力を入れ踏ん張って押すと、
ギギギギギッ
と明らかに長い事手入れをされてないかのような錆付いた音と共に開く。
中は真っ暗なので、<観眼>を持つ自分が先陣を切ろうと一歩踏み込むと同時に、
「トーチ!」
火の玉がニャーコンの近くに浮き、周囲を照らす。
どうやら小山は雪の被った施設だったらしいが、こんな変な場所にある施設誰も把握してないって事はないだろう。
しかし、ワザワザ楔を打ち込まなきゃ入れない仕掛けといい、だいぶ放置されていたのであろう扉といい、
そうそうヒトが来る場所でもないって事か。
中も地面は石畳、結構広い空間に何とも不穏な想像をしてしまった。
何しろ天井も高いし、戦うには丁度いいなって……。