55.中隊長
軍狼戦後【黒の防壁】勤務だったが、流石にあの規模の魔物は現れなかったので平穏無事。
ルークもいつの間にか自分の任地に戻っていったのだが、よくよく考えて勝手にこっちに付いて来てよかったのか?
そこは兵長が上手く調整するのか。何しろ自分は新人【士官】だし経験豊富なお目付け役をつけてやろうって事だったのかもしれない。
程々に【管理】の仕事をして、黒の森から出てきた魔物を狩り、暇なら周囲を【巡回】する。
そしてこの砦の責任者は、ログインしている間は自分。つまり自分が仕事を割り振らねばならない。
まあ、そこはシステムに基づくミニゲーム的なものなので、なんら難しい事もない。
上手く仕事を割り振り運営していれば、魔物素材やなんかで砦の収益も増えるって言う。
本来なら国に徴収されるのだろうが、砦運営に使ってしまっていいって言うのが何とも、ゲーム。
お金をためて砦内施設や防衛設備をアップグレードしたりも出来そうだが、途方も無い値段なので今の所は変な欲は出さずに、無難な経営をしよう。
なんでも前に一度赴任した【古都】から出向の代理指揮官が、勝手にこの砦を物流の中継地点にした挙句荒稼ぎしてかなり良好な状態にしてしまったらしく、メンテナンスするだけでも生活環境は整っている。
残念ながら自分には物流のコネクションなどは無いので、魔物を適宜狩って周辺の状況を良好に保つのが程よく楽。
ユニオン級位までなら自分が出て狩ってしまった方が安全だし。
あと眠熊が何回か出てきたので、戦闘訓練代わりに倒させてもらった。
そして熊鍋だけはある程度まともに作れるようになり、バフもつく様になったのがありがたい。
【巡回】に行く前に【兵士】に食べさせれば、効率上がるって言う。緩く優しい仕様に感謝。
【訓練】出来ないのが心残りだが、それ以外は何をやっても任務になるし、余計な事に気をとられずに徹底的に任務と魔物狩りをするという意味では最高の環境だし、チータデリーニさんが戻ってきた後も偶に勤務できないか兵長に相談してみよう。
そんなこんな【黒の防壁】生活も終わり再び【古都】へ帰還。
「兵長戻りました!」
「お疲れさん。向こうでの勤務状況はちゃんと報告が上がってるが、真面目にやってくれたようで助かったぜ」
「それは真面目にやりますけど、逆に真面目じゃないヒトっているんですか?」
「いや、環境が悪いからって勝手に【輸送】の中継地点に使って稼げるようにする奴ならいるが」
「それは噂で聞きました。兵達の事を考えてるって言う意味では悪いヒトじゃ無いんでしょうけど」
「それにしたって危険地域を中継地点に使うのはアホだろ」
「言われてみれば、そうですけど。逆に何でそれで中継地点が成り立っちゃったんですか?」
「軍用の【輸送】つまり輜重専用の通りに使ったもんだから【商人】達からのクレームがあってな」
「それで?そのヒトはどうなったんですか?」
「じゃあ【商人】の荷物も一緒に運ぶっつって、馬鹿みたいに稼ぎが出て、上層部に任せた。後は知らん」
「じゃあそのヒトは大金持ちですね」
「いや、任務でやった事だからって、普通の報酬しか受け取ってねえぞ。国も新たに財源が出来たもんだから、そいつにどう稼がせるか頭を悩ませたらしいな」
「へ~、そんな事があったんですか。まあ自分は普通なのでそういう事は起きないですよ。安心してください」
「それならいいがな。それで新たな称号を手に入れたはずだ。問題はジョブをどうするか……考えはあるのか?」
そうジョブだ。自分が何の仕事に付いてお金を稼ぐかそれがジョブ。このゲームじゃ誰でも最初にジョブを選ぶ。
スキルはそのジョブのクエストをこなした時のポイントで手に入れる事ができるし、報酬も同様。
しかしクエスト報酬は非常に少ないので有名。だから皆【狩人】を取得して<解体>が必須。
それによって魔物素材を持ち帰って換金するのが一番効率のいいプレイだって言われてるし、大半の攻略サイトにはそう書いてある。
なのでジョブかサブジョブに【狩人】コレが鉄板らしい。ちなみにジョブセットは二つまで可能だ。
しかし自分は効率プレイの必要が無いので、隊長の真似をして【兵士】任務ばかりこなす日々、お蔭様で全く稼げていない。
一度イベントの賭けで膨れ上がったが、それを使ったらお終いなので節約大事。
今更ジョブ一つで稼げるとも思ってないし気にはしないのだが、問題はどうすれば強くなれるか。
「悩んでるようならお勧めがあるがどうする?」
「ですよね。大抵そういう事を兵長が言う時はお勧めがある時ですよね。一番良さそうな方法を聞いていいですか?」
「中隊長ってのは戦闘と指揮のスキルが揃うジョブだが、お前さんは最初から【士官】という指揮職と【重装兵】という戦闘職を持ってるわけだ」
「そうですね。中隊長の生かしようが無いって感じですかね」
「いや、中隊長って言うのは100人率いて更に指揮官としてお前さんが別にいる状態。つまり101人で中隊を編成できるって言う効果を持っているわけだ。つまり中隊長自体はかなり有効だぞ。そしてこの100人率いるって言うのは他のジョブにも効果が派生する」
「えっと……つまり自分の今のジョブのどちらかに101人で中隊を組めるって言う効果を足せるとか?」
「物分りが良くて助かるぜ。その通りだ。【士官】と【重装隊長】をセットすれば問題ないって訳だな。何しろこの称号がないことには20人以上率いるのが大変なんで兵科ジョブで隊長になるのはエリートだな。おめでとう」
「おめでとうって……結果的に101人引き入れる事以外は今までと同じですよね?」
「いや、スキルを今迄以上に取得できるぞ。どうする?何が必要だ?」
「いやいやいや、今でもセットしきれなくて持て余してるのに何で増やすつもりなんですか」
「そりゃお前さんほど熱心に魔物を狩る奴も中々いないからな。どんどん強くなってどんどん狩ってくれ」
「いや、魔物狩りたいヒトは【狩人】になるからじゃないですか?」
「でもそれだと部隊級や中隊級の魔物は狩れんだろう。勿論【狩人】は対魔物のスペシャリストだが、指揮は【兵士】の領分だぞ。協力しようにも指揮取れる奴がいなきゃはじまらねぇよ」
「分かりました。それにしてもスキルについては本当に圧迫されてるので苦しいですよ」
「そうだな……指揮系はまず<行軍>と<統法>を合成出来るまでじっくりやったらいいが、例えばお前さん生命力が全損するダメージを受けても踏みとどまれるアビリティ持ってたろ」
「まあ兵長なら自分のスキル把握しててもおかしくないですよね。その通りです」
「でもそこで出血や火傷貰ってたら、それで行動不能だ。そこで生命力が一定以下になると自然回復力が急上昇するスキルってのがある。それともう一つ。折角それだけの士気を許容できるんだから、士気上昇に伴って身体能力が上がるスキルもいいだろう」
いいだろうって言いながら、スムーズに取得させられる兵長熟練の御手前。
<死力>
起死回生・・・生命力低下時、急速回復
<活性>
湧力・・・士気上昇に伴い筋力上昇
とまあ、緊急時に一気に能力が高まるスキル。自分は緊急回復をアビリティに選んだけど、まあギリギリの戦いで有効になるのかな?
もう一つが、士気上昇に伴ってステータスが上がる代物。ただでさえ士気が上がれば調子が上がる筈なんだが、このスキルでどうなってしまうのだろう。一応自分は筋力重視にしたけど良かったのかな?