52.白竜の話
それからは割りと安定した日々。任務を日々こなし、時折現れる部隊級ボスを倒す。
部隊級つまりユニオン級だが、でかい。でもそれだけだ。
いつだか見た動画のお爺ちゃんの様に吹き飛ばす事はできないが、武技を使ってちょっと怯ませたり、向きを変えたり、邪魔したり位はお手の物。
正直な所【古都】周辺で困るような魔物はいなくなった。
後は【訓練】だが、日を追えば追うほどホアンさんの凄さが分かる。ちなみに『さん』をつける必要は無いと言われているが、ついつい癖みたいな物。
力を入れて気張って跳ね返すのではなく。受け入れて柔軟に散らす事でダメージを軽減とか、全く意味が分からないのだが、なんか自分も出来るようになっているのが怖い。
最近では数人で一斉に自分に殴りかかってくるのをひたすら受け止めるのだが、なんていうか、大した事無い。
まあ、それでも教官の一撃とかは内臓に来るというのだろうか、ずっしり残って体が重くなったり、部位破壊が起きるので、別物と言うか自分もまだまだ修行が足りないのだろう。
そしていつも通り任務を受け、集合前にいつもの場所で物思いに耽っていると。
「どうしたんですか?白竜様の像なんて見上げて」
「あっルーク。いや自分が初めて見た場所がここだから初心を忘れないようにって言うか……」
「へ~。初心を忘れないようにっていうのは大事ですね。確かに【帝国】の民達ももっと白竜様についてちゃんと知ったほうがいいかもしれません」
「え?この竜って有名なんですか?」
「知らずに、見ていたんですか……」
「はいはいはい!初代皇帝陛下だろ!【帝国】に住んでりゃ当たり前だっての」
「こら!チャーニン!他人の話を邪魔するな!」
相変わらずのチャーニン、スルージャ仲良しコンビである。
「いや、【帝国】の民は勘違いしてるヒトも多いんだけど【帝国】成立直前に白竜様はヒトを守る為に戦いに行ってしまわれたんだ。なので初代皇帝は当時武の代表だった現皇帝の先祖。ちなみに内政担当のトップはそのまま代々宰相家が引き継いでる」
「そうだったんですか。【帝国】って実力主義のような雰囲気だったから、まさかそこまで世襲だったとは……革命とか起きないんですね」
「うん……ソタローがシラッと不穏な事言ってるぞ」
「やっぱり頭一つ抜けるヒトって言うのは、野心も相当なのか……」
「こら!やめなさい。折角だし、言い伝えを教えましょう。いずれ【座学】でもやると思いますが【帝国】成立にまつわる大事な話ですからね」
遠い昔まだ都市国家群だった頃、雪に埋もれた北の大地。
皆自立心が高く、どんな身分であれ他人に従う事を良しとしない者達がそれぞればらばらに生きていたが、
厳しい自然環境の前に餓えて死ぬ事も少なくなかったそんな時代。
その頃から共通して信仰されていたのが白い竜。
世界を守る一柱にして北の大地で強力な魔物から人々を守る守護者。
その目的は邪神勢力に対抗するため弱いヒト達を守り育て強くする事。
白竜様は戦う為に神によって遣わされた存在。
それに応えるべくいよいよ自立心高く己を鍛え上げる北の大地の住人。
そんな中、もっと人々が協力し合わなければヒトの発展は無いと考えたのが、今の【帝国】の基を作った人々。
白竜様に願い出て、国家統一を目指し戦い抜いた。
しかし個の力だけはやたら精強な、当時の北の大地の民同士の戦いは熾烈を極めたとか。
それでも白竜様を頂点に頂く事で合意。統一まで後一歩という所で強大な邪神の手の物が現れ白竜様は姿を消す。
再び荒れ、雪が赤く染まっては翌朝には白くなる大地。いつ終わるとも分からぬ闘争。
結局、ヒトの力には限界があり疲弊しきった者達の中で最も武に優れた現皇帝の先祖が初代皇帝となって即位。
その後重い傷を負って戻ってきた白竜様は長き眠りにつくことになる。
そのとき残した言葉が『子らよ強くなれ、待っている』だった。
「それ以来【帝国】民は都市国家群だった頃より更に筋トレに勤しむようになったって訳」
「結論は筋トレなんですね」
「そうか~白竜様が初代皇帝だと思ってたぜ。でもなんで俺達は勘違いしてたんだ?」
「ん~確かにうちも皆白竜様が初代皇帝だと思ってるかも」
「二人の出身は?」
「農家だぜ。俺は普通に次男坊だから軍に入って食えるようにしてもらえって」
「うちも農家です。長男ですけど子供の頃から絵の勉強がしたくて、上手く出世できれば【帝都】勤務も出来るかなって」
「ええと、農家だと絵の勉強って出来ないの?」
「そうですね。中々家計的に厳しいかもしれません。餓えて人が死ぬ事はなくなったとは言え、誰もが豊かという訳ではないですからね。ちなみに一般家庭でなぜ初代皇帝陛下が白竜様だと思われてるかというと。いつか白竜様の目が覚めたら帝位につくと信じられているからですね」
「つまりルークは一般家庭ではなく、貴族とかなんですか!」
「えええええ!【狩人】って言ってたじゃないですか!」
「そう言えば武家の出身でしたっけ?」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。【狩人】だったのも本当ですよ」
ふーむ……これはドラゴン本当にいるかもしれない。何しろ眠りに付いてるだけなんだから。