48.渓谷の街
【古都】周辺の事は分かっていたつもりで、全然分かってなかった。
カピヨンさんと【往診】クエストをしたことで結構土地勘がついたと思っていたけど、勘違い甚だしい。
何となく森を抜けようとすれば崖から落ちそうになり、気がついたら目の前が絶壁で進めない。
ルークさんは敢えて危険が無い限り黙って見ているだけなので、酷い回り道だ。
無為に食料を消費してしまうが、別に怒られる訳でもない。寧ろ全部勉強とでも言いそうな表情。
目的の村や町に辿り着く度に、ほっと胸を撫で下ろす。
「すみません、予定よりもかなり時間食ってますよね」
「いいのいいの。全部勉強!寧ろ無理をしないだけ偉い!落ち着いて着実に覚えていけばいいの」
やっぱり言われてしまった。このまま自分が指揮官続けてていいのだろうか?
「ソタローは気にしすぎだろ!こうして無事に全員目的地に連れて行ってるんだから上出来だろ」
「こら!チャーニンは食事当番サボるなよ!」
なんか横から会話に入ってきたチャーニンをスルージャが引きずって連れて行くんだが、仲いいなあの二人。
「誰も責めたりしてこないんですけど、逆に悪い気がしてしまって」
「そりゃ優秀な指揮官の下で働いた方がいいに決まってるけど、優秀になる過程の相手を責め立てても仕方ないじゃん」
「そういうもんですかね?」
「うん、本人が他人より歩けるからって、皆を倒れる限界まで歩かせた挙句に『ここ登れるかも!』とか言って、道なき道を進む指揮官もいるんですよ。皆息も絶え絶えなのに、一人ピンピンしてご飯作ったりとか手入れ始めたりとか……もうね文句も言えないんですよ。人一倍歩いて人一倍働くんだから」
「自分も見習ってもっと働いた方がいいですね!」
「いや、ちょっと手を抜こう!なんでこうニューターはよく働くの!悪い事じゃないけど、皆限界越えちゃうよ!」
そんなこんな励まされ?ながら【古都】北部から東部に掛けて配達して回る。
アリェカロに引かせているソリには食糧が満載され、あちこち届けるたびにお礼を言われるのは、何とも歯がゆい。
そして道こそゆっくり覚えるしかないのだが、不思議と雪深い場所と浅い場所の差が分かるようになり、スムーズにカンジキタイムを取れるようになったりとか、
チータデリーニさんのレシピを元に普通の野菜スープや普通のジャガイモと燻製肉炒め、普通の焼肉なんかの作り方を覚えていく。
そんなこんな辿り着いたのが渓谷の街『ウシエーリ街』だ。
なんか前に大変な事があって、住民が一斉避難したとか。
見たところ家が潰れてるなんて事もないし、一体どんな被害が出たんだろう。
このゲームで大変な事といえば魔物関連かな?と勝手に魔物に襲撃されたのかと思ったけど、そんな事では無いらしい。
それでも大量の食料を運ぶ必要があるんだから、生活は安定してないのかな?
「きょろきょろしてどうしたんですか?」
「あっルークさ……、いやあのなんかこの街が被害にあったとか聞いていたので」
「また『さん』つけようとしてたけど、この辺りじゃそんな物付けないのが普通だからね。後この街の被害っていうのは……」
「ちょっと前に瘴気が発生しまして」
唐突に背後から声がかかり、思わず飛び跳ねてしまうが、後ろにいたのはいかにも落ち着いた男性。
「街長さんは相変わらず、後ろから話しかけてきますね」
ルークさんはどうやら、慣れっこらしい。
「丁度後ろを通りかかる時に限って、興味深い話が聞こえるのだから仕方ないのです」
「いや~絶対驚かそうとしてるでしょ~」
「そんな事ありませんとも。しかしいつも以上の【輸送】量ですね。とても助かります」
「隊長が他所の国に行ってしまって、ちょっと物流が滞りがちでしたからね。でもこれからはこのソタロー【下士官】がいますから大船に乗った気持ちでいて大丈夫ですよ!」
うん、なんか勝手に話が大きくなってるぞ?自分はそこまで【輸送】任務やる気は無いんだけど?
「それはそれは頼りになりますな。一時の事とは言えやはり放棄していた街が元に戻るには多少時間がかかりますからな」
「あの……すみません。瘴気が出たって言うのはどういう事ですか?」
「ほう、ご存じない?」
「瘴気生物が出たので、対瘴気生物武器の貸与と出陣式まであったんですけどね。まあ知らないものは仕方ありません。瘴気というのは自分達ヒュムの体には毒になります。ただ瘴気に含まれる魔素に関しては生産や諸々に利用される事もあります」
「そうなんですか。毒が街に蔓延してしまうなんて、それは大変でしたね。どうやって消したんですか?」
「それはニューターの【兵士】が元となる瘴気生物を倒して正常化したと聞いてます」
「???」
「ニューターは瘴気の影響を受けないので、単独で瘴気生物を撃破した猛者がいるんですよ」
「はぁ……なるほど。それじゃいつか自分もそういう任務を受ける事があるのでしょうか?」
「ん~どうでしょう?何しろ剣一本で瘴気生物の攻撃を捌いて倒しきったって言う話ですし、もし受けるにしても条件は変わりそうですね」
剣一本で瘴気生物の攻撃を捌くとか……瘴気生物って言うのが結局よく分からない。