44.自分で決めろ
「と、言う事で非常に迷ってます」
「なるほどな。装備を軽くすべきか、もっと細かく当てられるように武器や戦闘手段を工夫べきか、寧ろもっと圧力を高め、足回りやスキルを工夫するべきか……どれも正解だな。皆ソタローの事を思って言ってくれてるのは間違いない。いい先輩達に囲まれてるようで、何も言う事ないんだが?」
「いや、全部正解かもしれないですけど、どうしたらいいか分からないんです」
「まあ、足りない事は一つだけだな」
「え?なんですか?」
「ソタローがどうしたいか!それだけだ。多分どの道を選んでも誰も文句言わないし、その道で更に最良の道を一緒に考えてくれるんじゃないか?」
「それが分かれば、一番いいですけど……」
「別にこの中から選ばなくたっていいんだぜ。漠然とどうなりたいとか、何やりたいとかちょっとでもあれば、きっと皆ちゃんと考えてくれるぜ」
「……分からないです……」
「じゃあ、何で神の声に応えてこの世界に来ようと思った?」
「隊長?」
「隊長に勝ちたいのか?」
「いや、なんかそれまで普通の人が何で、イベントに優勝するほど強くなったのかなって」
「なるほどな。あいつはただ正直で素直なだけだ。自分の感情にな。別に嘘をつかない善人だとか言ってるわけじゃない。なんなら悪い奴じゃないが変わり者ってのがあいつの評価だろう」
「そうですね。変な奴だから真似するなって言われます」
「ああ、それで間違いない。でもな今日何食べたいとか、ちょっと酒を飲みたいなとか、そんなさり気ない感情がヒトをヒトたらしめるんだと思うぞ」
「そうですね。何不自由なく好きに生きていいって言われている事がきっと幸せなんですね」
「でもそれに感謝できてないんだろ?理屈は分かってても心の奥底から、幸せだと思えないんだな。じゃあこの世界でもっと不自由しろ。不便に慣れてみろ。それがお前さんを救う唯一の手立てだ」
「じゃあ、不便でもいいから何か選んでみろって事ですか?」
「そうだな。それがいいかもしれん。自分が一番難しいと思う道を選んでみな」
「分かりました……」
自分が一番不便だと思う道を選んでいいなら、一つだ。
つまり全部。
装備は軽くして防御力は減らすし、それでいて手数を増やす為に蹴りも盾も攻撃手段に加える。その上で剣も重くして、尚且つただでさえ圧迫してるスキルを増やす。
全部盛りで、真っ直ぐ進もうと思う。それでもどうしても耐えられないことがあれば、きっとやりたくない事なんだと思う。
やりたい事は分からないけど、やりたくない事なら分かるかもしれない。
「それで<歩法>を取得するんだったな。でもこれだけじゃ雪上移動は楽にならない」
「つまり何か別のスキルと合成するってことですね」
「なんだ、分かってきたじゃないか。これが【運び屋】なんかの移動職ならもっと色々選べるんだが生憎お前さんは【兵士】だ」
「つまり汎用的な移動スキルしか選べないって事ですか。別に問題ないです」
「そうか。<難路>っつうスキルがある。足場の悪い場所を歩けるようになるだけのスキルだ」
「それと<歩法>を合成するとどうなるんですか?」
「足場が悪いほど動きやすくなるな。茨の道ほど歩きやすいって言う変態が出来上がる」
「じゃあ、それで!」
「そうだな。これから面倒事に向かって進む事になりそうなお前さんには一番良いスキルかもな」
<難路>
障害・・・フィールド効果耐性
<歩法>
摺足・・・体軸安定
「あの……すりあしじゃ雪の中歩けないんじゃ?」
「それは違うな。別に足を上げてもいいんだ。ただ踵重心で頭の上下を少なくする歩き方ってだけだ」
「え?踵で歩くって柄が悪くないですか?」
「いや、雪の中を歩くなら寧ろ安定する歩き方だ。いいか靴じゃなくて、つま先に引っ掛けてる履物を想像するんだ。片足できっちり立って、もう片方の足をゆっくり降ろす。ちゃんと両足で立てたら反対側の足を出すんだ。平地じゃ遅い歩きかなのは分かってる。でもなどんな相手に絡まれても浮き足立たずに対応できる歩き方だ。いいかソタロー!お前は誰にもそう簡単に手出しできないほどの装甲を纏ってるんだ。焦らなくていい!じっくり一歩一歩相手のスペースを占領してやれ」
「スペースの占領?」
「大丈夫だ!難しい事考える必要は無い。後は戦うだけだ……」
「魔物と戦ってくればいいんですか?」
「いや出来ればお前さんと似たスタイルの相手を用意してやりたいんだがな」
「先人から学ぶって事ですね。でも【帝国】の特に東部だと自分みたいな重装甲は珍しいって聞いた気がします」
「それなんだよな……【帝都】の方からヒトを呼ぶにしても、20人指揮官の教育の為だけに来てくれってのはな」
「それなら、当面は自分で工夫しますよ」
「そうか?ああでも一人<半金属>に両手ロングソードの使い手がいるから、タイミングが合う時に習っておくといい。面倒見のいい奴だ」
「え?そんなヒトいるんですか?それは是非紹介してください!」
「紹介も何も面識あるだろ?何故か兵達が先輩って呼んでるあいつだよ」
「え?先輩って結構重装備だったんですね」
「ああ、そのスタイルで【帝国】の【歩兵】としては中々の使い手だったんだぜ。まあ今では生活の為にコツコツ昇進してるけどよ」
「生活の為って……」
「そりゃ家族の事があれば、危険な任務ばかり受けるわけにも行かないだろうよ」