42.雪上を走れる魔物
「あのそれで、雪で沈まない毛皮の魔物って……」
【訓練】終わり【兵舎】に報告に戻る途中。今自分が一番聞きたい事をカヴァリーさんに尋ねる。
「うん、ダンジョン2階のボスの雪狐だね。聞いた話だけど大きな体に似合わず雪上を走り回るらしいよ」
「ああ、駄目です。ダンジョン2階は雪が深くて膝まで埋っちゃうので、まともに戦えません」
「え?でも防御力あるんだから待つスタイルでいいじゃない?」
「いや、狐が出るんですけど、後衛から狙うし病毒は使うしで、消耗が激しくて」
「ああ……、後衛の戦闘能力次第じゃない?あと病毒を治す薬なら大量に売ってるよ」
「え?大量に売ってるって???」
「ちょっと前かな~……渓谷で瘴気が出た時に病毒を使うレギオンボスも現れたらしいんだよね。その時に大量に作ったやつがあるとか」
「そうだったんですか」
「うん、元々【帝国】の特にこの辺りの東部地域は病弱な人が療養の為に他の国や地方から集まる場所でもあるんだけど知ってた?」
「それは、初耳ですね」
「そっか!僕は色んなNPCから話を聞くのが最近楽しくてね。なんでも病がちで抵抗力の低い人がこの地に住んで氷精様に祈り続けると体が強くなるとか」
「えっと……宗教?」
「いやいや!精霊はこのゲームでは当然いて当たり前の存在だからね。そういう病やなんかへの抵抗力や耐性が高まるんじゃないかな?なんか噂では【砂国】のいい御家の方も幼い頃住んでたとか」
「へ~!寒いと寧ろ風邪とか引きやすそうなのに、不思議な物ですね」
「そうだね。まあそういう超常的存在の力が働いている地域に瘴気が溢れたから、病毒使いの魔物が現れたのかもしれない。その時の影響でモリーさんの店に行けばいくらでも買えるから、消耗も何も大した事じゃないよ」
「そうですか、ただ自分丁度パーティ解散したばかりで、皆レベルアップの修行に行っちゃったんですよね」
「うんうん、じゃあ僕と行こう。興味はあったけどまだ行った事無いんだよねダンジョン」
「あれ?ビエーラさんとは行かなかったんですか?」
「うん、僕はシェーベルありきの戦闘力だから、邪魔になるのも悪いなって」
「そうですか……でも1階のボスもかなり足の速い遠距離攻撃使いですから、自分達だけじゃきついかもしれません」
「ふむ……遠距離攻撃使いか、足の速い相手を追える移動力の持ち主か……」
「男二人で何こそこそ話してるの?漢の話?」
唐突に現れたビエーラさんに一瞬心臓が飛び跳ねそうだったが、カヴァリーさんは慣れっこらしい。
「いや、ソタロー君が雪に沈まないような装備を作る為に毛皮が必要なんだって」
「それならダンジョンの雪狐なの。雪の上をフワッと走れる生き物だからうってつけなの」
流石夫婦言うこと一緒だ。
「うん、そうだよね。ソタロー君にはもっと強くなってもらいたいし……」
「じゃあ、今度一緒に攻略するの。この三人なら2階ボスくらいまではいけるの」
「え???いや結構大変でしたよ?ダンジョン」
「そんな事ないの!自信がないだけなの!」
うん、なんか再びダンジョン攻略する事に決まってしまった。ダンジョン攻略は一段落したはずなのにな~……。
「ソタロー君はかなり戦闘向きだし、才能もあるんだけどまだちょっと物足りなくてね」
「でも、誰もが隊長や旦那様と同じスタイルではないの。スピードや読み合いより、相打ちが当たり前で持ってる筋力全部をぶつけるような体なの」
「でもそれだと今度は当てる技術と飛びぬけた攻撃力が必要になってきそうだけど」
「多分ぱっと見のあのパワーならもっと重い剣も振れるの。そうなった時逆に耐えられる人がいない一撃が生まれるの」
「ソタロー君はどう思う?僕はもっと細かく当てる技術を高めた方がいいと思うけど、一撃の威力を高める事で相手にプレッシャーをかけていくのと、どっちがいい?」
「え……?まあ折角<重剣>スキル持っているので、もっと重い剣にも挑戦してみたい気持ちはありますけど」
「だから言ったの!折角の筋肉をもっと生かして戦うの!筋肉は男の鎧なの!」
「でも剣がコレより重くなったら余計に雪に沈みそうだね……」
「確かに、今は軽量化に付いて考えないといけないですよね」
「違うの!よく考えるの隊長は何で沈まなかったの?」
「そりゃ<皮革甲>で軽かったからじゃない?」
「じゃあ、旦那様はシェーベルに乗っててなんで沈まないの?」
「シェーベルの足が沈みにくい性質だから?」
「正解!隊長の靴はずっと支給品の革長靴だったけど、つまり雪国用装備だったって事なの!体重と比較して適した装備はあると思うけど、大事なのは装備選びなの!」
「えっとつまり?」
「雪狐の皮で沈まない靴を作ってもらえば解決なの。本当に雪の上をフワフワ走るから間違いないの。もしそれで足りなくてもきっとスキルとか手に入るかもしれないの!」
「結局そこに辿り着くんですね……」
「ちなみにソタロー君は<蹴り>も使うらしいよ」
「コレはいよいよ真面目に考えなら無ければいけない事案なの」
ん~なんかカヴァリーさんビエーラさん夫妻にやたら深刻な事として捉えられてしまって心苦しいどころじゃない。