4.緊急召集
引き続き【訓練】だが、振りかぶられる剣で殴られるというのは盾越しでもかなり痛い。
一発受けたら、次は自分の番なのだが、思いっきりやり返そうとすればするほど、変に力んでしまう。
相手の盾に当たった時の音や感触で、上手く振れた時とそうでない時の違いが、ただ素振りしていた時より明確に感じられるようになってきた気がする?
しかし、受ける方が何しろ痛い。もしかしたら盾に向いてないのかな?とすら思えてきた。
そうなると攻撃を受けるんじゃなくて避けるか、やっぱりガンモみたいに槍とかで離れて攻撃するのがいいのかな?
こんな時は周りのNPCの受け方を真似して、少しでも痛くない方法が無いか探そうと思った矢先に、右向かいのNPCは当たる寸前で剣を押し返すように受けている事に気が付いた。
自分の相手は微動だにせずしっかり受けてくれるが、盾で押し返したら剣で打った感触変わりそう。いいのかな?
でも右向かいのNPCは注意されてないし、やってみるか!
攻撃が当たる瞬間ほんの少し押し出すだけで、痛みが軽減された。
他のNPCを見てみると、当たる角度を逸らしている者もいれば、寧ろ一瞬引き込むようにより自分に近い位置で受けることで、衝撃を吸収している者もいる。
色々見て試しているだけで、どんどん楽しくなってきて、剣と盾の扱いが急速に自分の中で確立されていく。
しかし、楽しくなると時間って言うのはあっという間に過ぎてしまう。
【訓練】の時間が終わり、装備を返却していると、
「おおい!大変だ!緊急召集だぞ!」
と大騒ぎして訓練場に入ってくる人影。雰囲気的には【巡回】でもしてそうな普通の【兵士】の格好なのになんなんだろう?
「よし!【新兵】の中でも戦える者はすぐに戦闘装備を装着。すぐに南門に向かえ!」
教官から言い渡され、どうやらそのメンバーに自分も入っていたらしく。
いつもの【巡回】装備にロングソードと直径が前腕サイズのラウンドシールドを渡され、すぐに装備するように煽り立てられる。
ラウンドシールドは木製だが中央と枠だけ金属製。中央の金属部が丸く盛り上がり、裏側が盾を持つ為の取っ手。盾の取っ手を握ったまま殴るのに向いてそう。
装備を装着して南門に向かえば、すでに整列している【兵士】達。しかしその兵は一糸乱れぬ動きで、明らかに練度が違うと分る。
そして取り巻くように【兵士】や【兵士】には見えない戦闘職達がちらほらといる。何故戦闘職かと分かるかと言えば、防具を着て武器を持ってるから!
戦う気がなきゃ防具も武器も身につけないだろう。でも全く統一感が無い辺り【兵士】ではないだろうと予想してみたのだがどうだろうか?
自分は取り巻く側に配属の様なのですぐに移動すると、そこにはガンモもいたので、事情を聞く。
「よ!ソタローも来たのか。大丈夫か?無理するなよ?」
「無理も何も何で召集されたか分かってないんだけど」
「本当かよそりゃ!はっはっは!大変だな【兵士】ってのも。なんか都の近くに厄介な大型魔物が現れたから討伐手伝いだってよ」
「へ~、そんな事あるんだ。でも大型魔物なんか足手まといにならないかな?」
「ああ、そういう事じゃないらしいぜ!ほら!説明始まるからよく聞けよ」
ガンモの指差す方に指揮官らしき人が、集合した集団に向き合って一人立っていた。
「それでは状況を説明する。通称笛吹きと呼ばれる魔物が現れた。こいつ単体は我ら【古都】守備兵が対応するが、この魔物の面倒な点は小さな魔物を次から次へと呼び寄せることだ。これがヒトのいない地域ならそれでも軍で対応できるが、今回は都に近すぎる。よって諸君らには笛吹きが呼び寄せた魔物を狩ってもらいたい。ここにいる者にとっては脅威にもならぬが、一般人にとっては魔物はすべからく脅威である!奮闘を期待する!」
ええっと、一気に言われてしまって完全に理解しているか自信ないけど、
要は小さい魔物を狩ればいいのか。どんな魔物だろう?虫とかかな?あまり好きな方じゃないけど、カサカサ動く奴じゃなければ、剣で斬るくらいはできるかな。
「おい、あまり固くならずに行こうぜ。集められたって事は俺達でも対応できる相手なんだろ多分」
「そうなのかな?初めてだし分かんないよ」
「いやいや、ここは【帝国】のスタート地点だぜ。スタート地点でそんな強敵が出るわけ無いじゃんか」
「それもそうか、でも自分はまだ最弱の河鼠しか倒せないし、もしなんだったら<手当て>に専念する」
「慎重だな~ソタローは!まあ倒したら倒した分だけ追加報酬も入るみたいだし、俺は気合入れて一匹でも多く狩るぜ」
そんな事を話してると大河沿いを大きな二足歩行の恐竜?が前傾姿勢で走って来た。
尻尾の先から頭の先端まで真っ直ぐ地面と垂直になる姿勢だが、背景の大河も大概大きいので、まだサイズ観がよく分からない。
しかし、こちらに近づいてくるにつれその巨大さをはっきり認識してしまう。
「でかい……」
「うおー!すっげー!すげー……凄いなソタロー。俺もあんな魔物倒せるようになりたいぜ」
それこそ鼠と象の戦いにしか思えないのだが【古都】守備隊は泰然自若として、敵が動き出すのを待っている。