37.変装変人クラーヴン
クラーヴンさんの店に行くと、大賑わいを越えて喧嘩が始まってる。
流石に街中だけあって刃傷沙汰でこそ無いが、いつ誰がキレるとも分からない一食触発の雰囲気に、思わずガンモと顔を見合わせ、お互いの感情を確認。
「どうなってるの?」
「どうなってんだ?」
「いや、なんでこんな過疎地にこんなに人が集まるのさ」
「こっちが聞きたいんだよ。おかしいだろ。この前まで閑古鳥の鳴いてる鉄具屋だったぞ」
「そりゃ直接【組合】に仕事を請けに行ってるからで、プレイヤーでもなきゃ一人一人の注文なんて無いからだ」
「じゃあ、この人だかり皆プレイヤーですか?なんで?」
「あっ!あれじゃないか?この前のイベントで優勝したから!」
「そう、それだな。うちは鉄製品しか作ってないってのに、なんかミスリルで剣作れだのと、居酒屋で高級フレンチフルコースでも頼むのかって話だろ」
「ああ、それはおかしいですよ。鉄具屋で鉄製品を頼まないって、八百屋で魚買うようなもんですよ」
「ってさっきからアンタ何者だ?」
ガンモに言われてみると、確かにさっきから髭モジャのサングラスの怪しい人物が話しに加わっていた。
「いや、俺だよ、俺」
「オレオレ詐欺?」
「いや!クラー……むぐぐぐ」
髭モジャの人物に口を押さえられるガンモ。
「うん、この場でその名前出したらどうなるか分かるよな?」
自分とガンモは揃って頷き、どうしたらいいか視線で問いかけると、
「まあ、ここじゃ何だ静かな場所に移動しようぜ」
との事なので、髭モジャの人物についていき、閑静で雰囲気のある喫茶店に入る。
喫茶店かと思ったら、お酒もあるし、食事も出来る。コレはなんと言うお店なのだろうか?
仮にカフェ&バーとでもしておこうか、閑静で濃いこげ茶色の木を主体とした内装や家具がしっとりと落ち着いた雰囲気をかもし出すカフェ&バー……。
バーかカフェのどっちかなのに、なんで食事まで出るんだ?サービスが行き届いてる!
カウンターに一人ヒトが座る他は空いた店内、一番奥の角席に陣取り、それぞれ飲み物や食べ物を適当に頼んで髭モジャの人物が変装を解くと、案の定クラーヴンさんだ。
「ふぅ、落ち着いたぜ。変装しなきゃ外も歩けないんだから困ったもんだ。別に何も悪い事してないんだがないっそ指名手配犯の気分ってやつだな」
「お疲れ様です。やっぱりこの前のイベント優勝の影響なんですか?」
「そりゃそうだろ?ソタローだってあの隊長の影響でこのゲーム始めたんだろ?それにしてもなんか皆熱気がおかしかったけど」
「それなんだよな。なんか初めは生産職がどうやったら等級とか評価上げられるのか聞いてくる位だったから、沢山作るしかないんじゃないか?って答えてたんだが、次第に注文が増えてな」
「あ~、剣作ってくれ、槍作ってくれだけなら、なんとでもなるでしょうけど……」
「素材の指定やら、装備につく効果の指定やら……」
「それなんだよな。鉄具屋に鉄以外のもの頼むなっての」
「まあ優勝の効果でお客さんが増えるのは分かるんですけど、なんか熱気が異常じゃなかったですか?」
「ああ、確かになんか皆殺気だってたな。まあ俺だって少しでもいいもの装備したい気持ちは分かるけど」
「なんか知らんが、作る物の等級が皆低いんだよな。それに加えて誰が言いふらしたのか隊長の装備も俺が作ってるってばれてな」
「前回と今回の優勝の貢献者がクラーヴンさんだと、思われたのか。でもその等級が低いってのは?」
「アレじゃないか?試行回数。鉄はこの辺りだと山ほど手に入る素材だから、好きなだけ剣でも何でも作れるし、その分熟練度も上がるけど、他じゃ剣一本分の金や銀を集めるだけでも一日がかりだ」
「そんな物なのか?【帝国】でなら鉄鉱石なんて二束三文だし、精製して銑鉄にして、そこから更に調整して鋼鉄の包丁でも何でも作れば、いくらかは利益になるし、なんなら一日100本でも作れるがな?」
「100本……」
「そりゃ試行回数が桁違いどころじゃ……」
「ああ!安心しろ!ソタロー君の剣は一日掛けて腕によりを掛けて作ったからな!」
「イベントトッププレイヤーのよりとは???」
「……!ところで話は変わるけど、クラーヴンさんが店出てたら、今あの騒ぎの相手はNPCがしてるんですか?」
「いや!うちの連中は速攻で奥に引っ込んだ!だから今相手してるのはマリーとカーチだ」
「マリー?カーチ?」
「聞いたこと無いな?」
「ああ、【商人】プレイヤーで生産職から武器を買い上げて売ったり、オーダーメイドの仲介を仕事にしてる連中だ。なんかある時隊長から聞いたって、うちに来てな。今回みたいな我侭放題言う奴らの相手は任せろって言うんで、任せたわけだ」
「へ~そんなプレイの人もいるんですね~……」
「そういや!ソタロー!お前もクラーヴンさんに頼みたい事あったろ!」
「なんだなんだ?装備の事なら話は聞くぞ?」
「いや、忙しいのに悪いですよ」
「言っておいて時間がある時に何とかしてもらえばいいじゃんか」
「そうだな、どんな用なのか聞いてみないことには分からんしな」
「ああ、いや。装備が重すぎて雪に埋るので、軽量化と雪に沈まない靴の改良をお願いしたいと……」
「まああの【帝国】所属として雪の上歩けないとか一大事だなと」
「なるほどな!プレートメイルはプレイヤー用に作った事なかったから、そこまで気が回らなかったぜ!分かった調整承ろう!」