36.報酬と再会
翌朝はチータデリーニさん一家と熊鍋をつつく事になった。
何しろ大量の肉が手に入ったらしく、鍋もかなり豪快なサイズだったが皆よく食べる。
自分もコレから雪道を帰らなければならないし、十分に食べて補給しておかねば!
「しかしこうやって料理ができるといいですよね」
「ん?ソタローは料理出来ないのか?【兵士】をやってたら【料理番】位やらされるだろう。何しろ遠征先での自炊は基本中の基本だからな。よっぽど不器用じゃなきゃ誰でも出来るぞ」
「一応勉強中ですが、まだろくに作れなくて、今回は料理長の調味料をもらう為にこの仕事を請けたんです」
「なるほど、あの瓶があれば基本の料理くらいは簡単に出来るし、便利だよな。それなら俺からも大した物じゃないが……ほれ」
席を立ったチータデリーニさんが、棚から取り出すのは何かの本。
「これは?」
「コレは俺がまだ色々行軍してた時に食べてた物のレシピだ。砦勤めになってからは使わなくなっちまったが、屋外でも簡単に作れるような物が書いてあるから生かすといい」
「いいんですか?貰ってしまって?」
「いいぜ、別に中身は覚えてるし、まだまだ未熟な頃に念の為に書いて残しておいた物だからな」
中身はゲーム内の謎の文字で書いてあるから、後で<言語>をセットして確認してみよう。
「料理長の任務で来たのに色々と良くして貰って、ありがとうございます」
「いいっての、世話になったのは、こっちなんだからよ。まあ何だ【兵士】として助言するなら、まずはもっと環境と自分の体に合った防具を探した方がいいぞ。力はカピヨンに習ってるだけあって十分だから、そろそろ対人戦やって打ち合う技術を磨いた方がいい。後は戦闘以外も大事な事はいっぱいあるからちゃんと満遍なく任務を受けろよ」
「ありがとうございます。心して任務に当たります」
「じゃあ、体に気をつけてな。俺は大体いつも【黒の砦】にいるから何かあればたずねて来い」
そう言って、チータデリーニさんは先に任地に帰っていったので、自分もお暇して【古都】へと帰る。
お土産にと眠熊の毛皮までもらえるのだからありがたい。
雪の浅い所は重装備で、雪深い場所は装備を外して、テクテクと……。
やっと【古都】に辿り着いて思わず出た言葉は、
「あ~疲れた~」
だけだった。雪の中を歩くのがこんなに大変だとは思わなかった。
【古都】周辺を【巡回】して慣れたつもりが、この辺りはまだちゃんと雪が整備されていたんだなと、
村や町を回った時もNPCが道を選定してくれていたんだろうなと、気がつけただけでも良かったか。
前に荷物を西から東へ東から西へと運ぶだけで【士官】になったヒトがいると聞いたが、そりゃなるよ。
普通じゃ絶対無理。ルークが前に散々歩かされて、あの頃に戻りたくないって言ってたけど、今なら気持ちがよく分かる。
一先ず、料理長の所に行き、結果報告と報酬の赤い瓶、青い瓶を受け取り、コレで料理が出来る!レシピ本も貰ったし、ちょっとづつ試してみよう。
でも今は疲れているので、食堂で食べるけどさ。
普通のパンとジャガイモと燻製肉の炒め物に野菜スープって言う献立、素朴だがほっとする胃に優しい味だ。
食べ終わってすぐに次の任務をするには自分の気持ちが疲れている。
そう、ゲームなので別に体は何とも無いが、中々進めない永遠の雪を進み続ける事で削られた心は回復してない。
まずはクラーヴンさんの所で、装備調整依頼か……、都内のゴドレンの店に向かう途中、一番最初ログインした時に立っていた広場を通り抜けると、
白いドラゴンの彫像の前にガンモが立っていた。
「いつの間に戻ってたの?」
「おう!ソタローか!その様子だと生命力の方は何とかなったみたいだな」
「うん、自分だけ戦闘繰り返すだけの役で申し訳なかったなって後から思ったけど」
「何言ってんだよ。タンクの能力はパーティの生存率を左右するものだぜ」
「そうなの?」
「分からんけど、多分そうじゃないか」
「ところで、こんな場所で何してたのさ?」
「いや、ドラゴンの像がこんなに堂々と晒されてるんだから、このゲームにもいるんだろうなって思ってさ」
「ああ!でも恐竜みたいなのはいるじゃん」
「アレは恐竜だろ。ファンタジーって言ったらドラゴンじゃないか!まあよっぽどのレアボスか、なんならストーリーの進行上出てくる伝説的存在とかかもな」
「なるほどね。いつか会えるといいな」
「じゃあ、ドラゴンに会うのを目標にしようぜ」
「目標?」
「おう!このゲームって邪神勢力と戦う以外コレと言って目的がよく分からないじゃないか。だからドラゴンに会うのを一つの目標にするのも面白いかもしれないなってさ」
「確かに!ドラゴンを倒すとか言って、味方だったら困るし」
「そうそう!こんな広場に飾ってるんだし、味方の可能性も十分あるって!」
そうしてガンモとの再会でお喋りに華が咲いたが、
「ところで、ニャーコンとシラッキーは?」
「もうそろそろ、って所じゃないか?ソタローは準備できてるんだろ?」
「一応、装備の調整をお願いしようかと思ってたんだけど」
「なんか不具合か?」
「うん、この装備だと重量がありすぎで、雪道で沈んじゃうんだ……」
「ぶはっっ!何だそれ!ちょ……おま……、そうかそりゃ一大事だな【帝国】プレイヤーとして……ゆ、雪にしず、沈むのは困るな」
「だから軽量化と雪を歩きやすいような脚部装備にしてもらおうと思って、クラーヴンさんの所にいく途中だったんだよ」
「そういう事か!俺も一度会ったけどなんか悪い人じゃなさそうだし、行ってみようぜ!」